Trainualのクリス・ロンジオCEO。
Trainual
- ソフトウェア会社のTrainualは、社員の定着に向けて一風変わったアプローチをとっている。
- 同社のCEOは、新入社員に対して、退職するのであればお金を支給するという制度によって、強い企業文化が維持できるとInsiderに語った。
- 「現金を断り、仕事を続けるのを選ぶことは、彼らにとって大きな力になる」と彼は述べている。
全米で人手不足が続く中、幅広い業種の多くの経営者が、人材の確保と維持に苦労している。
2021年11月には、過去最高となる450万人のアメリカ人が仕事を辞めた。多くの場合、労働条件の悪さや賃金の低さがその要因として挙げられている。
労働者を確保するために、企業は賃金の引き上げ、採用時のボーナスや教育手当の支給などを行い、より多くの人材を集めようとしている。こうした変化があるものの、人手不足は年が明けても続いており、2021年11月に行われた調査によると、雇用主の努力にもかかわらず、この問題は2022年以降も続く可能性があると示唆されている。
しかしある企業は、労働者を見つけ、定着させるための斬新な方法を見出している。
アメリカ・アリゾナ州で中小企業向けに社員の定着、育成、規模拡大を支援するソフトウェアを開発するTrainual社のクリス・ロンジオ(Chris Ronzio)CEOは、新入社員が退職するのであればお金を支給するとInsiderに述べた。この戦略は、業界トップの優秀な人材を確保し、強力な企業文化を維持するのに役立つという。
「今日の採用市場では、応募者を評価して競争力のある採用条件を出すまでのプロセスを迅速に進めなければならず、100%正しい判断をすることは不可能だ」とロンジオは言う。
「退職という選択肢を設定することで、迅速な採用プロセスを補完することができるし、新入社員が仕事をまったく楽しめていないとすれば、彼らはそれを表明することができる」
ロンジオは2020年5月にこのような「退職金制度」を導入した。当初は、入社から2週間後の社員に対し、仕事に納得がいかなくて退職するのであれば2500ドル(約28万円)を提供するとしていた。導入後に採用した38人には、2500ドルを受け取って退職した者はいなかった。そこで、その金額を5000ドル(約57万円)に引き上げた。
「金額の変更を検討する際に、当社の平均給与を考慮に入れ、最終的に年収が8万ドル(約900万円)や10万ドル(約1130万円)であれば、2500ドルは意味がないと考えた」とロンジオは言う。
「他の仕事を探しながらも、ここに残ろうと判断するかもしれない。その方が多くの収入を得られるからだ。それを考慮して数字を調整した」
雇用主にはインクルーシブ(排除しない)な文化を構築する責任があるとロンジオは言う。社員に金銭的なインセンティブと「会社をクビにする」権限を与えることが、文化の構築における説得力のあるメッセージになると彼は考えている。
「金銭的なインセンティブを断り、仕事を続けることを選んでコミットするということは、彼らにとって大きな力となり、すばらしい職場環境の構築につながる」
また、採用がうまくいかなければ、企業にとってコスト増となり、採用担当者も責任を問われることになる。
2週間という期間を設けたのは、もっと長い期間にわたって新入社員に投資をした場合よりも、ビジネスが中断することの混乱が少なくて済むからだ。
しかし、会社に留まると決めた社員はどうなるのだろうか。ロンジオによると、それに対する特別なインセンティブはないという。5000ドルを拒否した社員は、この時点で「特別ボーナス」のようなものを手に入れ損ねたことになるが、彼らは、長い目で見ると当社に留まる方がずっと価値のあることだと考えているのだ。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)