空中ライドシェアサービス向けに全電動式垂直離着陸機(eVTOL)を開発するジョビー・アビエーション(Joby Aviation)。同社を筆頭にスタートアップが激戦をくり広げている。
Joby Aviation
電動航空機産業の歴史は浅いものの、燃料コスト(または燃料消費)の削減とかつてなく厳しい温室効果ガス排出規制への対応を迫られる商業航空会社の動きにけん引され、急速な成長を遂げている。
米調査会社マーケッツアンドマーケッツ(MarketsandMarkets)によれば、電動航空機のグローバル市場は2021年に79億ドル(約9000億円)、2030年までに3倍超の277億ドル(約3兆2000億円)に達するという。
電動航空機メーカー各社は少なくとも2つの大きなチャンスを狙っている。
商業航空では、世界の全フライトの45%を占める500マイル(約800キロ)以内の短距離路線向けに使われている、大型で高価かつ燃料を食うジェットの代替として、電動航空機に期待が寄せられている。
英オックスフォード大学が運営するサイト「アワ・ワールド・イン・データ(データで見る私たちの世界)」によれば、航空部門は世界の温室効果ガス排出量の約1.9%、二酸化炭素(CO2)排出量の約2.5%を占め、電動航空機の導入は大幅な排出量削減に寄与する可能性がある。
また、ピッチブック(PitchBook)が2035年までに1509億ドル(約17兆3500億円)規模にふくれ上がると予測する「空飛ぶタクシー」にも注目が集まっている。
空中ライドシェアサービスに使う電動航空機は都市におけるモビリティの未来を担うと考えられており、その開発をめぐっていくつものスタートアップがしのぎを削っている。
同時に、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達競争も激化している。
スタートアップ分析企業のトラクション(Tracxn)によれば、2021年12月時点で世界には106社の電動航空機メーカーが存在する。
資金調達力の高いスタートアップの大半はカリフォルニア州はじめアメリカに本拠を置く。ほかに中国やドイツに拠点を置くスタートアップもある。
ピッチブックによると、電動航空機メーカーに対するVCからの出資案件は2020年に24件、総額11.7億ドル(約1350億円)。翌21年は41件、11.3億ドル(約1300億円)となっている。
電動航空機の開発はコストフルなビジネスで、機体の設計から開発、製造、テストまで多額な資金調達が必要になる。VCから最大限の資金を調達できなければ、急成長を遂げる産業でチャンスをつかまえて成功に結びつけるのは難しい。
以下では、潤沢な資金調達に成功している電動航空機スタートアップ「トップ10社」を紹介しよう。
【第1位】ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)
- 調達額:14億ドル(約1600億円)
現最高経営責任者(CEO)のジョーベン・ビバートが2009年に創業。本拠は米カリフォルニア州サンタクルーズ。空中ライドシェアサービス向けに全電動式垂直離着陸機(eVTOL)を開発。過去10年間で1000回以上のテストフライトを実施。米連邦航空局(FAA)からの形式証明承認が得られれば、2024年にも商業運航を開始する計画。
【第2位】ベータテクノロジーズ(Beta Technologies)
- 調達額:4億2560万ドル(約490億円)
現CEO兼リードテストパイロットのカイル・クラークが2012年に創業。本拠は米バーモント州サウスバーリントン。旅客および貨物輸送向けeVTOL「アリア(ALIA)」を開発中。米物流大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は同社からの電動航空機10機の購入に合意(150機超のオプションあり)、荷物配送ネットワークの高速化と簡素化を進めるとしている。UPSによれば、初号機の納品は最短で2024年。
【第3位】リリウム(Lilium)
- 調達額:3億9150万ドル(約450億円)
ダニエル・ワイギャンド(現CEO)、セバスチャン・ボーン、パトリック・ネイサン、マシアス・マイナーの4人が2015年に設立。本拠はドイツ・ミュンヘン。持続可能な高速エアトラベルの実現を目標に掲げる。7人乗りeVTOL「リリウムジェット(Lilium Jet)」を開発し、2021年8月には南米のアズール・ブラジル航空(Azul Brazilian Airlines)と最大総額10億ドル(約1150億円)、220機の供給契約を締結。
【第4位】ボロコプター(Volocopter)
- 調達額:3億7780万ドル(約435億円)
アレクサンダー・ゾーゼルとステファン・ウルフが2011年に創業。本拠はドイツ・ブルッフザール。現CEOはフロリアン・ロイター。アーバン(都市型)エアモビリティを開発し、「空飛ぶタクシー」サービスの展開を目指す。数年以内にパリとシンガポールで商業運行を開始予定。発着ポート「ボロポート(VoloPort)」や貨物輸送向け「ボロドローン(VoloDrone)」の開発も同時に進める。
【第5位】ゼロアヴィア(ZeroAvia)
- 調達額:1億100万ドル(約115億円)
現CEOのヴァレリー・ミフタコフが2017年に創業。本拠は米カリフォルニア州ホリスター。既存の航空機に後づけ可能な水素燃料電池推進システムを開発。クリーンかつ持続可能な商業航空の実現には、水素燃料電池パワートレインが最適な手段と同社は位置づけている、2024年までに商用プロダクトを市場投入し、2040年には定員200名超の航空機に搭載した商業運行を目指す。
【第6位】オートフライト(AutoFlight)
- 調達額:1億ドル(約115億円)
現CEOのティアン・ユー(田瑜)が2017年に創業。本拠は中国・上海。電動航空機による大量旅客輸送の実現を掲げる。2021年10月に処女飛行を成功させた旅客輸送自動運転機をはじめ、旅客用と貨物用のeVTOLを複数開発してきた。
【第7位】エピルス(Epirus)
- 調達額:9060万ドル(約105億円)
グラント・フェアスタンディグとボー・マーが2018年に創業。本拠は米カリフォルニア州ロサンゼルス。ドローンなど無人航空機システムへの防空対処策としての高出力マイクロ波技術を開発し、米政府との協力のもと軍事利用を進める。同技術を空港の安全確保など商業利用向けにも提供していく計画。
【第8位】キティホーク(Kittyhawk)
- 調達額:7500万ドル(約85億円)
現CEOのセバスチャン・スランが、グーグル共同創業者のラリー・ペイジから支援を受け2010年に創業。本拠は米カリフォルニア州パロアルト。遠隔操作可能な1人乗り電動航空機を開発中。遠隔操縦システムと機体設計の工夫によってコストを削減し、実用的な料金で利用できるエアタクシーを実現する。すでに100機以上を開発・飛行させ、現在はフル充電時で最高時速180マイル、航続距離100マイルという「H2」の飛行テストを行っている。
【第9位】バイ・エアロスペース(Bye Aerospace)
- 調達額:5600万ドル(約65億円)
ジョージ・E・バイが2007年に創業。本拠は米コロラド州イングルウッド。パイロット訓練用の電動航空機「イーフライヤー(eFlyer)」を開発する。2人乗り、4人乗り、8人乗りバージョンがすでに完成済み。パイロットを目指す学生が訓練から途中脱落する主な理由は燃料費であるとし、電動航空機によるリプレースで負担低減を実現しようとしている。
【第10位】イーハン(EHang)
- 調達額:5200万ドル(約60億円)
フー・ファージ(胡華智)が2014年に設立。本拠は中国・広州。旅客用、貨物用のいずれにも使える2人乗り自動運転(自律型)航空機「EHang 216」を開発。「安全な自動運転エアモビリティをすべての人が利用できるようにする」をミッションに掲げる。
(翻訳・編集:川村力)