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美しい自然を味わわずに死ねるか。日本発の“サーキュラー建築”で世界進出狙うSANUの原動力

対談

Sanu CEOの福島弦さん(左)、ファウンダー兼ブランドディレクターの本間貴裕さん(右)

撮影:佐藤新也

社会課題の解決に取り組むミレニアル世代を応援するBusiness Insider Japan主催のアワード「BEYOND MILLENNIALS(ビヨンド・ミレニアルズ) 2022」が、1月24日からスタートする。「サーキュラーエコノミー」「ダイバーシティ&インクルージョン」「ローカル」「テクノロジー×ビジネス」そして「Z世代」の挑戦者たちに、その思いを聞く。

第4回は、自然の中にもう一つの家をもつためのサブスクリプション・サービス「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)」を提供するSanu CEOの福島弦さんとファウンダー兼ブランドディレクターの本間貴裕さん。


雪山で遊んだ幼少期。その喜びも怖さも肌で感じていた

「自然が好きな人が増えれば、結果的に自然を大切にする人が増えていく。自然との共生を考える上では、自然の中で遊んだ原体験が大切だと思います」

Sanu CEO福島弦さんのそれは、北海道の雪山だった。

雪山で遊ぶ喜びも怖さも、気候変動で毎年雪が減っていたことも、子どもの頃から肌で感じてきた。誰よりもまず、自分がそこに滞在したい、あるいは大切な人を連れてきたい、自然の中の第2の家。そんな発想が、自然の中にもう一つの家をもつためのサブスクリプションサービス 「SANU 2nd Home (サヌ セカンドホーム) 」の出発点だと言う。

「SANU 2nd Home」は、月額5万5000円の定額会員制サービスで、2021年4月に会員募集を開始。同年11月、白樺湖と八ヶ岳に2拠点をオープンした。

「第2の家」となる「SANU CABIN(サヌ キャビン)」は、キッチンやワークスペース、浴室などを備えた「住まい」。「Live with nature――自然と共に生きる。」というSANUのコンセプトを実現すべく、「サーキュラー建築」という循環型の設計になっている。

「原材料の選択については、調達、施工はもちろん、解体や廃棄まで、ライフサイクルを通じて考える必要があります。慎重に検討を進めてたどり着いた原料が、シンプルに『国産の木材』でした」と福島さん。

キャビンの開発は、サステナブルな建築を得意とするADXと共同で実施。

基礎部分は土壌へのダメージを最低限にするため、高床式となっている。強度を維持しつつ風や水の通り道を確保し、その土地の生態系をできる限り壊さない工法を取っている。

接着剤や釘を極力使わず、あえて解体可能なプレハブ構造を採用。役目を終えた木材は、チップや家具の材料として再生できる。

キャビン

2021年11月13日には、白樺湖1stでSANU CABIN内覧会が行われた。夕刻になるとキャビンの屋根に木の影が映し出された。

撮影:小倉宏弥

それだけではない。森林の再生を視野に入れた息の長い「木」の使い方が、SANU CABINの大きな特徴だ。

「木はCO2を吸収してくれる、すばらしい天然資源です。僕らは2022年春頃までに計7拠点・50棟のキャビンをオープン予定ですが、CO2吸収量が減少してくる樹齢50~70年の老木約7500本をその建材として使用し、資金の一部を使って7500本の若木を植林します。

こうすることで、CO2排出量より吸収量が上回るようになる。キャビンをつくればつくるほど自然が豊かになる、という発想です」(福島さん)

「SANU 2nd Home」には初期会員枠を大きく超える1500名以上の申し込みがあり、現在は枠が増え次第先着順で会員となれるウェイティング登録を受付中だ。また、2021年11月にオープンした2拠点5棟、2022年春頃開業予定の5拠点45棟、計7拠点50棟のために、2021年12月には総額約22億円の資金調達を実現した。

コロナ禍でのワーケーション需要もさることながら、「Live with nature」というコンセプトが熱い共感を得ていることをかがわせる。

「消費者」ではなく「生活者」として

本

写真のSANU BRAND CONSEPT BOOKはすべて本間さんの写真と文章によるもの。自分たちでやってみる過程で自問自答が入り自分たちの言葉で書くようになると言う。

撮影:佐藤新也

SANU CABINは「生活の場」。「消費者」ではなく「生活者」の視点を大切にしている。Uber Eatsで食べ物が簡単に届く時代に、あえて地元の野菜を買って料理してみる。あるいは、自分で焚火をつけてみる。ライフスタイルブランドとしてSANUが提案するのは“自活する”楽しさだ。

