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コロナで加速した「ポスト資本主義」の流れ。地方と都市の新しい関係とは

BEYOND MILLENNIALS 2022 Next Commons Lab Atsushi Hayashi

「ローカルコープは、どう生きていくのかという問い」だと話す、ネクスト・コモンズ・ラボの林さん。

撮影・伊藤圭

社会課題の解決に取り組むミレニアル世代を応援するBusiness Insider Japan主催のアワード「BEYOND MILLENNIALS(ビヨンド・ミレニアルズ) 2022」が、1月24日(月)からスタートする。

Business Insider Japan編集部と共に受賞者の選考を行っているのが、受賞者と同じく社会課題の解決に突き進む5人のアドバイザリー・ボードだ。

住民一人ひとりの手に「自治」を取り戻し、コミュニティを再構築する新たな社会OS(基盤)「ローカルコープ構想」の実装を進める、一般社団法人Next Commons Lab(ネクスト・コモンズ・ラボ)のファウンダー兼代表理事の林篤志さんに、地方社会で起きている変化について聞いた。


林さんが地方に目を向けるようになったきっかけは、2011年の東日本大震災だった。

都市部への一極集中や経済のあり方に疑問を抱いた林さんは、東京を離れ人口わずか1000人ほどの高知県土佐山村(現・高知市土佐山地区)に移住。林さんや住民が講師となり、全国から受講生を集めて土佐山での暮らしを学ぶ「土佐山アカデミー」を立ち上げた。

それから5年後の2016年、「ポスト資本主義社会の具現化」を掲げてネクスト・コモンズ・ラボを設立する。

以来、過疎化が進む地方の資源や課題を「ビジネスの種」として可視化し、起業に挑戦する人材をマッチングさせる「ローカルベンチャー事業」を手がけてきた。

この事業では、総務省の「地域おこし協力隊」制度を活用し、主に都市部から10数人の起業家を全国各地に誘致。3年間のインキュベーションプログラムとして、現地に常駐するネクスト・コモンズ・ラボのコーディネーターが中心となり、起業家たちの事業立ち上げと生活の公私両面に伴走する。

これまでに、ローカルベンチャー事業の導入自治体は延べ13カ所を数え、100以上のビジネスを生み出してきた。

時代の潮目が変わってきた

林さんがここ1〜2年で実感しているのは、「時代の潮目が大きく変わった」ということだ。

大企業からの相談も増え、問い合わせをしてくる担当部署も変わった。以前はCSRや社会貢献といった部署からだったが、今は新規事業開発やCSV(共有価値の創造)、サステナビリティ関連の部署からがほとんどだという。

自治体が求めることも明らかに変化してきた(以下、コメントはすべて林さん)。

移住や観光による地方創生的な相談ももちろんありますが、最近増えてきたのが『自治体の機能を縮小したい』という話です

少子高齢化や人口減少による税収減や社会保障費の増大など、自治体の財政基盤は悪化の一途をたどっている。

加えて、コロナや気候変動といった世界的な課題が大きく影響。企業が従来の事業領域で利益を出せなくなり、自治体は地方創生といった既存の制度や発想だけでは財政の見通しを立てられなくなってきた。

今までの文脈や枠組みで対応できる状況ではないと、自治体、企業が明確に認識し始めたんだと思います

BEYOND MILLENNIALS 2022 Next Commons Lab local

地方では「自治体の機能を縮小したい」というニーズが増えているという。

Shutterstock.com

ローカルコープは「第2の自治体」

そうした変化を踏まえ、目下、ネクスト・コモンズ・ラボが牽引する共創プラットフォーム「Sustainable Innovation Lab(サステナブル・イノベーション・ラボ)」を通じて力を入れているのが、新しい社会OS「Local Coop(ローカルコープ)」構想の実現だ。

「自治体の『自治』は『自ら治める』と書きますが、実際には私たちが自ら治めているわけではありませんよね? 自治をいわば“アウトソース”し、私たちはそのシステムに乗っかって傍観しているというほうが現実に近いのではないでしょうか」

昭和の高度経済成長期まではそれで十分だった。

しかし、新たな社会課題が次々と噴出していくなかでシステムのほころびが目立ち始め、もはやどこをどう繕えば全体がうまく機能するのか分からない状態にまで陥っている。

そんな社会のシステムを根本から見直し、再構築しようというのがローカルコープ構想だ。

「今の“メインシステム”である自治体の外に、第2の自治体的な役割を果たす『住民共助による自治機構』をつくり、地域に必要な機能や仕組みを住民自らが考えて決定し、社会に実装していくという構想です」

自治機構は非営利型を含む、支配権を分散させた組合型の法人として、住民の出資と参画によって各地に設立。民間企業などのサービスやテクノロジーを持続的なエコシステム(地域社会)の一部として組み込み、地域経済を回していく。

これにより、エネルギーや住環境、教育、食、自然環境、交通など、これまで自治体に任せ切りにしていた事業を、住民自らが実装し、運営していくことを目指している。

BEYOND MILLENIALS 2022 Next Commons Lab Atsushi Hayashi

ローカルコープは、テクノロジーやサービスが“プリインストール”されている「ベーシックサービス」「ベーシックアセット」のような位置づけだという。「それぞれの地域に合わせてアレンジすることで、自分たちの手で生活を作り上げていけるイメージです」(林さん)。

