渋谷駅は一時期、出前館の広告で埋め尽くされていた。
出典:出前館リリース資料
都内の駅構内を歩くと、人気YouTuberのヒカキンさん・はじめしゃちょーさんが、赤いはっぴを着て踊るポスターや動画であふれている ——。そんな光景を目にした人も多いだろう。
出前館では2021年11月から2022年1月までの3カ月間にわたり、送料無料などを打ち出し“出前館として過去最大級のプロモーション”を実施した。
フードデリバリー業界での激しい競争を勝ち抜くため、出前館は2021年から2022年を「サービス利用の拡大」を最優先とし、積極的な投資をすすめる方針を打ち出しており、今回の大型キャンペーンについても、大規模な予算をつぎ込んだ。
果たしてキャンペーンはどれほどの効果があったのか?
2021年1月4日に発表された2022年8月第1四半期決算(2021年9月~11月)を見てみよう。
藤井社長「大きな成果があった」
出前館が重要指標とする、オーダー数やアクティブユーザー数は順調に伸びている。
出典:2022年8月期第1四半期決算説明資料
「緊急事態事態宣言が2021年9月に一斉解除され、年末にかけて大きく外食需要が回復しました。そんな中でもフードデリバリー需要は引き続き堅調で、日本におけるフードデリバリーの浸透が高まったと感じています」
1月14日に開かれた決算説明の冒頭、出前館の藤井英雄社長はそう説明した。
また藤井氏は2022年春に日本市場からの撤退を発表したドイツのフードデリバリー大手・デリバリーヒーロー傘下のフードパンダを念頭に、「当社が申し上げていた、市場の合理化が一段階進むことになりました」と説明。積極的なキャンペーン展開の必要性を強調した。
藤井氏は2021年10月のBusiness Insider Japanの取材に対し、
「 昔からデリバリーが普及していた海外の例を見ると、最終的にはプレイヤーは2社、3社に収斂(しゅうれん)されている。大胆な投資を続けてナンバーワンになるのが勝ちパターン。我々もそこを目指している」
と話しており、日本市場でもサービスの統廃合が進むとしていた。
ヒカキンさんらCMは「好感度第2位」
ヒカキンさんとはじめしゃちょーさんが出演するCMの一場面。
出典:出前館リリース資料
大型キャンペーンは東京都と埼玉・千葉・神奈川県を対象とした。この1都3県は出前館にとって、商品代金と配送料の合計・流通取引総額(GMV)の6割超を占める重要エリアだ。
キャンペーン期間は2021年11月~2022年1月末までの3カ月間。フードを注文した時の「送料無料」に加え、吉野家や大戸屋など人気外食チェーン店が週替わりで半額になる「半額WEEK」を9週間にわたって展開した。
キャンペーンに合わせたプロモーションには、人気YouTuberヒカキンさんと、はじめしゃちょーさんを起用。ネットやテレビCMだけでなく、JRや地下鉄構内、大型の屋外看板にも広告を掲載し話題となった。
ヒカキンさんとはじめしゃちょーさんが出演するCMは、CM総合研究所による「2021年12月前期銘柄別CM好感度トップ10」のランキングで2位を獲得。ちなみに1位は、新垣結衣さんを起用したアサヒビールの「アサヒ生ビール」(通称マルエフ)だった。
新規の配達員も5倍超に
週替わり対象の飲食店が変わる「半額WEEK」でも、大幅な注文の増加があったという。
出典:2022年8月期第1四半期決算説明資料
決算説明資料によると、キャンペーンは一定の効果を上げたことがわかる。
キャンペーン期間中の2021年11月・12月、1都3県のオーダー数は前年比200%超に増加。また「半額WEEK」に参加した加盟店では、店舗あたりの流通取引総額(GMV)はキャンペーンの前の週に比べて、3.7倍に増えたという。また新規の配達員も増加。キャンペーン期間を一部含む2021年9月~11月で、配達員は前年同期に対し547%になった。
藤井社長は今回のキャンペーンをどう評価するのか?
Business Insider Japanの取材に対し、藤井氏は次のように回答した。
「まだキャンペーンは終了していないが、今回のキャンペーンはマーケットシェアをとることが大きな目的だった。その意味では出前館アプリのダウンロード数も順調に伸び、ユーザー数もキャンペーンを始めた11月以降、しっかりと作れている。キャンペーンの効果が出てきている」
営業赤字89億円でも「おおむね順調」
広告費などのコストも急激に増加している。
出典:2022年8月期第1四半期決算説明資料
キャンペーンの効果もあり、出前館の売り上げは拡大し続けている。
2022年8月期第1四半期決算によると、売上高は前年比147%増の103億4200万円(決算短信より)と急激に成長。一方で営業損益は89億7200万円の赤字(同)で、大幅な赤字経営が続く。
2021年9月~11月の宣伝広告費は、前年同期比約2倍の51億4100万円。配達員が大幅に増えたことで、売上原価は前年同期比で5倍以上(約17億円→約97億円、決算説明資料より)に膨らんだ。コストは増え続けている。
ただしこれらのビジネスの状況は、当初から想定していた赤字でもある。
出前館が発表している業績予想では、2022年8月までの1年で「500億~550億円の営業赤字」を見込んでいる。今回の第1四半期の営業赤字について藤井社長は、Business Insider Japanの取材に対し「おおむね順調な数字」と説明した。
「会計処理で人的ミス」を謝罪
決算資料
出典:2022年8月期第1四半期決算説明資料
なお出前館は決算説明会で、不適切な会計処理があったとして財務諸表の訂正について説明し、謝罪した。
出前館によると2016年8月期以降、決算代行会社に対する未収金の過大計上が23億2500万円、未払金に関する会計処理の誤りなどで9億8500万円の未払金の過大計上があったとした。
出前館CFOの矢野哲氏は、「人的ミスによる不適切な会計処理があった。原因は新規事業の急成長で管理体制が不十分になっていたこと。経営陣として本件を真摯(しんし)に受け止め、管理体制の強化を図り、再発防止策を早急に実施したい」とした。
(文・横山耕太郎)