サントリーの商品ラインナップ。
撮影:三ツ村崇志
サントリーは1月6日、2022年の国内酒類事業の事業方針について記者会見を開催。
サントリーBWSの鳥井信宏社長は、国内の酒類市場について、
「緊急自体宣言などの措置が続いたことで、飲食店における業務用ビールの需要は2020年に続いて減少しました。また、酒税法の改正によって減税されたビール缶市場は二桁増。一方で増税されることになった新ジャンルでは前年割れとなりました」
と振り返った。
また、コロナ禍などの予想できない外部要因、消費者ニーズが多様に変化を遂げていくなかで、よりスピーディーな組織運営を目指し、2022年7月に現在のサントリーBWSを中間持ち株会社とする体制を一新する。サントリービール、サントリースピリッツ、サントリーワインインターナショナル、サントリー酒類を統合し「サントリー株式会社」を設立する方針を示した。
業務用ビール市場、2019年の水準に戻るかは「クエスチョン」
左からサントリーBWS副社長の山田賢治氏、鳥井信宏社長、サントリービールの西田英一郎社長。
撮影:三ツ村崇志
2021年は、1年の大半で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などのコロナ対策が適用されていた。飲食店の営業自粛や時短営業、さらには酒類提供の禁止などが重なったことで、酒類業界の影響は2020年と同様に大きかった。
2021年の業務用ビールの売り上げは、コロナ禍1年目の2020年からさらに減少。市場全体では77%、サントリーは75%と落ち込みが激しい。
また、冒頭の鳥井社長の発言にあったとおり、2020年10月には酒税法が改正されたことで、いわゆる「第三のビール」と言われる新ジャンルが増税。2021年の販売数は前年割れするなどの影響も受けた。
一方で、コロナ禍による宅飲み需要の増加や「糖質オフ」などの健康志向商品への注目度の高まりが2020年から継続。さらに酒税法の改正による「ビール」の減税が重なったことで、スーパーやコンビニなどで購入できるビール缶の販売数は市場全体で前年比113%。サントリー単体では126%と好調だった。その他のRTDやノンアルコール商品などについても堅調に推移しており、激しい変化のなかで多様なジャンルの製品が売れていく構図となっている。
業務用ビールの販売推移
撮影:三ツ村崇志
サントリービールの西田英一郎社長は、2022年のビール類市場のポイントは「業務用の回復」「健康意識の拡大」「消費の二極化」の3点だと指摘。
2021年10月以降、全国的に緊急事態宣言が解除されると、飲食店における業務用のビール需要が明らかに回復基調を見せている。
「10月以降の3カ月は、(出荷数は)2019年比で60%程度と安定的に推移しています。予断が許されないことに変わりはありませんが、2022年は一時に感染の拡大があったとしても、年間としては緩やかに回復すると見込んでいます」
と目下オミクロン株の感染が懸念される現状ではあるものの、大きく減退していた業務用ビール市場の回復に期待感を述べた。
また、業務用ビール市場の回復にともない、宅飲み使われる金額が弱まる傾向が進むと想定されるとしており、缶ビール商品でも「たまに飲むならちゃんとしたもの」を求める需要が高まってくるとしている。
業務用市場の回復や需要変化に向けて、春までに複数の新商品を投入する予定も発表した。
居酒屋飲みの需要はもとに戻るのか?
2022年の販売計画。業務用ビールでは大きく販売数を伸ばす計画ではあるものの、2019年と比較すると5〜6割だという。
撮影:三ツ村崇志
サントリーの2022年の販売計画では、業務用ビールの販売数は2021年比で131%と挑戦的だ。
西田社長は
「緊急事態宣言下では、東京や大阪、全国チェーンを持つ居酒屋が大きな打撃を受けていました。ほかの飲料メーカーと比較して、サントリーはその割合が実は高いんです」
と、コロナ禍において打撃が大きかった分、回復基調にあるなかでの販売数の増加幅にも期待を述べた。
一方で、コロナ禍を経て、私たちのお酒との付き合い方も変わってきているのも事実だ。
複数の調査で「会社の飲み会がなくなってよかった」と感じる人が一定数いることが分かるなど、この先仮にコロナ禍がある程度収束したとしても、コロナ以前なら「なんとなく」参加していた飲み会への参加を見送るケースも増えそうだ。
そう考えると、業務用ビールの販売数が2019年以前の水準に戻ることはそう簡単ではないように感じられる。
業務用ビールの販売数がコロナ以前の水準戻るのはいつごろになるのか、Business Insider Japanからの質問に対し、西田社長はあくまでも個人の見解とことわりながらも、
「戻って欲しいのですが、本当に戻るのかはクエスチョンです」
と業務用ビールの需要が回復基調になったとしても、コロナ以前の水準まで戻ることはそう簡単ではないとの見方を示した。
だからこそ、さまざまなジャンルの製品や健康嗜好商品、ノンアル製品などの商品バリエーションを増やし、消費者のさまざまなニーズに対応していこうというわけだ。
また、単なる商品需要だけではなく、サントリーとしても新しい飲み方やお酒を飲める人と飲めない人が一緒に楽しめる文化形の形成を進め、年内にも「イノベーティブな取り組み」(鳥井社長)を発表するとしている。
(文・三ツ村崇志)