米ウォール街の銀行大手各社のなかには、ビットコイン価格の推移について強気の見方を示すところが増えている。
Malte Mueller
2021年、ビットコイン価格は急騰し、資産クラスの時価総額トップ10入りを果たした。
ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)ら金融大手のアナリストらにとっては、もはや無視できない大きな存在と言っていいだろう。
上記の金融大手3社のうち2社は、ビットコインについて強気の長期目標価格を設定している。
ゴールドマンのグローバルFX・EM戦略(共同)責任者のザック・パンドルは、ビットコイン価格が10万ドル(約1150万円)に達するシナリオを想定している。
JPモルガンのストラテジスト、ニコラオス・パニギルツォグルは2022年1月のレポートで、ビットコインとゴールド(金)が投資先として競合する展開を想定。理論上の価格は14万6000ドルになると指摘して話題を呼んだ。
残る金融大手1社のバンカメは、2021年10月にデジタル資産に関する調査レポートの発行を開始し、デジタル資産の市場規模は「無視するには大きすぎる」と強調。
同銀デジタル資産ストラテジストのアルケシュ・シャーは同レポートにこう記している。
「暗号ベースのデジタル資産はまったく新しい資産クラスを形成する可能性があると考えています。ブロックチェーン技術、デジタル資産、そしてこれから登場する何千もの分散型アプリケーション(DApps)が社会にもたらすであろう変革は、語り尽くすことができないほどです」
一方、ビットコインについて弱気のスタンスを崩さないところもある。
運用資産残高2.6兆ドル(約300兆円)のスイス金融大手UBSは、「プロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETF」のような優れて洗練された投資商品が登場したあとも、暗号資産は純粋に投機的な資産クラスとみている。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのマーク・ヘーフェリ最高投資責任者(CIO)率いるチームは次のように指摘する。
「当社は暗号資産やトークンへの直接的なエクスポージャー(=資産のある割合を投資リスクにさらすこと)は、きわめてリスク許容度の高い投資家にのみ適していると考えています。デジタル資産を支えるテクノロジーのポテンシャルは評価するものの、暗号資産そのものは引き続き投機的であるとみなしています」
Insiderは、ウォール街のトップアナリストによる現時点で入手可能なビットコイン価格予測をすべて集め、分析した。
ゴールドマン・サックスによる見通し
ゴールドマン・サックスのストラテジストは、ビットコインが「価値の保存(ストア・オブ・バリュー)」資産として金の市場シェアを奪い続ければ、その価格は10万ドルに達する可能性があるとしている(1月4日付のレポート)。
インフレに対するヘッジとしてビットコインを購入する投資家が増えるとの考え方に基づいた見方だが、その前提として、ビットコインのボラティリティ(=価格変動性)が収束して機関投資家の大規模な資金投下を促す必要があり、そうでなければ魅力的な代替資産にはなり得ないという。
「ビットコインの市場シェアは、デジタル資産の普及に伴って、また、ビットコインに特化したスケーリングソリューションの登場によって、時間の経過とともに拡大していくと思われます。『価値の保存』市場におけるビットコインのシェアが今後5年で50%に拡大すると仮定すれば、価格は10万ドル強に値上がりする計算です。
時価総額を金と比較することは、ビットコインのリターンについて、アウトカム(=運用成果)の妥当性を評価するためのパラメータを見出すのに役立ちます」(ゴールドマンのザック・パンドル)
ゴールドマンはビットコインの時価総額7000億ドル(約80兆円)が「価値の保存」市場に占める現在のシェアを20%と評価している。なお、このレポートの発表後、ビットコインの時価総額は約7800億ドル(1月19日時点)となっている。
JPモルガンによる見通し
JPモルガンは、ビットコインをデジタルゴールド(=金に代わるデジタル資産)と評価する投資家が増えているとして、2021年11月にビットコインの長期目標価格を14万6000ドルに引き上げた。
前出のストラテジスト、ニコラオス・パニギルツォグルは次のように説明する。
「2021年9月から10月にかけて、投資家の間でインフレ懸念が再燃したのをきっかけに、ヘッジ手段としてのビットコイン活用にあらためて注目が集まりました。金投資の規模の大きさを考えると、ビットコインが『代替』通貨として割って入って金を押し出す形になるなら、長期的に(ビットコインの)価格は上場することになる」
ただし、JPモルガンの顧客は、ビットコインが2022年中に史上最高値を更新する展開は想定していないようだ。
JPモルガンがこの年末年始に顧客を対象に実施した調査の結果によれば、ビットコイン価格が年内に6万ドルを超えると答えたのは41%。年内に10万ドルに達するとの回答に至っては、わずか5%にすぎなかった。
シティグループによる見通し
米銀シティグループのアナリストチームは、デジタル資産に対する投資家の関心を相当に過大評価していたとみられる。
2020年の顧客向けレポートによれば、シティグループはビットコイン価格が2021年末までに31万8000ドルに達すると予測していた。
なお、同銀FXテクニカルズ(市場分析チーム)の責任者、トム・フィッツパトリックはビットコインを「21世紀の金」と呼んで高い評価を与えている。
モルスタ、バンカメなど他の大手銀による見通し
米銀大手のなかで初めて富裕層顧客のビットコインへのアクセスを提供したのがモルガン・スタンレーだ。2021年3月にはビットコインを保有可能な3本のファンドを立ち上げている。
暗号資産専門メディアのコインテレグラフによれば、モルガン・スタンレーのビットコインへのエクスポージャー総額は2021年9月末時点で3億ドル(約350億円)に達している。
バンク・オブ・アメリカ、カナダロイヤル銀行(RBC)、ウェルズ・ファーゴは2021年、投資可能な資産として暗号資産の調査チームを設立したが、いずれもビットコインの価格予測を公式発表していない。
ウェルズ・ファーゴのグローバル投資戦略チームは調査レポートで次のように分析している。
「当社の見解では、暗号資産はいまや(米証券取引委員会の認める)適格投資家がポートフォリオに組み入れる選択肢として、有効な検討対象へと発展を遂げました。伝統的な資産クラスの過去5年、過去10年のリターンとの関連性の低さは、暗号資産価格の長期的な決定要因が伝統的な投資資産のそれとは異なることを示唆しています。
したがって、暗号資産(の組み入れ)はポートフォリオのリスク分散につながる可能性があり、そのことが(暗号資産の)安定性と成長性を高めると考えています」
(翻訳・編集:川村力)