「地域の素敵な人と知り合ったり、美しい風景を見つけたり……SANU CABINに滞在することで、地域の魅力をぜひ自分で発見してほしい。ただし、何も仕掛けがなければ出会いの確率は低くなる。さまざまな情報を持っておいて、セレンディピティの確率を上げていくことが僕らの役割だと思っています」(本間さん)

押し付けではなく、求めれば情報がそこにある。そんな距離感を、本間さんは「そっと机の上に置いておくように」と形容する。

なお、SANU CABINは宿泊運営管理システム「suitebook」とWi-Fi型スマートロック「RemoteLOCK」の導入により、非接触の多拠点・無人運営を実現している。

無人管理としたのは、自分の家の鍵を開けるように室内に入ってほしいから。そして、入室管理などの事務作業はシステムに任せて、スタッフには地元の人たちとの交流イベントやアクティビティの企画など、より楽しい仕事に時間を割いてほしいからです」と本間さん。

現在、緊急時の駆けつけ対応は、2人の友人である地元のペンション経営者に依頼している。

「今後拠点を増やしていく中でも、単なる業務委託ではなく、人とのつながりは大切にしたい。地域の自然に詳しいキーパーソンが必ずいて、セカンドホームの周りにコミュニティができていくのが理想です」(本間さん)

まだ見ぬ自然の美しさを求めて。事業の発端は根源的な欲求

「SANU 2nd Home」の構想が形になるまでには丸1年を要し、福島さんと本間さんの間には、互いのルーツにも関わる長い議論があったという。「自然が好き」という共通点をもつ2人だが、歩んできたキャリアは大きく異なる。

雪山で育ち、スキーとラグビーをこよなく愛する福島さんは岩見沢市生まれ。2010年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、グローバル企業の戦略立案や政府関連プロジェクトなどに関わってきた。

その中で、生態系の破壊や気候変動が、いかに差し迫った「危機」であるかを実感していく。特にヨルダンで太陽光エネルギー開発事業に携わったことが、現在の自分に大きな影響を与えたと言う。

福島弦さん

撮影:佐藤新也

帰国後はプロラグビーチーム「サンウルブズ」に創業メンバーとして参加。ラグビーワールドカップ2019年日本大会の運営にも参画した。「ラグビーから学んだことはDiversity is Power、この言葉に尽きます」と福島さんは熱を込める。

「それぞれの役割の違いや、国籍も肌の色も宗教の違いも越えて、一つのチームとしてアプローチしていく。そこが、ラグビーの最大の魅力です。

Sanuもライフスタイルを提案する会社ですから、多様な視点をもつことが強みになる。今後は国籍も含め、できるだけ多様なバックグラウンドをもつ人間を採用して、ダイバーシティのあるチームにしていきたいですね」(福島さん)

サーフィンとスノーボードをライフワークとする本間さんは、福島県会津若松市生まれ。バックパッカーとして世界を回った経験を活かし、2010年Backpackers’Japanを24歳で創業。古民家を改装したゲストハウス「toco.」をはじめ、「Nui.」や「K5」といったホテルやホステルを次々とプロデュースしてきた。

「その過程で、人がつながるためには何らかの結節点が必要だと気付きました。それは時によってパーティだったり、お酒や音楽だったりする。

でも、イスラム教徒の方であればお酒を飲まないし、音楽にも一定の好みがあります。隔てなく世界の老若男女をつなぐものは何かと考え続けてたどりついた答えが『自然』だったんです」(本間さん)

本間貴裕さん

撮影:佐藤新也

30代に入ってからはさらに踏み込んで「自然のど真ん中」を仕事にしたいと思うようになったという。

「東京で忙しい日々を送っているうちに、20代では気づかなかった自然の美しさに惹かれるようになったんですね。海に入って見る朝日とか、雪山の静けさとか――。

人生100年時代と言われますが、今36歳の僕がある程度厳しい自然環境に身を置いてサーフィンとスノーボードを楽しめるのは、おそらくあと30シーズンくらいかなと。

時間が限られているなら、もっと自然そのものと向き合うことを仕事にしたい。世界にはまだ僕の知らない美しい風景があるのに、それを味わわずには死ねない」(本間さん)

こうして本間さんは2019年11月、Backpackers' Japanの非常勤役員として戦略立案を担い、兼ねてより海や山へ遊びに行っていた盟友の福島さんを誘い、新会社を立ち上げた。

