かつて「在宅勤務」というと、あまり受けがよくなかった。パジャマのままソファでくつろぎ、仕事をサボるのが好きな人、つまり野心もやる気もない社員として捉えられていた。このような柔軟な働き方をする社員は、能力が低く、仕事へのコミットメントがないとも見なされていた。
しかし、そのイメージは間違っており、キャリアを阻害するものであることが調査で明らかになっている。
カーネギーメロン大学テッパー・スクール・オブ・ビジネスのデニス・ルソー(Denise Rousseau)教授は、「リモートワーカーは、従来の優秀な人材と働き方が違うというだけで、昇給や昇進で後れをとっています」と話す。
リモートワークを導入する企業はますます増えており、リモートワークを希望する社員も増えている。しかし、在宅と出社をミックスさせたハイブリッド勤務が主流になる中で、その人事評価制度に対しては複数の専門家から懸念の声が上がっている。
出社する社員は優れているという無意識な偏見が知らず知らずのうちに人事評価に影響を与え、リモートワーカーは仕事熱心でも勤勉でもないと見なされてしまうというのだ。これではまたしてもリモートワーカーが置き去りにされかねない。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとコロンビア大学でビジネス心理学を教えるトーマス・チャモロ=プリミュジック(Tomas Chamorro- Premuzic)教授は次のように話す。
「パンデミックが始まってからというもの、会社は社員が何を生み出し、どんな成果を挙げたかにいっそう目を向けるようになりました。このことは、リモートワーカーだけでなくすべての社員にとってプラスになるはずです。結局、重要なのは社員がどこにいるかではなくどんな成果を挙げたか、ですからね」と話す。
いずれにせよ、企業には社員を公平・公正に評価する義務がある。リモートワーカーがプロフェッショナルとして活躍し、社内での評判を高め、出世するにはどうしたらよいのか?人事担当の責任者らに話を聞いた。
1. 社内で幅広い人間関係を築く
良好な人間関係は、キャリアを成功に導く基盤となる。リモート勤務の社員は、人間関係を築いて深めることに、よりいっそう力を注がなければならない。上司や同僚との信頼関係を築くことも大切だが、それだけで満足してはいけない。あなたやあなたの仕事を理解してくれる人は、多ければ多いほどよいのだ。
まずは人脈を広げてみよう。米ビジネスSNSのリンクトイン(LinkedIn)で人材獲得グローバル責任者を務めるジェニファー・シャプリー(Jennifer Shappley)はこう話す。
「同じ部署ではないけれど、あなたの近くで似たような業務をしている人物に目を向けてください。オフィスで働いているなら、話し声が聞こえるくらい座席が近い同僚です。共同作業をする時やアイデアのヒントを得たい時には、こういう人にまず声をかけるべきです」
シャプリーは、組織図を活用して社内横断的に編成される組織形態も理解しておくよう勧める。上司につながっておくべき人を尋ねてみるのもいいだろう。何より好奇心を持つことが大切だと助言する。
画面映りを考え、ハキハキと話すよう意識しよう。
Alistair Berg/Getty Images
2. 力関係をバーチャルに見極める
リモートワークでは、社内の力関係を詳細に把握することが難しい。
「オフィスにいれば誰が誰に指示を出しているのか気づきますが、自宅で仕事をしていると、それが分かりません」とシャプリーは話す。
米クラウドサービス会社オクタ(Okta)で人材活用責任者を務めるクリスティーナ・ジョンソン(Kristina Johnson)は、Zoomで同僚のニュアンスを汲みとるのは、難しくはあるが不可能ではないという。そこで重要なのは観察力を磨くことだ。他の人がどのように話し、意思決定を行い、そして周りの信頼を得ているのか注意深く観察してみよう。
ボディランゲージや表情などの合図に気付くことも大切だ。同僚は誰に対して敬意を払っているのか? 誰の意見が高く評価されるのか? 誰が会話中に割り込まれたり、相談を持ちかけられたりしているのか? 「肩書きに左右される部分もありますが、微妙なニュアンスに気付けるでしょう」とジョンソンは話す。
影響力を持っている人を特定し、その人物がどのように周りに働きかけ、仕事をこなしているかを理解することが狙いだ。
3. カメラ映りをよくする
自分が相手を観察しているのと同じように、相手も自分を観察していることを忘れないようにしよう。画面映りを考え、ハキハキとした声で話すよう(あるいは、ハリのない声になっていないか)意識することが大事だ。
オンライン会議では、常にカメラをオンにして積極的な姿勢で挑む。前のめりになり、必要に応じてうなずこう。内職は失礼にあたるので、決してやらない。自分の発言する番が来たら、パソコンのカメラを直接見て話すとアイコンタクトの効果が得られる。説明には身振り手振りを交えよう。「もう一段の努力が大切」とジョンソンは助言する。
4. 趣向を凝らして知名度アップ
在宅勤務をしながら社内での知名度を上げるには、ちょっとした工夫が必要だ。バーチャルなコーヒーブレイクを設けたりオンライン飲み会に参加したりするのは、とっかかりとしてはいいが、それだけでは他の人と差別化できない。
中国のパソコンメーカー、レノボ(Lenovo)のチーフ・ダイバーシティ・オフィサーであるカルヴィン・クロスリン(Calvin Crosslin)は、自分独自のスキル、経験、ノウハウを振り返り、新たな人脈を作る方法を模索するようアドバイスする。
「起業家のように考えることが大事です。同僚に好印象を与えるにはどうしたらいいか、考えてみてください」
一例として、レノボのある社員はパンデミックが始まると、毎朝、社内のチャットツールで本格的なモーニングショーを配信し始めたとクロスリンは言う。その人物は、配信を通して社員のエピソードを紹介したり、会社の最新情報を提供したりした。「このショーはたくさんの視聴者を集め、上層部も興味を持っていました」とクロスリンは話す。
「おかげでみんながつながることができたので、彼は多くの社員から一目置かれるようになりました」
ときどきオフィスで数日過ごすよう意識すれば、同僚との良好な関係を維持でき、重要な情報も得られる。
Cecilie Arturs
5. 整理整頓と文書化の徹底
どんな環境であっても、良い社員であるための基本は変わらない。一生懸命働き、良き同僚になり、学ぶ意欲を示すこと。
とはいえ、リモートで仕事をするならもう一段の努力をし、自己管理を徹底する必要があると話すのは、米オンライン不動産会社ジロウ(Zillow)の組織運営部長であるメーガン・レイブスタイン(Meghan Reibstein)だ。
あらゆるツールを駆使して、整理整頓を心がけよう。自分のアイデアや計画は同僚に明確に伝えること。連絡手段や都合がつく時間帯を周りに知らせておくことも肝心だ。
誤解を防ぐために、伝えるべきことはすべて文書化するようレイブスタインは助言する。
また、オフィスにまったく顔を出さないのも問題になる。時々は出社するよう心がけよう。こうすることで上司や同僚と良好な関係を築きやすくなるだけでなく、重要な情報(新たな社内公募や社内研修、スキルアップの機会など)も得られる。会社の方向性に対する理解も深まるだろう。
米オンライン・フォトプリント会社シャッターフライ(Shutterfly)で社長を務めるジム・ヒルト(Jim Hilt)は、あえて出社する日を設けるようアドバイスする。「人間関係を築いてほしいですね。1対1や少人数のつながりは、離れていると育みにくいですから」
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)
[原文:You work from home and you want a raise. Here's how to make the ask.]