大手法律事務所グッドウィンのアンドリュー・スパークス(左)、ピーター・フスコ (中央)とウィルソン・ソンシーニのクレイグ・シャーマン。
Goodwin and Wilson Sonsini
スタートアップ企業は、急激なスピードで成長する過程でしばしば法的な問題で世間を騒がせてきた。
ニュースの派手な見出しや裁判前手続きである「証言録取」でなされた衝撃的な証言とは裏腹に、創業者たちが法的問題に陥る理由は、創業初期からの単純な間違いの見落としによるものが多い。それは、創業者たちが、会社の組織体制や誰が何を担当しているかということより、自分たちのアイデアの裏にある技術や科学にばかり目が行っている時に起こりがちだ。
スタートアップ企業の顧問弁護士に話を聞くと、若い起業家が犯しがちな法的なミスのほとんどは意図しない見落としによるもので、重大なミス、複雑なミスというのはほとんどないという。テック関連の起業家たちは1990年代後半のドットコムバブル以来、同じような過ちを繰り返してきたということだ。
「同じような法律上のミスが1999年、2005年、2010年——そして先週起こっています」と法律事務所グッドウィン(Goodwin)のテック企業部門のパートナー、ピーター・フスコ(Peter Fusco)は指摘する。
法的な間違いを避ける最善の方法は、早いうちから弁護士に電話をかけ、彼らの助言を仰ぐことだ。
Insiderはグッドウィンやウィルソン・ソンシーニ(Wilson Sonsini)といった大手法律事務所の弁護士から話を聞いた。彼らが指摘する、創業者の多くが陥りやすい5大ミスとは?
間違い1:所有権に関する面倒な話し合いを避ける
会社を急成長させようとする過程で、共同創業者は面倒な話し合いを避けたり、話し合うことを考えもしないことが多い。そうするとたいていの場合、後で問題が大きくなるとフスコは言う。
誰が何をするのか、各人の持ち分をどうするのかを最初から会議で徹底的に議論していれば避けられたはずの争いで、企業が大きな損害を被るさまをフスコはこれまで見てきたと言う。こうした詳細が最初からしっかり検討されていないと、舵取りが難しくなるのだ。
もし友人2人が一緒に新しい会社を立ち上げようとしていて、株式の公平な配分方法が計算できているのであれば、譲渡制限付き株式契約(訳注:会社が株を買い戻せる権利など、市場での株式売却を制限する契約)をきちんと結ぶことも重要だろう。
仮に2人のうち1人が3カ月後に会社を去ることになった場合、残っている創業者が全株式を保有できないと後々それが投資家にとって問題になる。しかし譲渡制限付き株契約があれば、非常に厄介になり得る状況を機械的に回避できるのだ。
「誰かが会社が去っても、こうした取り決めがしてあれば煩雑な手続きも機械的に終わりますから後でゴタゴタすることもなく、比較的スムーズに物事が進みます」とフスコは言う。「友人のところに行って株式を買い戻したいと言わなければならない時にも、それほど感情的にならずに済みますからね」
このような早い段階での対話では、できるだけプロの職業人として臨むことがベストだ。裁判所が今まで認めた持分契約の中には、バーで酒を何杯も飲んで酔っぱらって結んだようなものもあると、ウィルソン・ソンシーニのパートナー、クレイグ・シャーマン(Craig Sherman)は指摘する。
間違い2:知的財産権のことを忘れる
シャーマンは、創業者には知的財産を会社に譲渡させることが重要だと語る。そうしないと彼らが会社を去る時に大変な問題になりかねない。これは創業者が早い段階で行っておくべき最も重要な法的手続きの一つだとシャーマンは言う。
一方フスコは、創業してまだ日が浅い企業はなるべく早く発明に関わる特許権譲渡契約書を作成することを推奨している。知的財産権を会社に譲渡する際のこうした契約は、「会社のために何らかの働きをしてくれているすべての人」に署名してもらっておくべきだと彼は言う。こうしておけば、いざ会社を3000万ドル(約34億円)で売却しようというときに、元従業員のところへ行き、土下座して頭を下げて知的財産をすべて会社に譲ってくださいなどと言わずに済む。
「ありがちなやりとりの中でも、これは最悪の部類ですよね」とフスコは言う。
間違い3:誤った会社形態を選択している
シャーマンによると、創業者は、長期的にどのように資金調達をしていきたいかによって、どんな会社形態にするかを意識的に考える必要があるという。ベンチャーキャピタリストは、税金や規制の問題から通常LLC(有限会社)に投資しないが、LLCからCコーポレーション(株式会社)への転換は面倒な場合がある。
「自分たちが望む会社形態で初めから会社を正しい方向性で立ち上げること」が望ましいとシャーマンは言う。
会社の種類や設立時の経緯も、後で大きな影響を及ぼす可能性があると弁護士たちは指摘する。
「税金がもたらす影響もかなり大きいです」 と言うのは、グッドウィン・プロクターのテック企業部門のパートナー、アンドリュー・スパークス(Andrew Sparks)だ。「税金の観点から物事が正しく行われていることを確認するのは、非常に重要です」
例えば、ある創業者がCコーポレーションとして会社を設立し、創業者株を発行したとき、一定の状況下で後に創業者が会社を売却した場合、最初の1000万ドルの売却益は連邦政府レベルで完全に非課税となる可能性がある。
間違い4:採用時の社員の職種が適切でない
創業者は、自分の会社で働く人々をどのような職種で採用するかを考える必要がある。例えば、必要以上に多くの人員をフルタイムの従業員ではなくコンサルタントとして採用しているケースがあるが、これは将来、コスト高という失敗に陥るおそれがある。
「そして突然、労働省の役人が会社を訪ねてきて、経営者がやるべきことをせずになぜこんなにコンサルタントばかり雇っているのですかと聞かれる」ことになるのだとフスコは言う。
間違い5:前の会社のノートパソコンを使って起業する
シャーマンによると、新しいアイデアをもとにスタートアップを立ち上げるときにも注意が必要だという。創業前に、同じ業界の会社で働いていたとする。創業に向けての仕事をその会社にいる間に、会社のノートパソコンを使って始めた場合、後になって深刻な法的問題に発展する可能性がある。
「場合によっては創業者たちに、これまでの仕事をすべて放棄してくださいと言わなければならなくなる可能性もあります」と彼は指摘する。
シャーマンによると、このような失敗が起こることは、アメリカのドラマ『シリコンバレー』でよく知られるようになった。そのため、同じ過ちを犯す創業者たちは以前より減ったものの、今でも時々見られるという。(訳注:ドラマ『シリコンバレー』では、主人公は、起業前に勤めていた会社にいる間に創業のもととなるアルゴリズムの開発に着手。会社から支給されたPCを使っていたため、そのPC上で行われた仕事の権利を主張されそうになった)。
少しでも疑問に思ったらすぐに弁護士に電話してください、とシャーマンは呼びかける。
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)