家を買うよりも「一生に一度」の旅を2人は選んだ。
Jake Northrup
- あるファイナンシャル・プランナーの男性は、マイホームの購入を遅らせることで2万ドル(約230万円)の南極の旅に出ることができた。
- 男性とその妻は、自分たちの純資産を増やすよりも人生を体験することの方が大切だと気付いたという。
- 住宅価格といった経済の状況に自分たちの決断を左右されたくなかったとも男性は話している。
もし手元に2万ドルあったら、あなたは冒険の旅に出るだろうか? それともマイホームの頭金にするだろうか?
専門家に相談した場合、一般的には不動産に投資して長期的に純資産を増やすようアドバイスされることが多いものの、あるファイナンシャル・プランナー(CFP)はそうはしなかった。CFPのジェイク・ノースアップさん(30)と妻のケイ・ノースアップさん(27)はマイホームの購入計画を後ろ倒しにして、南極旅行へ出かけることにした。
2人は"最小限のセーフティーネット"として、常に4万ドルは貯金しておくようにしていたとジェイクさんはInsiderに語った。2021年1月にはその額が6万ドルになっていたので、2人は差額の2万ドルについて、2022年か2023年にマイホームを購入するという目標を達成するために貯金を続けるか、マイホームの購入を2023年か2024年に延期して使ってしまうか、どうするのが一番良いお金の使い方かを考えた。
最終的に2人は自分たちの"価値"に行きついた。ジェイクさんとケイさんにとって一番大切なのは"旅行"だった。
「わたしたちの絆を強め、わたしたちの世界観を広げ、わたしたちに最も幸福感を与えてくれるのが旅行なんです」とジェイクさんは説明した。
「自分たちの純資産を増やすよりも、自分たちの価値観に従って自分たちの人生を生き、経済的に責任ある方法で人生を存分に味わうことがわたしたちの目指すところです」
南極で。
Jake Northrup
もちろん、ミレニアル世代の若者が誰しも2万ドルの貯金があるわけではない。アメリカでは、ミレニアル世代の住宅ローン以外の債務の中央値は2万4929ドルだ。ただ、お金に余裕があったとしても、その使い道、優先順位はさまざまだ —— Insiderとモーニング・コンサルト(Morning Consult)が2019年に実施した調査では、ミレニアル世代の大半は、自由に使える1000ドルがあったら、債務の返済にあてるか貯金に回すと答えたものの、旅行やショッピングに使うと答えた人たちもいた。
ノースアップ夫妻の考え方は、ミレニアル世代がいかにしてアメリカン・ドリームを定義し直し、自分たちの思い通りの生活を送ろうとしているかを象徴している。住宅危機、新型コロナウイルスのパンデミック、新たに芽生えた人生観をきっかけに、アメリカ人が自分たちにとっての"最良の人生"を考え直す中、郊外にマイホームを購入するといった第二次世界大戦後のいわゆるアメリカン・ドリームは崩壊した。多くのミレニアル世代にとって、アメリカン・ドリームとはこれまで「すべき」とされてきた伝統的な人生の決断よりも、自分たちの情熱の追求を優先することだ。
ノースアップ夫妻の考え方は、大胆に見えるかもしれない。彼らの世代は40歳になる前に2度の不況を経験し、驚くほどの学生ローン、生活費の高騰、住宅危機に直面してきた。住宅購入から今、自主的に身を引くのは、初めてのマイホームをどうにかして手に入れようと躍起になっている人々とは対照的だ。
ただ、ノースアップ夫妻は自分たちの決断を住宅価格や住宅ローンの金利といった外部要因に左右されたくなかったと話している。2人は自分たちが正しいと思うことをしたかった。南極でペンギンやクジラと過ごすこともその1つだった。
南極旅行に向けて
ジェイク・ノースアップさんとケイ・ノースアップさんは2018年までお金を投資に回したことがなかった。「ファイナンシャル・プランナーなのに不思議に感じるかもしれません」とジェイクさんは認めたが、2人はそれぞれ自分でビジネス(ジェイクさんはファイナンシャル・プランニング、ケイさんはウェディング・プランニングのビジネス)を立ち上げようと計画していたため、貯金はアリー・バンクの高金利の貯蓄口座に入れたままにしていた。
