日米「臨時の攻撃用軍事拠点」「共同作戦計画ゴーサイン」合意も、世論の反応薄。これは“戦争シナリオ”なのに…

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台湾国防部は新年早々、軍事演習を報道陣に公開。上写真は市街地戦を想定した演習時のもの。

REUTERS/Ann Wang

正月休み明けの1月7日、日本とアメリカの外務・防衛担当閣僚による安全保障協議(2プラス2)が開かれた。

「台湾有事」の初期段階で、米海兵隊が自衛隊とともに沖縄など南西諸島に臨時の「機動基地」を置き、中国艦船の航行を阻止する「共同作戦計画」にゴーサインを出した。

南西諸島を戦場化し、住民まで戦闘に巻き込まれるリスクが高いシナリオだけに、同計画について問われた林外相は「相手があるので……」と口ごもった。

「台湾有事」と「共同作戦計画」

「共同作戦計画」は、米軍から自衛隊への提案をもとに水面下で共同研究が続けられ、2021年12月に共同通信がその原案をスクープした。

冒頭の2プラス2が成果文書としてまとめた「共同発表」には、共同作戦計画に直接触れた表現は盛り込まれていない。

しかし、「同盟の役割・任務・能力の進化および緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎」との記述がある。

林外相と岸防衛相は閣議のあとの記者会見でその内容を問われ、先述のように「相手があるので、差し控える」と口ごもった。

それでも、日米の軍事専門家は「この記述に共同作戦計画が含まれるのは間違いない」と口を揃える

(作戦計画の前提となる)「台湾有事」が切迫しているという見立ては、バイデン米政権誕生後の2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が公聴会で、中国が台湾に「6年以内に軍事侵攻する可能性」に言及したのが発端だった。

その直後(3月16日)に開かれた2プラス2の共同発表と、翌4月に行われた日米首脳会談の共同声明には、いずれも「台湾海峡の平和と安定の重要性」が盛り込まれ、日米安保の性格を「対中同盟」に変え、同時に自衛隊の軍事力強化をうたった。

日米による「共同対処」に踏み込んだ

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2021年5月に東富士演習場(静岡・御殿場)で行われた陸上自衛隊の実弾演習の様子。台湾有事に際して、米軍と自衛隊は「共同で対処」する合意に達したものと日米の専門家はみている。

Akio Kon/Pool via REUTERS

2プラス2が1年足らずのうちに2回開かれるのはきわめて異例だ。

前回(2021年3月)の共同発表は、対中政策について「(中国の)安定を損ねる行動に反対」とされたが、今回は「かつてなく統合された形で対応するため、戦略を完全に整合させ」「安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力」という踏み込んだ表現に変わった。

さらに今回は、岸田首相がこだわる「敵基地攻撃能力」の具体化に加え、中国とロシア、北朝鮮が開発を加速する「極超音速ミサイル」への共同対応まで打ち出した。

ここで、林外相が口ごもった「共同作戦計画」の内容について、やや長くなるが、共同通信の記事からあらためて(原案の)概要を紹介しよう。

  1. 台湾有事の緊迫度が高まった初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら、鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点(以下、拠点)を置く
  2. 拠点の候補は、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、配備予定の石垣島を含む約40カ所
  3. 米軍が拠点を置くのは、中国軍と台湾軍の間で戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と日本政府が認定した場合
  4. 対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を拠点に配置。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給など後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇の排除に当たる。事実上の海上封鎖になる
  5. 台湾本島の防衛ではなく、部隊の小規模・分散展開を中心とする米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦(EABO)」に基づいて共同作戦を展開する

2021年5月時点で示されていた「シナリオ」の存在

上述の記事の冒頭、共同通信は「住民が戦闘に巻き込まれる可能性が高い」と指摘している。

2プラス2による共同発表の直後、沖縄県の玉城デニー知事が「米軍による自衛隊施設の共同使用が重なると、非常に大きな不安を抱える。共同使用はやるべきではない」と即座に反対を表明したのも当然のこと。

