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- イギリスの最新調査は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数の急増が最前線で戦う医療従事者にどのような影響を与えているのか調べた。
- その結果、イギリスの集中治療室(ICU)で働く人々の間で心的外傷後ストレス障害(PTSD)と思われる症状が広がっていることが分かった。
- 医療従事者のメンタルヘルスの低下は患者のケアにも悪影響を及ぼす可能性があると、研究者らは警鐘を鳴らしている。
COVID-19が猛威を振るう中、イギリスの最新調査は、最前線で戦っている医療従事者が戦闘地域で戦う兵士と似たようなストレス状態にあることを改めて示した。
1月中旬に公表された最新調査の結果によると、イギリス各地のICUで働く医療従事者は、新型コロナウイルスのパンデミックによるPTSDと思われる症状を経験していて、そのストレスレベルはアフガニスタンでの戦争を戦った兵士たちを苦しめたのと恐らく同程度のものだという。研究者らは、重度のストレスは患者のケアの質を低下させかねないと警鐘を鳴らしている。
メンタルヘルスに最も強い影響を受けているのは、比較的経験の少ない、若い看護師たちだ。査読前のこの調査結果は、2020年後半から2021年前半にかけての最初の冬の感染拡大期の前、最中、後にイギリスのICUで働くスタッフから得た回答をまとめたものだ。
その結論は、医療従事者のメンタルヘルスの低下と仕事中の「機能障害」の増加には関連があると示唆している。
「こうした影響は、患者のケアや医療現場における労働力の長期的なレジリエンス(強靭性)に打撃を与えるだろう」と研究者らは指摘した。
絶え間なく続く危機
1年以上に及ぶ公衆衛生上の危機を通じて、警察や消防、救急といった初期対応者と医療従事者は、感染者数が急増し、病床が埋まりつつある中、迅速に対応しなければならない状況が幾度となくあった。
中国で新型コロナウイルスの感染者が最初に確認されてから2年以上、国際社会は感染拡大の"波"に繰り返し襲われている。2021年11月に確認されたオミクロン株の急拡大は、記録的な感染者数をもたらしている。
1月中旬にmedRxivのサーバーに投稿された今回の調査結果は、医療従事者が受けたダメージの影響に改めて注目したものだ。医療従事者は深刻な課題に直面している。世界的な人手不足が医療現場を襲う中、補強もなかなか進まず、メンタルヘルスの危機が高まっている。
2021年10月にはガーディアンが、イギリスの国民保健サービス(NHS)ではイングランドの登録看護師が4万人近く欠員していると報じた。アメリカでも、多くの看護師がパンデミックによる極度の疲労とストレスから、医療現場を離れることを考えていると話していた。
今回の最新調査は、NHSが運営する56のICUで働く医療従事者6000人以上のデータをもとにしている。回答者の内訳は、看護師が57.5%、医師が27.9%、その他の医療スタッフが14.5%だった。調査は資金面でイギリス国立健康研究所(NIHR)のHealth Protection Research Unitの支援を受けている。
PTSDを抱えている人は長期的な症状を経験する可能性も
研究者がCOVID-19との戦いと医療従事者のPTSDとの関連を取り上げるのは、これが初めてではない。
イエール大学公衆衛生大学院の研究者らによる2021年の調査では、アメリカの医療従事者の22%以上がPTSDと思われる兆候を見せていることが分かった。
大手医療機関メイヨー・クリニックによると、PTSDの症状としては、トラウマとなった出来事に関する記憶が突然蘇る、周囲との疎隔感や孤立感を感じる、未来に対して悲観的になる、薬物やアルコールに依存するといった症状が見られるという。
PTSDの症状に苦しむ医療従事者をサポートするため、今回のイギリスの調査結果を論文にまとめた研究者らは、職場の結束を強める、現場リーダーとスタッフ間の自分たちの体験についてのコミュニケーションを増やす、勤務予定を変更したり仕事量を減らすといった対策を挙げている。
(翻訳、編集:山口佳美)