「手元にこれだけの現金があったので、わたしたちは自分たちとそのライフスタイルに投資することができました。おかげでそれぞれのビジネスも好スタートを切ることができました。インデックスファンドに投資しても絶対にできなかった方法でわたしたちの生活を向上させてくれたのです」とジェイクさんは語った。
それぞれのビジネスを立ち上げ、収入が増えるのを目にしたことで、2人は自信を持って2万ドルの南極の旅に出る決断ができたという。
2人はまず、旅行にかかる費用について徹底的に調べた。その過程が、いつ旅行に行くべきか —— 結果、2021年12月に —— 、それまでにどのくらいの貯金が必要か、具体的に決める役に立ったという。大型旅行を計画中の人は必ずこの思考プロセスを経るべきだと、ジェイクさんは話している。どういった選択をすると自分にとってのマイナスまたはプラスが大きくなるのか考えておかないと、"やみくもな決断"になるという。
その後、ノースアップ夫妻は2万ドルを別の高金利の貯蓄口座に移した。特別な目的のためのお金を分けておくことは、「お金のバケツ」を作るようなものだと、ジェイクさんは説明した。そうすることで「お金を『使った』と自分に思わせ、『本当に』使える金額をもとにお金にまつわる別の決断ができるようになった」という。
家を買うよりも
ノースアップ夫妻の決断は、お金だけの問題ではない。2人は2、3年後に子どもを持ちたいといった他の将来の目標も考慮に入れていた。そうすることで「ほんの短い間の絶好の機会」が残されたという。
人生の大きな目標の調整は、多くの人が取り組んでいることだろうとジェイクさんは語った。長期有給休暇の取得やビジネスの立ち上げ、家庭を持ったりマイホームを購入するといったより伝統的な節目を迎える前の旅行の計画など、目標は人それぞれだ。「もちろん、目標は互いに矛盾するものではありませんが、同時に2つやろうとすると難しくなります」とジェイクさんは言う。
やはり、よちよち歩きの小さな子どもを連れて、パタゴニアを歩き回るのは難しい。
経済状況や社会からの期待も助けにはならない。ジェイクさんは、マイホームを持つという理想や現在の住宅市場 —— 不動産価格が高騰し、住宅ローンの金利が空前の低さとなっている —— がミレニアル世代に、価格や金利の上昇を恐れて自分たちの準備が整う前に家を購入するようプレッシャーをかけていると考えている。
ペンギンたちと。
Jake Northrup
ジェイクさんは、家を購入するのに比べて、家を借りるのは「お金を捨てるようなものだ」という議論が好きではないと話した。理由は2つある。1つは、修繕費や固定資産税といったものを考慮に入れず、家を持つことのコストを過小評価しているからだ。もう1つは、財産を築くことを成功の尺度としているからだ。
「家を持つことがかつて成功をはかる重要な尺度であったことは理解できます」とジェイクさんは語った。
「ただ、ミレニアル世代の大半はモノよりも体験に価値を見出しているので、この成功の尺度はもはや当てはまりません」
自身の優先順位を守ったことで、ノースアップ夫妻は「一生に一度の」2週間の旅行に行くことができた。アルゼンチンの首都ブエノスアイレス、パタゴニアのウシュアイア、そして南極大陸を回ったこの旅で、ジェイクさんは高さ30フィート(約9メートル)の波や時速70マイル(約110キロメートル)の風を体験したという。ただ、そうした危険があっても、南極の氷山を見ながら、ガラスのような氷河の中をカヤックで進む価値はあった。
「10年後、2022年ではなく2023年に家を買ったことなどわたしたちは覚えていないでしょう」とジェイクさんは話した。
「わたしたちは自分たちが行ったこの旅のことは忘れません」
[原文:Why a 30-year-old financial planner dropped $20,000 on a trip to Antarctica instead of buying a home]
(翻訳、編集:山口佳美)