出典:キッズライン公式HP
ベビーシッターマッチングプラットフォームのキッズライン社は1月12日、登録しているシッターに対し、1月17日からアプリ上で利用の予約が確定すると、シッターが登録している本名と住所が予約家庭にメールで自動送信される仕組みになると通知した。
キッズラインはシッターと利用家庭をマッチングするプラットフォームで、利用する家庭側は本人確認のための書類審査があるだけで、選考や研修を経ずに登録できる。予約確定段階で住所が送信されてしまう仕組みは、2021年12月下旬に発表され、シッターたちからは不安の声が上がっている。
相次ぐ不祥事と行政指導
厚生労働省から指導を受け、運営の見直しを求められているキッズライン(写真はイメージです)。
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キッズライン社は2020年に登録しているシッター2人が預かっていた子どもにわいせつをはたらいたとして逮捕・起訴された。その後も各自が自治体に提出しなければならない届出を出していない201人を、内閣府の補助金対象のシッターとして活動させていた問題を起こしている。
2021年には登録シッターが赤ちゃんを激しく揺さぶる動画がSNSで出回るまで内閣府補助金事業の審査・点検委員会に報告しなかったことで、11月20日から内閣府のシッター利用割引券の新規利用ができなくなる処分を受けるなど、不祥事が続いている。
12月24日には厚生労働省から、同省が定めるガイドラインに不適合な点があるとして指導も受けており、1カ月後をめどに運営の見直しをすることを求められていた。
住所送信は「法令順守の一環」
今回のシッターの情報を予約家庭に送信する仕様についても、同社は「基本的に法令等遵守の一環として改善しているもの」と筆者の取材に対して答えた。
キッズラインに登録するシッターたちは、1人1人が「認可外保育施設」にあたるとされ、その認可外保育施設に対する指導監督要綱の居宅訪問型(個人)の評価基準には、次のような記載がある。
以下の事項について、利用者に書面等による交付がされているか。
a 設置者の氏名及び住所又は名称及び所在地
b 当該サービスの提供につき利用者が支払うべき額に関する事項
c 事業所の名称及び所在地
d 事業所の管理者の氏名及び住所
通常の派遣事業者であれば、企業が責任を負うために企業の住所を開示すればいい。しかし、マッチングプラットフォームでは、万が一何か事故が起きた時は、シッター個人が責任を負う仕組みで、シッターが自宅を登録している場合は自宅住所を契約書等に記載することになる。
キッズラインはこれまでシッターに対して、「氏名、住所、連絡先が記載された文書や身分証明書等の提示や契約書の交付」について「お願い」はしていたが、システム上では必ずしも提示や交付は求めていなかった。だが、指導監督基準を遵守するため、シッター側の情報をメールで利用家庭に送付することにしたようだ。
シッターたちからは不安の声
マッチング後に自動的に住所が送られる仕様に、シッターからは不安の声が上がっている(写真はイメージです)。
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ところが、この方法に対してシッターたちからは不安の声が上がっている。
「これまでに利用者から暴言を吐かれることや、依頼者以外の異性の大人が居合わせたことなど実際に怖い思いをしたことがあります。(キッズラインのアプリ上にすでに公開されているシッターの)最寄り駅で待ち伏せをされたという話を聞いたことがあり、住所を知られるのは怖い」(副業としてシッターをしている30代女性)
「いろいろなユーザーがいる中、サポーター(シッター)個人の住所が開示された場合、玄関前に突然現れる方も出てくるのでは。頼り頼られる関係性が強いこの世界では、女性が女性をストーキングするという可能性もあります。
またキッズライン側からは、サポーター(シッター)には虐待の可能性があるご家庭を役所や児童相談所に通知する義務があると言われています。でもサポーターの住所がその家庭に知られている中で通知したら、逆恨みされないでしょうか」(キッズラインで年間200件活動している30代のシッター)
キッズラインなどを介さずフリーで活動するあるベビーシッターは、対面で実際に仕事をはじめる際に契約書を書面で交わしているといい、次のように話す。
「利用者宅にお伺いしたうえで契約書にサインしてもらいます。その契約書には自宅住所を書いているので、利用家庭も、私の本名・住所は知っています。でも今回のように単にネット上で依頼が確定しただけで住所が公開される、しかもそのシステムについて個々のサポーター側の同意を得られてるならまだしも、自動メールで送信されるというのはかなり怖いです」
同様のマッチングプラットフォームでは、家事代行で、働き手の女性が利用者宅で全裸の利用者に迫られ、加害者が威力業務妨害罪で逮捕・起訴されるという事件が起こっている。
家事代行業者は児童福祉法の対象ではないため同様の住所の提示などは必要ないが、キッズライン社のシッターは顔写真を出しているシッターも多く、さまざまなリスクが想定される。
働き手の安全をどう確保するのか
子どもだけではなく、働き手であるシッターの安全も確保しなくてはならない(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
もともと指導監督基準は「事務所などがあることを前提」(厚労省担当者)にしてきた。シッターという責任の重い仕事を、マッチングで個人と個人をつなぐことの限界を示しているとも言える。
キッズライン社は2021年末、取材に対し次のように回答した。
「各種施策の実施にあたっては個人情報の保護に努めていく予定ですが、その具体的な内容や詳細については、恐れ入りますが、ご回答を控えさせていただきます」
予定通り仕様変更がされる場合、リスクについて十分理解しないまま、個人情報が自動送信されてしまう可能性もある。
ベビーシッターサービスでは子どもの安全はもちろん最優先事項だが、CtoCサービスやマッチングプラットフォームビジネスが広がる中で、働き手をどう保護していくかも大きな課題となっている。
(文・中野円佳)