2021年10月にベータ版ながらも日本語に対応したNotion。
撮影:小林優多郎
2021年10月から日本語ベータ版の提供がスタートし、日本でもユーザーが増加中のドキュメンテーションサービス「Notion(ノーション)」。
Wikiやドキュメント、タスク、プロジェクト管理、データベースといったツールを一元化でき、多機能ながらシンプルで使いやすい「オールインワンワークスペース」として、高い注目を集めている。
日本語ベータ版ローンチ直前には、2億7500万ドル(約300億円)という巨額の資金調達を発表。評価額が100億ドル(約1兆1000億円)に到達したことも話題となった。
大きく躍進した2021年を経て、2022年にはグローバル、そして日本でどのようなロードマップを描くのか。2021年6月から同社CRO(Chief Revenue Officer、最高収益責任者)を務める、オリビア・ノッテボーン(Olivia Nottebohm)氏に聞いた。
Notionにとって日本が「ユニーク」な2つの理由
Notion CROを務める、オリビア・ノッテボーン氏。
出典:Notion
Notionのユーザー数はグローバルで2000万人以上。うち約80%がアメリカ外のユーザーだという。「事業の大半がアメリカ外にあるのは、Notionのとてもユニークなところです」とノッテボーン氏。
中でも日本は、Notionにとって重要かつ特別な市場のひとつだと話す。共同創業者のアイバン・ザオ、サイモン・ラスト両氏が、ノーションの開発中に京都に滞在し、そこで得たインスピレーションがソフトウェアのデザインに影響を与えた……というのが、その理由の1つ目だ。
シンプルな外観のNotion。
出典:Notion
そして「日本には、世界でも最大規模のユーザーコミュニティーがあり、製品の機能やロードマップについて、かなり活発にフィードバックやアイデアをもらっている」(ノッテボーン氏)というのが2つ目だ。
もちろん、日本にはスタートアップからエンタープライズまで企業ユーザーが多く、Notionのようなビジネスツールを展開する上で、魅力的な市場だということもあるだろう。
実際に日本のノーションのユーザーコミュニティの熱量は高い。日本語ベータ版ローンチ時にはミートアップも開催されたが、その影響で「Notion」が一時、ツイッターのトレンド6位にランクインしたほどだ。
以降、国内では新規ユーザーが増え続けているほか、エンタープライズを含む企業からの問い合わせも増加しているという。Notionはこの熱狂を、どう次につなげていこうと考えているのか。
資金調達した「約300億円」3つの使いみち
Notionはまず機能拡充に資金を使う方針だ。
出典:Notion
ノッテボーン氏は今後、調達した巨額の資金を大きく3つの分野に投資していくと話す。
1つ目はもちろん、製品をより良いものにしていくこと。
直近では3月に開催予定の自社イベント「Block x Block」で、いくつかのアップデートを発表する予定だという。
「私たちはユーザーに対して、優れた製品を提供し続けることに大きな責任を感じている」とノッテボーン氏。
そのためにもユーザーコミュニティーは、とても重要な存在と考えられている。「彼らとコミュニケーションをとりながら開発を続けることで、製品としての価値を高めていきたい」と話す。
2つ目は企業ユーザーへのサポートの強化だ。
Notionは個人利用なら無料でも始めることができるが、ビジネスを広げていく上では、いかに有料会員を増やすかや、個人ではなくチームや組織での導入を促せるかが鍵となるのは間違いない。
そのためには「(対価に見合う)価値を見出してもらえるようにすることが重要」とノッテボーン氏。価値を感じてもらいやすいように、利用の障壁を低くするため、豊富なテンプレートも用意されている。その多くはユーザーコミュニティーに参加するクリエイターによって提供されているものだ。
製品開発だけでなく、情報提供からトレーニング、テンプレートの提供、コンサルティングのいずれの場面でも、ユーザーコミュニティが深く関わっているのは、彼らの熱量の表れでもあり、Notionの大きな特徴と言えるだろう。
Notionのページではラクスルの事例が紹介されている。
出典:Notion
企業ユーザーを取り込む施策としてはこのほか、スタートアップ向けには500ドル(約5万5000円)以上の使用料を無償提供する「スタートアップ・プログラム」も用意されている。
このプログラムは規模の大小を問わず利用可能。実際にSOMPO Light Vortex(SOMPOホールディングスのデジタル事業子会社)やスマートニュース、ラクスルなど、日本のエンタープライズでのノーションの導入事例も増えている。
エンタープライズに向けた機能性を確保するため「エンジニアリング・チームは、お客様と緊密に連携して、お客様が必要とする機能を開発し、拡張し続けられるように取り組んでいる」とノッテボーン氏。さらにセキュリティ認証として「SOC2 Type2」も取得するなど、基盤も整備されている。
2021年9月にはautomate.ioの買収を発表した。
出典:Notion
2021年9月には、複数のウェブサービスをインテグレーション(統合)できる、 iPaaS(Integration Platform as a Service)の「automate.io」の買収を発表。これも多くのサービスをシームレスに連携したいという、エンタープライズのニーズに応えるための取り組みだ。
「私たちはautomate.ioが持つインテグレーションの技術を高く評価しています。すでに他のサービスのアプリケーションをプレビューできる機能も実装しました」(ノッテボーン氏)。今後も両社のエンジニアが連携しながら、様々な機能を実装していく予定だ。
「最後に勝つ」のは機動的で創造的な企業
3つ目に注力するのは、グローバル展開だ。
ノッテボーン氏は「2022年も引き続きローカライゼーション(現地対応)に注力していく」ことを強調する。すでにローンチ済みの日本と韓国以外の地域でも現地対応を進め、グローバルでの存在感を高めていきたいとする。
日本語の正式版ローンチについては、具体的な時期は未定としながらも「私自身、とても楽しみにしている」とし、日本でも引き続き採用を進め、チームを強化していきたいと話す。
日本語の“ベータ明け”の時期は明言がなかったが、順次対応拡げていく方針。
出典:Notion
販売、カスタマーサクセス、マーケティングに加え、代理店などとの連携も強化する考えで、「チャネルパートナーは、2022年に私たちにとって重要な投資先となる。密接に連携し、日本のユーザーに確実にリーチできるようにしていきたい」という。
最後に、「Notion躍進の背景にコロナがあることは否定できないと思う。収束後の見通しをどう考えているか」と質問をすると、「日本ではコロナ以前から、働き方改革が言われていた」とノッテボーン氏。
実は前職(Google)では、毎年のように日本へ訪れていたという。
「改革のひとつは、働き方をフレキシブルにすること。Notionはハイブリッドな働き方をサポートするツールです。企業がノーションを導入すれば、従業員は働きたい形で働ける。企業は優秀な人材を確保でき、従業員は創造性を発揮できます。最後に勝つのは機動的で創造的な企業でしょう」