日米の移動基地になる軍事拠点候補40カ所はほとんどが有人島で、それらが中国のミサイル攻撃の目標となり、戦場化するのは明らかだからだ。

実は今回の共同発表で示されたシナリオは、日米関係に詳しい国際政治学者で米ジョージ・ワシントン大学準教授のマイク・モチヅキ氏が2021年5月末時点で筆者に明らかにしたシナリオと重なる。

モチヅキ氏が示したシナリオのうち、対日要求に関する部分をあらためて紹介しておこう。

  1. 在日米軍基地への自由なアクセスと自由使用
  2. 日本領土内での積極的後方支援(物資・燃料補給、日本の民間施設へのアクセス)
  3. 在日米軍基地の強化、兵器の迅速な修理と機動能力向上を通じた、「アメリカによる接近阻止戦略・戦術」の支援
  4. 南西諸島での中国艦船の通過阻止とミサイル配備、台湾島しょ部の防衛と情報収集・警戒監視・偵察活動など、自衛隊の防衛力強化
  5. アメリカの軍事戦略・戦術を直接的に支援する自衛隊の活動(対潜戦、軍用機支援、機雷掃海、台湾付近での水陸両用揚陸の支援)

上記4の前段「南西諸島での中国艦船の通過阻止とミサイル配備」が今回の共同作戦計画に当たり、後段に出てくる「台湾島しょ部の防衛」についても、米軍は自衛隊および台湾軍と協力して計画を策定中と考えられる。

戦闘前提のシナリオ策定は「外交的な敗北」

筆者は従来から、台湾有事の「切迫論」に否定的だった。

その理由として、(1)米中の総合的な軍事力差は大きく、中国軍は勝てない(2)台湾住民は統一を望んでいない(3)軍事力行使は厳しい制裁を招き、共産党支配体制を動揺させる、という3点を挙げてきた。

しかし、米軍制服トップも有事の切迫を否定しているにもかかわらず、安倍晋三元首相は2021年12月、台湾のシンクタンクが主催したフォーラムで「台湾有事は日本有事であり、日米有事」と発言し、有事対応を急ぐよう迫っている

メディアも相変わらず有事切迫をあおっているし、日米安保の変質を目の当たりにしながら、野党もまったく反対していない。中国脅威論はほぼ「大政翼賛」状態で正当化されている。

以前の寄稿でも指摘したように、日米両当局者が揃って有事切迫をあおる背後には、以下のような3つの政治的意図があると筆者はみている。

  1. 台湾問題で従来「脇役」だった日本を米軍と一体化させ「主役」にする(その枠組を構築する)
  2. 南西諸島のミサイル要塞化を加速、米軍の中距離ミサイル配備に向けた地ならしを進める
  3. 北京を挑発し、容認できない「(武力行使の)レッドライン」を探る

(米軍にせよ自衛隊にせよ)制服組が最悪のシナリオを想定して作戦を練るのは当然という見方もあり、それは確かに一理ある。

とは言え、戦闘状態を前提にして「有事シナリオ」を策定するのは、外交的な敗北との誹(そし)りを免れない。

有事に発展する前に対話と相互理解を進めることこそ、外交の役割だからだ。

外交の出番

菅政権、岸田政権とも、対米機軸を中心にした外交に偏重し、中国との対話と相互理解を推進する努力はあと回しにしてきた。

福田康夫元首相は1月7日の民放番組に出演し、尖閣諸島の国有化(2012年9月)によって悪化した日中関係を打開するため、2014年に2回極秘訪中して習主席と会談し、それが同年秋の安倍訪中実現につながったと、当時の外交内幕を明らかにしている。

今回発表された共同作戦計画が実行に移されれば、南西諸島で人命が失われるだけではない。犠牲は中国と台湾、アメリカにも及ぶ。「勝者なき戦争」が現実のものになる。

制服組の論理に引きずられてはならない。広がる一方の日中間の認識の隔たりを埋めるため、いまこそ特使派遣を含めた外交が求められている。

(文・岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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