ベンチャーキャピタリスト(VC)はビジネストレンドの目利きだ。まだ多くの人が気づいていない変化をいち早く察知し、それらが社会や経済をどう変えていくかを見抜く選球眼を備えている。
そこでInsiderは、一線で活躍するVCたちに、今注目しているトレンドや投資テーマを尋ねた。
その結果浮上した19のテーマを前後編の2本立てで紹介。前編ではそのうち10テーマを紹介したが、本稿では残る9つのテーマを発表する。
VCたちの目には今、どんなトレンドが見えているのだろうか?
11. メタバースにがっかりさせられる
メタは社名変更にあたり、メタバースの世界がどんなものになるかを示す動画を制作した。
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メタバースの概念は、しばらくの間ゲームやSFの世界にとどまっていたが、この1年でカルチャーの主流になった。フェイスブックは「メタ(Meta)」と社名変更した。バーチャル不動産に何百万ドルもの資金を費やしている人もいる。マッチングアプリのバンドル(Bumble)もメタバースに参入している。
シグナルファイア(SignalFire)のパートナー、エレイン・ゼルビー(Elaine Zelby)によると、メタバースに大手ブランドが参入するのは当然の成り行きだったという。ゼルビーは、2022年には一般消費者の後に続いて企業もデジタル世界に進出するだろうと見ている。
「ディセントラランド(Decentraland)やサンドボックス(Sandbox)といった仮想世界の土地を買収して自社のブランドをアピールしたり、デジタル商品の開発や発売に役立つスタートアップを買収したりするようになるでしょう」
一方、スタートアップスタジオのオール・タートルズ(All Turtles)CEOのフィル・リービン(Phil Libin)は一貫して懐疑的だ。エバーノート(Evernote)やンーフー(mmhmm)の創業者として知られるリービンは、メタバースは最終的にわれわれを失望させるだろうと予測し、こう述べる。
「(仮想現実は)『ハードウェアの準備が整っていない』ことが言い訳にならないくらい良いものになるでしょう。そうなれば世界はメタバースを『時代遅れ』と見なすようになるでしょうね」
12. ニューヨークの隆盛は今後も続く
パンデミックを経ても、大都市ニューヨークには人が集まりそうだ。
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インスパイアードキャピタル(Inspired Capital)のマネージングパートナー、アレクサ・フォン・トーベル(Alexa von Tobel)は、自身のポッドキャストで何十人もの創業者にインタビューし、2022年は週に何日オフィスで働く予定か尋ねたという。彼らの答えは「3日」。それを聞いて、2022年は人々が一斉にニューヨークへ戻ってくるだろうと彼女は考えるようになった。
「ハイブリッド型の働き方をきっかけに週3日のオフィス勤務が現実味を帯びてきたことから、ニューヨークの隆盛は今後も続くと私は考えています。
私はニューヨーカーとして、パンデミック前から長くこの街を見てきました。ニューヨークは今後も多くの優れた事業者たちを惹きつけていくと思います。それを裏付けるデータもいくつかあって、例えば企業の経営幹部の83%は、ニューヨーク市内にいる優秀な人材の中から必要なテック人材を確保できると考えており、そうすることで他の都市よりも労働力の多様化が図れると考えています」
13. ブルックリンが暗号化企業の主要なハブに
ブルックリンにはブロックチェーンの新興企業が集まる。
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金融の未来はウォール街のすぐ近くにあるかもしれない、と言うのは、インデックスベンチャーズ(Index Ventures)のパートナー、マーク・ゴールドバーグ(Mark Goldberg)だ。ゴールドバーグは、ブルックリンがブロックチェーン企業とデジタル資産のハブになると予測している。
ブルックリンにはすでに、イーサリアムに特化したスタートアップのスタジオ、コンセンシス(Consenssys)や、マリオ・ガブリエル(Mario Gabriele)、パッキー・マコーミック(Packy McCormick)、アッシュ・イーガン(Ash Egan)をはじめとする業界のオピニオンリーダーらが拠点を置いている。ゴールドバーグは次のように述べる。
「世界屈指の銀行から業界に関する知識が得られ、コロナ禍を受けて西海岸から多くの一流IT技術者が移住してきたほか、最も活気に満ちたアートや文化の世界が1カ所に集約されている場所、それがニューヨークです。フィンテックがカルチャーと融合する中で、特にニューヨーク市とブルックリンはWeb3の人材とスタートアップの集積地になっています」
14. 新しい働き方に即したソフトウェアが登場する
柔軟な働き方を支援するツールも次々に生まれるだろう。
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新たな仕事用ツールの需要がコロナ禍で急増したのには、2つの理由がある。ジャニュアリー・ベンチャーズ(January Ventures)の共同創業者でマネージングパートナーのマレン・バノン(Maren Bannon)が指摘する第一の理由は、コロナ禍に関連する不確定要素によって労働者のオフィス復帰が遅れているため。オフィス内での作業や在宅勤務をしている同僚とのコラボレーションの際に、こうしたソフトウェアが使われるからだ。
第二に、アメリカのZ世代の多くは個人事業主になりたがっているからだと言うのは、フィーメール・ファウンダーズ・ファンド(Female Founders Fund)のパートナー、アヌ・ダッガル(Anu Duggal)だ。
この2人の投資家は、ハイブリッド型の勤務形態が登場したことで新しいソフトウェアが生まれると見込んでいる。
「この1年で、在宅勤務やより柔軟なライフスタイルに対する需要があることがますます明らかになってきました。コロナ禍が1つのきっかけになったことは確かですが、Z世代の旺盛な起業家精神は、従来型の労働環境のあり方も変えつつあります」とダッガルは言う。
