2022年1月にアメリカで開かれた世界最大級のテクノロジー展示会「CES 2022」でも、EVは注目の的だった。
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自家用電気自動車(EV)の販売台数が2022年に900万台の大台を突破するとの予測を、アメリカのエネルギー調査大手S&Pグローバルプラッツ(S&P Global Platts)がまとめた。
2021年はニッケルやコバルト、リチウムをはじめ車載電池製品の需給が逼迫し、価格が高騰。特に炭酸リチウムの価格が前年比で約6倍となり、史上最高を更新し続けている。水酸化コバルトも前年比で約2倍、硫酸ニッケルは1割程度上昇した。
そうしたサプライチェーン危機にもかかわらず、2021年の自家用EVの販売台数は前年比で約2倍に拡大。S&Pグローバルプラッツによると、その傾向は2022年も続き、売上高としては前年比40%以上増加、販売台数は900万台に達すると予測している。
【図1】世界の自家用EV販売台数の推移(2016年11月〜2021年11月)
出所:S&P Global Platts
原料高騰でも衰えないEV販売の理由
背景には、官民の投資増強がある。
民間セクターでは、完成車メーカー(OEM)主要各社が研究から生産まで大規模な投資を計画。S&Pグローバルプラッツのまとめによれば、フォード(Ford)、ステランティス(Stellantis※)、フォルクスワーゲン(Volkswagen:VW)グループ、日産自動車、トヨタ自動車など、主要5社の投資額だけでも、2000億ドル(約22兆円)近くに上る(【図2】)。
【図2】主要自動車メーカーのEV投資額
出所:取材をもとに筆者作成
公的セクターでも、アメリカやイギリスの充電インフラ整備計画、中国のEV国庫補助金など、各国政府や自治体が大規模投資を公約している。
Business Insider Japanの取材に対し、S&Pグローバルプラッツは「官民の投資に加え、EVに対する規制や消費者心理の変化といった各種ファクターが、既に明白な変化をもたらしている」と回答(以下、コメントはS&Pグローバルプラッツ)。
「2020年に世界のEV売上高は前年比で39%増加し、2021年はさらに100%増加しました。この傾向は続き、2022年のEV売上高は40%以上増加すると見ています」
※ステランティス(Stellantis):プジョーやフィアットなど14ブランドを持つ多国籍自動車メーカー。Groupe PSAとFCA(Fiat Chrysler Automobiles N.V.)の合併により誕生した
特に注目しているのは、消費者向け(自家用)EVのラインナップの増加だ。
「消費者向けEVの選択肢はこれまで、非EVと比べて限定的でした。しかし、2030年までのOEM各社の累積投資額は5000億ドル(約55兆円)に到達。EVのコスト競争力が増し、消費者向けモデルの拡充も見込まれます。このトレンドが、EV普及の長期的な原動力になるでしょう」
日本では2021年11月から12月にかけ、日産自動車が2030年までにEV15車種、トヨタ自動車も2030年までに30車種の市場投入を相次いで発表した。
そうした動きは世界のEV市場に大きな影響を与えると、S&Pグローバルプラッツは分析する。
「日本には世界有数のOEMが多い。各社は消費者向けEVモデルの拡充に力を入れ、EVバッテリーの研究や生産能力増強、機能強化と行った分野でも投資を行っています。日本企業の取り組みは、世界のEV市場に変化をもたらすはずです」
今後の課題は言うまでもなく、経済性の向上だ。
政府の補助金を受けられない場合「一般的なEVの初期費用は現在、ガソリン車などの内燃機関車より10〜40%高額」だが、S&Pグローバルプラッツの予測は楽観的だ。
現在一時的にサプライチェーン危機にあるものの、2015年以降60%も減少しているバッテリーセルの価格は長期的には今後も下がり続け、「2025年までにEVの価格が内燃機関車に匹敵する」と見ている。
「初期費用の低下と、メンテナンス頻度の減少による運用コストの低下、そして燃料コストの低下(世界の多くの地域ではガソリンなどの石油製品よりも電気代の方が安いため)が相まって、EVは近い将来、消費者にとってよりリーズナブルな選択肢となるでしょう」
(取材、文・湯田陽子)