2021年末の一連の発表の通り、ドアダッシュは小売店向けの配達に積極的だ。
DoorDash
主に飲食店向けの出前として始まったギグエコノミーの配達サービス企業が、対象を小売店にまで広げようとしている。2021年末に続々と発表があった通り、おそらくその点で一番積極的なのはドアダッシュ(DoorDash)だろう。
ドアダッシュはこれまで1年以上にわたり、ウォルグリーン(Walgreens)、ウォルマート(Walmart)、CVS、セブンイレブンなど、飲食業界以外のパートナーを増やしてきており、インスタカート(Instacart)の直接の競合となってきていた。しかし、このように小売店を増やしていけば、宅配業者の競合にもなっていくかもしれない。
小売店の宅配サービスに進出
ドアダッシュは2013年の創業当初、地元のあらゆる商店からの配達サービスを提供していた。その後飲食に特化し、グラブハブ(Grubhub)やウーバーイーツ(Uber Eats)を凌駕するようになっていった。今やその圧倒的なマーケットシェアを強みに、ペット用品からトイレットペーパーまで、再びあらゆるものを配達対象にしようとしている。
食料品を扱わないパートナーの中でも取引の長い企業の一つがメイシーズ(Macy's)だ。ドアダッシュの広報にメールで確認したところによれば、2021年に追加されたパートナーは、ペットスマート(PetSmart)、ベッド・バス&ビヨンド(Bed Bath & Beyond)、バイバイ・ベイビー(Buybuy Baby)、ラッシュ(Lush)、アルタ(Ulta)、シュー・カーニバル(Shoe Carnival)、J.C.ペニー(JCPenney)、パクサン(Pacsun)とのこと。最後の4社については、UPSとフェデックス(FedEx)がクリスマスギフトの集荷を締め切ってすぐ後の2021年12月中旬に発表された。
「業務を改善し即日配送サービスを提供することで、リアルタイムの配達を可能にし、お客様のニーズを以前より満たせるだけでなく、休日、ネットショッピングで買い物かごに商品を入れたまま決済せずに終わるお客様を減らすことができるでしょう」とパクサンのEコマース担当バイスプレジデントのミミ・ルイスは述べている。
小売業者側は即日配送により、すぐに商品が欲しい顧客からの売上を伸ばすことができ、また店舗からネットショッピング向けに商品を簡単に発送できない店にとっても、在庫の流動性に貢献してくれることになる。サプライチェーンの遅れが続くなか、在庫を顧客向けにさらに出荷できるのはプラスだ。
「例えばベッド・バス&ビヨンドでは、店舗がかなり多いのですがあまり活用されていません」と言うのは、クロスローズ・パーセル・コンサルティング(Crossroads Parcel Consulting)のマネージング・パートナーでありフェデックスに35年務めたこともあるディーン・マチューバ(Dean Maciuba)だ。
投資銀行のコーウェン(Cowen)は、この業界の売上規模は2023年に630億ドル(約7兆2400億円)に達すると予想している。伸びている分野ではあるものの、大手でも収益性がよくない企業が多く、配達サービスの対象を拡大する理由となっている。
ドアダッシュが多角化するのも頷ける、とマチューバは言う。配達が食事どきに集中してしまうため、そのほかの時間はドライバーが他のプラットフォームの仕事をすることが多いのだ。小売店向けの配達に参入することで、ドライバーたちのドアダッシュへの定着率が上がるかもしれない。
「日中も仕事があるような環境を作れれば、雇用主との関係ももっと安定するでしょう」
ドアダッシュに足りないもの
ここで出てくる疑問は、ドアダッシュがこのビジネスを地域限定のものから、さらに成長させられるかどうかだ。自社の倉庫を持っていないため、ドライバーは集荷と配達をその日のうちに行わなければならず、配送の効率改善に通常使われる手法を使いづらい。
「インフラがないので、特定のエリアの外には出られないのです」とマチューバは言う。夜間に荷物を保管して長距離でも運べるようになると、新しい可能性が広がる。
ドアダッシュの広報によると、現在の配達範囲は小売店のタイプやそのエリア内の店舗数、店舗の立地などさまざまな要素で決められているという。小売向けの配達サービスは近隣の地域以外への配達もあり、腐らない商品であれば食品を届けるよりも遠い場所へ安全に配達することが可能だという。
即日配送を避け翌日配送へ、そして、さらに長い配達時間をかけられるように移行していきたいギグエコノミーの配達業者にとって参考になりそうなのが、ターゲット(Target)の試みだ。ターゲットは自社の店舗と傘下の配送業者であるシップト(Shipt)のドライバーの間に倉庫を配置したネットワークを構築しようとしている。
ドアダッシュの配送能力はUPSやフェデックスにはまだまだ劣るとマチューバは言うものの、同等ではなくともこれらの企業の競争相手になっていく可能性は十分あると専門家は言う。
2021年11月にドアダッシュは自社で受注する配達以外を行うプログラムを立ち上げた。今はカッツ・デリカテッセン(Katz's Delicatessen)やH&Hベーグルズ(H&H Bagels)といった有名店の食品を全米に翌日、または翌々日到着で配達している。しかしドアダッシュの広報担当者に確認したところ、ラストワンマイル(最終拠点から顧客に商品を届ける最終区間)を請け負っているのはドアダッシュのドライバーではなく、フェデックスとUPSなのだという。
(翻訳:田原真梨子、編集:大門小百合)