毎年、消費者は数十億ドルもの安価な衣類を購入してはすぐに捨てている。
「ファストファッション」と呼ばれるビジネスモデルによる大量廃棄は、環境に大きな負荷を与えているにもかかわらず、ただちには改善されないと最新データは示している。
ファッション業界は、世界の二酸化炭素排出量の10%を占め、全産業中2番目に多く水を消費し、マイクロプラスチックを海に流し込み汚染している。
研究者向けSNSの独リサーチゲート(ResearchGate)のレポートによると、ファストファッションが消費するエネルギーは、航空業界と海運業界によるものを合わせた量よりも多い。
また、今後30年間でアパレルの原材料の需要は3倍になると予想され、水、エネルギー、土地などの限られた資源に極度の負担をかけるようになると、世界資源研究所(World Resources Institute)は警告する。
世界最大級の米繊維メーカーであるザ・ライクラ・カンパニー(The Lycra Company、以下、ライクラ)でCEO兼社長を務めるジュリアン・ボーン(Julien Born)は、ファストファッションの環境コストを認識しており、世界のアパレルブランドがサステナビリティへのアプローチを見直すよう後押ししたいと願っている。
その一助として、同社はファッション業界をサーキュラーエコノミー(循環型経済)に移行させる取り組みを行っていると、Insiderの取材に応じたボーンは話す。
既存の素材をできるだけ長くリユースやリサイクルする生産・消費モデルを構築するため、プライマーク(Primark)、リーバイス(Levi's)、H&Mと提携し、衣服の耐用年数を延ばし、長く着てもらえるよう取り組んでいる。
ファッション業界はこれまで、環境に深刻な影響を及ぼすファストファッションを推し進めてきた。そのことに対して意識の高い消費者や環境保護の専門家らから非難の声が挙がるなか、ライクラは10年以上前から、持続可能性を求める声を真剣に受け止めてきた。
ライクラのジュリアン・ボーンCEO兼社長。
The Lycra Company
2011年以降、ライクラの工場では250以上の省エネ対策を実施している。2019年には、2つの工場でエネルギー強度(一定量を生産するのに必要なエネルギー量)を20%以上削減し、半数以上の工場で10%以上改善したと、同社のサステナビリティ・レポートで発表した。
「我が社には、社会的責任やコンプライアンス、安全性を業界でいち早く重視してきた長い歴史があります。長年、正しいことを行って信頼を築いてきたからこそ、サステナビリティをリードしていけるのです」とボーンは話す。
繊維メーカーの「巨人」であるライクラは、より環境に配慮したファッション業界を目指すというレガシーを果たしてどのように保ち続ける狙いなのか。ボーンの話から見えてきた3つの戦略を紹介する。
1. 持続可能なパートナーシップ
世界のテキスタイル、アパレル、パーソナルケア産業向けに繊維製品を提供するリーディングカンパニーとして、ライクラはファッション業界全体に影響を与えることができるユニークな立場にある。
H&Mとのコラボレーションは、ライクラが取り組んでいる持続可能なパートナーシップの一例だ。2020年には、リサイクル原料を使用したライクラの技術「クールマックス(Coolmax)」が、H&Mのメンズウェア・コレクションに採用されると発表した。
H&Mクールマックス・メンズウェア
The Lycra Company
「以前なら、ライクラがこのような企業と取引することはありませんでした。ファストファッションは商品の移り変わりがとても早く、必ずしもイノベーションが生まれているわけではありませんから。
しかし今では、そんなビジネスモデルを変えてより持続可能なファッションを追求しようと、私たちのような戦略的サプライヤーと手を組んでいるのです」とボーンは話す。
今ではほとんどの企業が、持続可能性や自社の環境対策が社会にもたらす影響に関するESG目標を掲げている。目標を達成するために、ルルレモン・アスレティカ(Lululemon Athletica)やリーバイスなどの世界的なファッションブランドはライクラに協力を仰いでいる。持続可能な繊維を生地に採用することで、二酸化炭素排出量を減らそうとしているのだ。
「こうして小売業界と新しく取引できるというのは、ライクラがサステナビリティに注力してきたことが正しかったという何よりの証しであり、利益が出せるという証しでもあります。このような関係を築くことで、企業としてこれからも持続的に発展していけます」とボーンは話す。
2. リサイクル素材を使った革新的な製品
国連環境計画(UNEP)の報告書によると、1秒ごとにトラック1台分の衣類が焼却、あるいは埋め立て処分されている。米環境保護庁(EPA)の推計では、アメリカでは毎年、繊維製品全体の85%が廃棄されている。2018年のリサイクル率は14.7%、250万トンにとどまった。
現在、生産される繊維の多くがリサイクルされず、そのほとんどが埋め立てられている。
Ernest Rose / Shutterstock.com
ファッション業界に対しては、その製品が環境に与える影響の大きさから、ますます厳しい目が向けられている。ライクラはリサイクル素材を使用した繊維のイノベーションに取り組んでおり、衣類のライフサイクルを改善したいブランドにとっては好ましいビジネスパートナーである。
ライクラは2019年9月、新たなポリマーと自社工場で回収されたくず繊維をブレンドしたエコメイド(EcoMade)ファイバーを開発し、デニムジーンズを製造すると発表した。この先駆的な素材は20%のリサイクル材を使用している。
「サステナビリティは製造の段階から始まり、服の寿命が尽きるまで、あらゆる段階でリサイクルします」とボーンは話す。
3. 衣服の寿命を延ばす
独調査会社スタティスタ(Statista)が実施した2020年の調査によると、2019年、アメリカの平均的な消費者が所有する衣服のうち、古着が占める比率は7%であることが分かった。この比率は2029年には17%に上昇すると予想されている。
スリフトストア(寄付による慈善目的の再販)や古着市場は、衣服や装飾品を長期にわたって流通させることができる。そこでライクラは、ライフサイクルを延ばすために、より長持ちする高品質の服づくりを手掛けつつ、ファッション業界の二酸化炭素排出量削減に努めている。
スリフトストアの衣服
Sophie Walster/Getty Images
ボーンは言う。
「ファッション業界は、寄付やレンタル、古着などの分野にも展開するようになりました。これらの新しい事業では、衣服の耐用年数が長いということが必須になります。
結局のところ、資源を節約する最善の方法は、品質が悪いという理由で服を捨てないことです。私たちには生地や衣料品の質を見極める眼がありますし、耐久性を高める技術も持っています」
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)