撮影・伊藤圭

「リノベ」ではなく、新しい仕組みをつくりたい

ローカルコープ構想の発端は、林さんが地方で活動するなかで味わった虚無感だったという。

「自分の関わった小さな地域は少し変化したかもしれない。でも、社会は全く変わらない。どんなに希望を抱いても、どんなにコツコツ頑張っても、日本の社会は何も変わらないじゃないか、と」

林さんは、「今の社会で行われていることの多くは、リノベーションに近い」と話す。

「天井や壁をぶち抜いたり、壁紙や板を張り替えたりすれば、ある程度雰囲気のある空間になります。でも、柱の位置は変えられない。構造を変えるのは容易ではないんです。

社会も家と同じです。今ある社会システムを変えることはもちろん大事なんだけれど、自分たちは別のところで新しい仕組みをつくりたい。社会課題が生まれない構造をつくることに挑戦しなきゃいけないと思ってやってきました

既存の制度をハックする

ローカルベンチャー事業の実績のなかで特に目を引くのが、(地域おこし協力隊の)任期終了後の4年目以降も、地域に深く携わりながら事業を継続している起業家が6割以上に上っているという点だ。

協力隊制度を活用する自治体では、自治体やその関係機関などが推進する事業に隊員を派遣し、起業する場合は任期終了後に行うケースが一般的だ。その関係もあるのだろう、任期終了後の定住者が6割以上もいるが、起業する元隊員は全体の2割弱にとどまっている。

一方、ネクスト・コモンズ・ラボのローカルベンチャー事業は、同じ制度を使っているとはいえ、起業が前提となっているため、経済的に厳しい創業期を協力隊員の収入でカバーしながら乗り越え、新たなビジネスを地域に根付かせることができる。

「制度をよく調べていくと、『一般的にはこう使われているけど、実はこんなふうにも使えるんじゃないか?』という発想が出てくるんですよね。

もちろん自分たちの勝手な解釈ではなく、例えば、地域おこし協力隊については総務省に細かく確認し、ルール違反にならない範囲で制度を『ハック』する。それを自治体に提案していくのが僕たちのスタイルです」

BEYOND MILLENIALS 2022 Next Commons Lab Atsushi Hayashi

「ローカルコープは、現代人のリハビリテーションのようなもの」と話す林さん。「今の社会は人間と人間が向き合いすぎているんです。人間同士がやり取りして築き上げ、そこから発生した問題を、人間が解決しようとしている。その構造自体を変えないと、多くの問題は解決されないのでは? “地球に住む一生命”として、自然とか動物とか、人間以外ともっと“会話”したほうがいいと思います」。

撮影・伊藤圭

「どう生きていくのか」という問い

既存の制度に新たな発想を組み込む。言葉にするのは簡単だが、極めてタフな作業であろうことは想像に難くない。

「正直、ものすごく手間隙かかります。そこに手間隙をかけたところで収入になりませんし。だから、投資家から資金を調達して、ワン・イシューで起業するというスタートアップが多いし、マスマーケットをターゲットにするんでしょうね」

しかし、林さんは国や自治体のスキームを生かしながら、地方での起業をサポートする道を選んだ。それは、林さんが目指しているのが起業そのものではなく、コミュニティを再構築することにあるからだ。

「地方創生や地方活性化をしたいと思ったことは一度もない」という林さんが、それでも地方にこだわる理由はそこにある。

熱量や能力のある人たちが、どうして東京に集中するのか不思議で仕方ありませんでした。だって、地方には土地が余っているし、豊かな資源がたくさんあるんですよ。でも、その素晴らしさを知らない。知る機会がなかったんです

だからこそ、「地方にアクセスできるインターフェイス」を自分たちでつくり、誰もやらない面倒な部分、しかしコミュニティを再構築するうえで欠かせない根幹を「しぶとくやる」。

それが結果的に、自治体や企業の信頼につながっている。

「マスマーケットの規模が小さくなり、自治体の財政基盤も揺らいでいる。地方に可能性はありそうだけれど、何をどうすればいいか分からない。

その突破口を開いてあげることで、コミュニティの新しい未来をつくっていけると思うんです」

ローカルベンチャー事業を通じて数々の起業をサポートしてきた林さん。ここ1〜2年の変化が追い風となり、長年温めてきた「第2の自治体」をつくるローカルコープ構想がいよいよ、具体的に動き始めようとしている。

第1弾として導入が検討されているのが、奈良県奈良市東部の中山間地、月ヶ瀬エリアだ。2022年3月にオープンするワーケーション施設を拠点に、新たな事業体を立ち上げ、ローカルコープの社会実装を目指す。

「ローカルコープは『どう生きていくのか』という問いなんです。今ある経済や社会の軸に惑わされず、自分たちの生き方を選ぶために主体性をどう取り戻していくのか。そのために必要なテクノロジーが次々と生まれ、社会の情勢も追いついてきました。

ローカルコープという新しい文脈を社会にどう実装していけるのか。これからが本当の勝負だと思っています」(林さん)

(取材、文・湯田陽子、撮影・伊藤圭)


※Next Commons Lab(ネクスト・コモンズ・ラボ)の林篤志さんは、社会課題解決に取り組むミレニアル・Z世代を表彰するアワード&トークイベント「BEYOND MILLENNIALS 2022」(1月24〜28日オンライン開催)のアドバイザリー・ボードを務めています。1月24日(月)には、ノミネートされたファイナリスト20人の中から選ばれた6人の受賞者が登壇するピッチセッションを開催します。詳しくはこちらから。

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