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カザフ騒乱に見る米中ロ「21世紀のグレート・ゲーム」の本格化。「国内の権力闘争、一件落着」は安易すぎる

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カザフスタンのトカエフ大統領。絶大な権力を30年間維持したナザルバエフ前大統領の忠実な後継者とみられていたが……。

Official website of the President of Kazakhstan/Handout via REUTERS

中央アジア・カザフスタンで激化していた大規模デモは、トカエフ大統領がロシアと中国の支持を得ながら、前大統領とその勢力を一掃して事態を収拾した。

大統領と中ロ両国は、西側諸国やイスラム勢力など国外からの関与があったと非難しているが、不明な点も多い。

カザフの情勢には米中間あるいは米ロ間の対立が投影され、大国の利害が複雑にからみ合った「21世紀のグレート・ゲーム」を思わせる。

「武力侵略」「クーデター」を鎮圧と宣言

まずは大規模デモの発生から収拾までの経過をふり返っておきたい。

カザフ政府は1月1日、同国で自動車用燃料として広く使われる液化石油ガス(LPG)料金を2倍に値上げすると発表。それに端を発し、カスピ海東部の石油都市ジャナオゼンで抗議デモが起きると、またたく間に主要都市アルマトイ、首都ヌルスルタンなど全土に波及。

デモは過激化の一途をたどり、5日にはアルマトイ空港を一時占拠して暴徒化。政府は同日、非常事態を宣言した。

トカエフ大統領は同日、30年近くカザフの権力を独占してきた「国父」ナザルバエフ前大統領から(大統領退任後に就いた国防・治安の要職である)安全保障会議議長の職を奪って自ら引き継ぎ、また、マミン首相を事実上の更迭に追い込んだ。

大統領はさらに、ロシアなど5カ国が加盟する集団安全保障条約機構(CSTO)に派兵を要請。約2500名からなる治安維持部隊は翌6日から順次カザフ入りした。

8日には、ナザルバエフ前大統領の腹心で首相などを歴任した治安組織(国家保安委員会)トップのマシモフ前議長を逮捕したと発表。

11日の下院演説で大統領は「国際テロ集団による武力侵略」「国家転覆のクーデター」を鎮圧し、勝利したと宣言した。

一連の騒乱に伴う死者は225人(CSTO治安維持部隊の19人含む)、拘束者は8000人(1万2000人とも)と報じられている。

要請翌日に派兵したロシアの思惑

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集団安全保障条約機構(CSTO)加盟国首脳と緊急ビデオ会議(1月10日)に臨んだロシア・プーチン大統領。

Sputnik/Aleksey Nikolskyi/Kremlin via REUTERS

特筆すべきはロシアと中国の対応の素早さだ。

旧ソ連構成国のカザフは、ロシアにとって「裏庭」とも言える勢力圏。旧ソ連時代には(セミパラチンスク)核実験場が置かれ、数々の衛星を打ち上げてきたバイコヌール宇宙基地はいまも現役で使われている。

ロシア軍主体のCSTO治安維持部隊がカザフ入りしたのは、要請を受けた翌日だった。部隊はカザフ治安部隊の後方支援と重要施設の警護など裏方に徹し、デモ鎮圧そのものには関与しなかった。それでも、CSTOが加盟国の治安維持のため兵力の派遣にまで動いたのは、今回が初めてだ。

ロシアのプーチン大統領は1月10日に開いたCSTO緊急首脳会議で、「我々は『カラー革命』を容認しない」と述べ、今回の騒乱が外部勢力による政権転覆の試みだったとの見方を示している。

カラー革命とは、旧ソ連圏で大規模デモが独裁政権を崩壊させた数々の政変を指す。2004年ウクライナ大統領選挙の結果に抗議して再投票(および野党側候補の逆転勝利)を実現した「オレンジ革命」や、2005年キルギス議会選挙の結果に抗議して大統領を失脚に追い込んだ「チューリップ革命」などがそれにあたる。

ロシアとしては、カザフでそれらの政変が再現されるのは何としても阻止しなければならない。親欧米政権が誕生すれば、キルギスタンやトルクメニスタンのような近隣の不安定政権にも「ドミノ現象」が及び、中央アジア全体が反ロシア化するおそれがあるからだ。

中国とソ連はカザフで利害一致、でも「同盟」はない

中国の対応も素早かった。習近平国家主席は1月7日、トカエフ大統領に電話して「中国は、外部勢力がカザフでカラー革命を起こすことに断固反対する」と述べ、トカエフ支持を鮮明にしている。

中国外務省の報道官も同日カザフのデモ鎮圧を支持し、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)の枠組みで支援する意向を示した。その時点では、トカエフ大統領とナザルバエフ前大統領周辺との関係はまだはっきりしていなかった。

ただ、背後の動きを想像させる事実関係がある。

外交官出身のトカエフ大統領は中国語が堪能(たんのう)だ。ゴルバチョフ政権時代の1980年代半ばから90年代にかけ、北京のソ連大使館での勤務経験もある。

大統領は中国に対して内々に(翌日発表の)ナザルバエフ腹心のマシモフ(国家保安委員会前議長)逮捕を知らせていたかもしれない。習氏もトカエフ大統領による政権掌握を確信していたからこそ、自ら電話で支持を表明したのではないか。