15. ベンチャー企業で活躍する女性の割合が増える
男性ばかりの同質性を長らく指摘されてきたVC業界でも、女性の活躍が徐々に目立ち始めている。
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アレクシス・オハニアン(Alexis Ohanian)が率いるセブンセブンシックス(Seven Seven Six)共同創業者であるケートリン・ホロウェイ(Katelin Holloway)によると、2022年には、これまで以上に多くの女性が、男性ばかりが集まるVCの世界で活躍するようになるという。
シアトルの金融情報サービス企業、ピッチブック(PitchBook)の最新レポートによると、5000万ドル(約58億円)以上の資産を持つベンチャー企業のゼネラルパートナーに占める女性の割合は、2021年に15%に上昇したという。
「過去2年のこうした変化は、VC業界にとって本当に驚くべきものでした。男性ばかりで構成されるこの業界の同質性については、何年も前から多くの人に批判されてきましたから」とホロウェイは述べる。
「VC業界を公平なものにするという議論がこれまで以上に活発になり、女性がこれまで以上に多くの役割を果たすようになると確信しています」と彼女は続けた。
16. サイバーセキュリティ関連のスタートアップへの投資が倍増
サイバーセキュリティに対する企業の投資額は急増している。
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この1年、新型コロナウイルスの感染拡大のほか、マイクロソフト(Microsoft)やソーラーウィンズ(SolarWinds)へのサイバー攻撃によって、サイバーセキュリティ業界の重要性がかつてなく増した。投資家たちはサイバーセキュリティ関連のスタートアップに記録的な額の資金を投じた。
キャピタルG(CapitalG)のゼネラルパートナー、ジーン・フランツ(Gene Frantz)の予測によると、サイバーセキュリティへの投資は2021年に倍増する見通しで(2021年12月末時点)、2022年にもさらに倍増するという。
フランツによると、投資家の積極的な投資意欲がこの分野に新規参入を促しており、これらの企業のうち1〜2社は今後5年間で1500億ドル(約17兆円)以上の評価額を得るだろうという。フランツは言う。
「今のところ、サイバーセキュリティ分野のグーグルやマイクロソフトは存在していません。企業全体でクラウドコンピューティングやインフラの導入が急速に進むことで、サイバーセキュリティ分野にも初めて、世代をまたがるリーダー企業が生まれるかもしれません」
17. 振り子は活発な投資家の方に振れる
大手VCの一社、タイガー・グローバルは2021年上期に積極的な投資を行った。
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この1年で、ベンチャー市場は積極的な投資家グループと消極的な投資家グループの2つに分かれた。特に、2021年上期に最も積極的に投資したのは、タイガー・グローバル(Tiger Global)だ。創業者が一人で事業を運営しているという評判もあったが、そのことも少なからず影響しているだろう。
インデックス・ベンチャーズ(Index Ventures)のパートナー、マイク・ボルピ(Mike Volpi)は、このような投資家を「ジャスト・マネー(just money:お金だけ)」と名付けている。彼は起業家らに対し、支援者は「自分たちの会社に合っているかどうかをしっかり見極めて」賢く選ぶようにとアドバイスする。
投資家らによれば、積極的な投資家は遅かれ早かれ戻ってくるはずだからだという。
メンロ・ベンチャーズ(Menlo Ventures)のパートナー、マット・マーフィー(Matt Murphy)はこう語る。
「(2022年に)消極的な投資家へのシフトが主流になっても、起業家たちは、いずれ積極的な投資家の元へ戻ってくるでしょう。なぜなら、そうした積極的な投資家こそが、本当の意味で会社の立ち上げ、ネットワークやリソースの構築を手助けしてくれる存在だからです」(マーフィーはタイガー・グローバルの具体名は出していない)
18. 中南米がテックハブとして台頭し、他国のライバルとなる
VCたちは中南米地域にも投資の機会を見出している(写真はサンパウロ市)。
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2022年にはベンチャー投資家が大挙して、長年見過ごされてきた中南米地域に目を向けるかもしれない。
中南米では2021年、スタートアップが記録的な額の資金を獲得した。ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ(Lightspeed Venture Partners)のロリタ・タウブ(Lolita Taub)は、この地域は人口が多く、インターネット利用者が多くいることから、イノベーションの機が熟したと言う。
これは掘り出し物を狙うVCにとって朗報だ。「将来的にユニコーンとなる企業のバリュエーションは、現在のアメリカ企業のバリュエーションの数分の1です」とタウブは言う。
19. ハイブリッド型の勤務形態によってオンライン飲み会が激減する
オンライン飲み会は激減しそう。
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Zoom疲れが現実のものとなっている。そのため、2022年には仮想イベントやZoom飲み会のようなイベントは大幅に減少するだろう、とシグナルファイアー(SignalFire)のパートナー、エレイン・ゼルビー(Elaine Zelby)やメンロ・ベンチャーズ(Menlo Ventures)のパートナー、マット・マーフィー(Matt Murphy)は予測する。
その予測には乾杯すべきだろう。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:VCs say Web3, party rounds, and New York's resurgence are among the tech trends to watch in 2022]