「人間の活動は自然を壊す」という誤解と千葉のステイホーム生活

新会社を立ち上げはしたが、SANUの名もまだなかった。「決まっていたのは自然をテーマに仕事しようぜってことと、多くの人にアプローチできるライフスタイルブランドにしたいってことだけでした」と本間さんは語る。

「既存のビジネスをベースに考えるのではなく、自分たちのルーツから事業を考えようとすると究極は『生き方』の問題になってしまう。最初の1年は『人間にとって自然とは』『僕らが掲げるべき理念とは』といった哲学的なことを長いこと議論していました」(本間さん)

人間が関われば、どうしても自然は傷つくのではないか――終わらない議論の突破口となったのが、冒険家・石川直樹の写真展で出会った次のような言葉だ。

“ニュージーランドの原生林が美しい姿を保っているのは、マオリの人々が畏敬の念を持って自然と対等に接したからこそだ。

自然との共生とは、人間が自然を守ることではなく、人間と自然が対等な関係を結ぶことではなかったか”

パンフレット

手前は白樺湖1stのSANU CABINに置かれる薪を提供する業者から、開業祝いにもらった薪の飾り。その奥に立てかけられているのが昨年11月のオープニングレセプションのために制作したパネル。

撮影:佐藤新也

「目を開かされました。里山も人の手が入らなければ荒れてしまう。資本主義が肥大した現在は『人間の活動は自然を壊す』と思われているけれど、『人間が関わることで自然が豊かになる』ような生活スタイルは、かつては当たり前だったはず。

個人がそのサイクルに入っていけるなら、事業としても可能なはずだと確信しました」(本間さん)

ここから「自然と共に生きる」というSANUのコンセプトが明確な形を取り始める。しかし、コロナ禍により、事業化はなかなか進まなかった。

2020年の春、本間さんは千葉県の一宮海岸に家を借り、1人で約1カ月間のステイホーム生活をする。これが思いがけず「SANU 2nd Home」の具体的なアイデアにつながった。

「朝と夕方は海に入って、日中はZoomで仕事。買い溜めた食材で自炊し、海辺に咲いていた花を切ってきて飾る。そんな時間がとても豊かだったんですね。自分の輪郭が次第にはっきりしていくような気がしました」(本間さん)

この暮らしが気に入った本間さんは、長期で借りられる賃貸物件や購入物件を探したが、適当な家がなく莫大な費用もかかる。クレジットカード1枚でその日から家を持てたらいいのに……。

このアイデアを福島さんに話して事業化を決定したのが6月。翌7月には早くもリリースを出している。

クレド

2021年末、移転したばかりの日本橋オフィスの壁に書かれていたSANUのクレド(行動指針)。

撮影:佐藤新也

日本全国から世界まで、自然の中は楽しいから一緒に行こう

SANU CABINは、「都市部から2時間程度で出かけられる魅力的な場所」を条件に、日本全国への拠点拡大を目指しており、2025年までに40拠点400棟をオープンさせる予定だ。

「自然を愛する人の数は、10人より100人、100人より1000人のほうがいい。我々が目指すLive with natureというコンセプトを、どうやって一人でも多くの人に届けるかを考えるのが僕の役割だと思っています」(福島さん)

環境危機は国境を越えた問題であり、アジア圏でも急激に都市化が進んでいる。世界展開は当然考えていると福島さんは明言する。

「本間さんが語った、『仕事を通して、まだ見ぬ自然の中へ行きたい』という根源的な欲求も、SANUのもつ重要なスピリットです。

たとえば香港やシンガポールなどの大都市から車で2時間走ったところには、一体どんな自然が広がっているのか。どんな鳥の声が聞こえて、緑の色や空気の匂いは日本とどう違うのか、僕ら自身も知りたい」(福島さん)

自然の中は楽しいから一緒に行こうと多くの人に呼びかけながら、日本全国から世界へ。すると自然を愛する人が増え、その結果人の生活様式が変わり、自然の再生につながっていく——。

Sanuの見据える「山の頂」が、はっきりと見えてきた。

談笑

「自分たち自身がSANUの一番の消費者」と口を揃える。

撮影:佐藤新也

(文・坂口香野、写真・佐藤新也、編集・小倉宏弥)


※SANU 2nd Homeの福島弦さんと本間貴裕さんは、社会課題解決に取り組むミレニアル・Z世代を表彰するアワード&トークイベント「BEYOND MILLENNIALS 2022」(1月24〜28日オンライン開催)にノミネートされています。1月24日(月)には、ノミネートされたファイナリスト20人の中から、選ばれた5人の受賞者が登壇するピッチセッションを開催します。詳しくはこちらから。

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