カザフは、中国が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」において、中国と欧州を陸上輸送で結ぶ「中欧班列」が横断する要衝。中国・新疆ウイグル自治区とは南東部で国境を接し、ウイグル族も多数居住する。

カザフで反中政権が誕生すれば、新疆の情勢にも影響し、ひいては中国国内にも余波が及ぶだろう。

その点で中ロの利害は一致する。

ただ、今回のカザフ騒乱では利害一致した両国だが、今後もアメリカに対抗するため、中国とロシアが同盟化していくとみるのは正しくない。

その理由として、中国の外交関係者は筆者に対し、「中国は自然災害に見舞われた1960年代に、同盟関係にあったソ連が技術者を引き揚げたのを忘れていない。中国はあらゆる同盟に反対しており、代わってパートナーシップ協定を結んでいる」と説明する。

「外国の関与」はあったのか

欧米諸国はカザフで起きた抗議デモへの支援を否定する一方で、「平和的」デモへの弾圧は非難している。

ブリンケン米国務長官は1月6日、カザフ外相に電話して、市民の権利を尊重すべきと伝えた。国務省のプライス報道官も同日、「平和的なデモ参加者へのいかなる暴力も非難する」と述べた。

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相に相当)は、ロシアを念頭に「外部からの軍事支援」に警戒感を表明している。

それに対しトカエフ大統領は10日、EUのミシェル大統領との電話協議で、国内の騒乱が「周到に準備された組織的なテロ攻撃」であると指摘し、アフガニスタンや中東などからの戦闘員が参加していたと説明した。

また、ロシアのメディアは、カザフ民主化を主張する非政府組織(NGO)が全米民主主義基金などから資金援助を受けていたと報道。特に抗議デモ発生の2週間前の12月16日、カザフの米大使館が現地でのデモ計画について注意喚起する通知を出していたと報じている。

それらが今回のデモの背後にアメリカがいることを示す情報なのか、偶然の一致にすぎないのか、断定はできない。

ただ、デモ隊のなかに訓練された狙撃手がいた、あるいは騒乱のさなかで殺害された警察官3人が斬首されていたといった欧米メディアの報道もあり、アメリカに限らず、イスラム過激派など国外の勢力が関与した可能性を否定することはできない。

「21世紀のグレートゲーム」

トカエフ大統領が「クーデター」と断定した今回の騒乱は、ナザルバエフ前大統領の忠実な後継者とみられていたトカエフ大統領が、ナザルバエフ氏を取り囲む勢力と対立する権力闘争に収れんしたと言える。

デモ隊がナザルバエフ氏を名指しで非難するのをみたトカエフ大統領は、1月11日の議会演説で「経済発展の恩恵を受けているのは一部の特権的寡占グループ。富の分配や公平な自由競争社会が阻害されてきた」と、ナザルバエフ氏の強大な権力のもとで運営されてきた従来の政治を公然と非難した。

まずはロシアに派兵を求め、カザフがロシアの勢力圏にあることを内外に示し、中国からも政治的支持を得て「外堀を埋め」た上で、満を持して権力闘争に勝利する。トカエフ大統領の政治力量は相当なものだ。

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カザフスタンに派遣されたロシア主導の「集団安全保障条約機構(CSTO)」治安部隊。画像は撤退時の撮影。

REUTERS/Pavel Mikheyev

今回の騒乱は、ロシアがウクライナとの国境地帯に約10万の部隊を集結させ、ウクライナへの軍事侵攻を懸念するアメリカとの協議が続くなかで起きている。カザフ情勢を米中、米ロ対立と結びつけて観察・分析するのは自然だろう。

米中ロは今後も、カザフやウクライナの情勢、台湾の動きを連動させながら、それぞれの外交政策を決めていくはずだ。

カザフの南には、旧ソ連構成国のウズベキスタンやトルクメニスタンを挟んで、イスラム主義組織タリバンが政権運営するアフガニスタンがある。

旧ソ連はアフガニスタン侵攻に失敗し、それが崩壊の遠因になった。アメリカも「反テロ戦争」を名目に派兵したものの、2000人以上もの戦死者を出して20年後に完全撤退している。

さらにその前、19世紀のアフガニスタンでは、大英帝国とロシア帝国が抗争する「グレート・ゲーム」が展開された。

そして地続きのアフガニスタンの歴史と同じように、今回のカザフ騒乱も、米中ロなど大国の利害が複雑に絡みあって、いわば「21世紀のグレート・ゲーム」の様相を呈した。

大国の狭間で生きのびるには、大国を手玉にとらねばならない

今回、国内の権力闘争のためにロシアと中国を立てたトカエフ大統領だが、いずれ欧米との関係を改善する動きに出ると筆者は考えている。ナザルバエフ氏も大統領時代、中ロの間をうまく泳ぎつつ、欧米とも良好な関係を維持した。

そのように中央アジアで地殻変動が続くなか、中国とロシアはもはや枕を高くして寝てはいられない。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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