アジアの大学でトップと評価される清華大学の出身者の進路は。
Reuters
北京大学と清華大学がこのほど、2021年の卒業生・修了生の進路レポートを公開した。
中国の教育機関の双璧である両校のレポートは毎年大きな注目を集める。国際ランキングで日本の大学を上回るようになった両校の名前を知ってはいても、概要や違いはあまり知られていない。卒業生の進路からは学校の風土だけでなく、今の中国社会も垣間見える。清華大学を中心にレポートのポイントを紹介したい。
ランキングで東大、京大を上回る
英教育誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)』が2021年9月に発表した「2022年世界の大学ランキング」で、北京、清華両大学は共に16位でアジアトップだった。同ランキングは教育および研究環境の充実度、論文の引用頻度、国際性、産業界からの収入など13の指標を基に、世界の99の国・地域にある1662大学を評価。日本の大学は東京大が35位、京都大が61位だった。
清華大を2021年に卒業・修了した学生の内訳を見ると、大学院生が学部生を上回っている。男女比は男性が65%、女性が35%。
北京大学は男女比を公表していないが、大学院生が学部生の倍以上だった。後述するが中国は大学院出の方が就職が有利で学部卒との給与差も大きいため、特に著名大学は大学院の方が存在感が強い。
ちなみに東京大学の2019年時点の女性比率は、学部生19.3%、大学院生28.3%だという。
学部生7割超が大学院進学
進路を見ると、清華大、北京大共に学部生の7割以上が大学院に進学している。清華大の学部生はフリーランスやギグワーカー、複業などを指す「フレキシブルワーカー」が12%いるが、1つの会社に縛られない働き方は中国のZ世代で拡大しており、行政もフレキシブルワーカーの権利や保障の整備を進めている。
学部生の比較では、北京大は北京で就職する比率が高いが、清華大は深センや上海など他都市に出る卒業生が多く、全体的に北京大の方が「保守的」と見ることもできる。
清華大、北京大ともに博士の海外留学は0人だが、これはコロナの影響も大きい。清華大の全体の海外進学者数は517人で、2019年の1035人から半減している。一方で就職者の比率は2年前から上昇した。
北京大の2021年の海外進学者数は793人で、清華大より200人以上多いが、同じように2020年(1084人)、2019年(1155人)から大きく減少した。
深センの公立校、新人教師の半分以上が清華学位保持
今回のレポートで話題になったのは、就職先の業界傾向だ。
清華大の博士課程から教育業界に就職する比率は21.5%に達し、前年から6ポイント上昇した。北京大も博士の4割以上が教育業界を選んでいる。
博士課程の修了者が大学の研究職に就くのはイメージしやすいだろうが、実は相当数が小中学校に就職しているようだ。
ネットで拡散した深センの高校の新人教師リスト
Weiboより
2021年、深センの公立高校の物理と化学の新人教師の名簿がネットで流出し、大きな反響を呼んだ。というのも17人中16人の最終学歴が博士以上で、半数を清華大出身者が占めたからだ。北京大出身者も2人おり、他にアメリカのボストン大学、イギリスのオックスフォード大での博士号取得者もいた。
実際、中国では大学入学時に「博士まで進学して大学の先生になりたい」と目標を語る学生が非常に多い。大学教員の社会的地位の高さもさることながら、中国の受験戦争がし烈でキャリア教育の概念も薄く、大学に入るまで勉強以外の世界を知らないことが理由とも考えられる。
ただ、経済成長に伴い大学がどんどん設立されて教員が足りなかった1990年代~2000年代は修士卒でも大学に就職できたが、2010年代以降は教員が充足する一方で大学院修了者が増えるため、事務職員ですら博士号取得者しか採用されない状況になっている。
深セン高校の公式サイトを見ると、教員は論文を発表したり学会に出るなど研究者としての活動をしており、学生時代に数学オリンピックで金メダルを獲得した教員もいる。大学のポストが空かないことから、待遇がよく研究もできる名門高校に就職する博士号取得者も増えているのかもしれない。
メガITは学部卒採用少なく
毎年公表される清華大、北京大の進路レポートで最も注目を集めるのは、就職先の企業名だが、今回はいずれも同項目が示されなかった。理由は不明だ。
参考までに2020年の清華大のメガIT企業への就職者は下表のようになっている(一部抜粋)。
(出所)清華大学の資料をもとに筆者作成。
ファーウェイは以前から博士号を持つ技術者を積極採用していることで有名だが、それだけでなく3社とも学部生をほとんど採用していないことが分かる。
両大学のレポートでは背景の説明や分析は全くされていないが、学生の大半がよりよい待遇を求めて修士、博士課程への進学を目指すことや、学部卒で就職しようとすると業界や企業に制約が出てしまうことが見て取れるだろう。
中国の少子化の原因が子育てにお金がかかりすぎることにあると指摘され、2021年7月には学習塾や宿題の負担を大幅に引き下げる規制が導入された。アジア最高峰の大学であっても学部卒ではIT企業はもちろん、公立高校の教師になるのも容易ではないという現実から、中国の学歴主義のし烈さが垣間見える。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。