2021年4月7日のスペースX社のファルコン9スターリンクV1.0-L23打ち上げの様子。
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宇宙ビジネスは、もはやSF物語ではない。
これまで数十年にわたり、人類の宇宙との関わりは、国際宇宙ステーションや月面着陸など巨大国家プロジェクトに限られていた。
しかし、今ではこうした状況に変化が起きている。人類の野心と技術力は大幅に高まった。宇宙関連事業を行う民間企業が世界中に誕生し、新たな宇宙開発競争が繰り広げられている。
そのひとつがご存知、イーロン・マスク率いるスペースXだが、台頭する宇宙産業はそれにとどまらない。
宇宙産業は、人間の好奇心の観点から興味深いだけでなく、投資家にとっても極めて大きな収益を生む可能性を持つ。
世界初の宇宙技術投資ファンド、セラフィム・スペース(Seraphim Space)のマーク・ボゲット(Mark Boggett)CEOは、世界有数の宇宙産業専門家だ。
ボゲットは、2021年を「新宇宙元年」と呼ぶ。上場市場、非上場市場いずれにおいても、宇宙ビジネスが新たな投資対象として広く認知されたと年だったという。
2022年の宇宙産業はどうなるだろうか? 本稿では、ボゲットの7つの予測を紹介する。
1. 宇宙産業の勢いは続く
「大型ロケットの打ち上げにより、(宇宙産業に対する)世間の関心は引き続き高まるでしょう。2021年、宇宙産業に投資された民間資本は124億ドル(約1兆4000億円)。前年比60%以上の大幅な増加となり、記録的な年となりました。宇宙産業は(さらなる成長に向けて)転換点を迎えており、私はこの勢いが続くと見ています。衛星通信や地球観測の分野では、従来型産業に破壊を起こし、新たな産業を生み出す可能性のある重要な新しい技術が登場します」
NASAの大型月面ロケットやスペースXの次世代スターシップ(Starship)など、新しい大型ロケットが来年以降に打ち上げられることで、宇宙に対する人々の熱気が高まるだろう、とボゲットは言う。
2. 気候変動に取り組む宇宙関連企業が増加
気候変動に関する大きな問題を解決するためには、新しい地理空間データと分析技術の開発がますます重要になってきているとボゲットは言う。宇宙データの高解像度化と高頻度化を実現した新たなアプリケーションの登場により、地球上の物体や活動のより精緻な監視・追跡が可能となる。
「投資家や規制当局からの圧力の強まりを受け、各社ともESG対応を急いでいます。宇宙のデータは、企業がこれまでにない規模で自分たちのオペレーションを監視する基礎を確立し、オペレーションの進捗と二酸化炭素排出量を長期的に追跡するための強力なツールを提供します」とボゲットは言う。
「気候変動対策事業に積極的な宇宙関連企業には、プラネット(Planet)、スパイア(Spire)、アイスアイ(ICEYE)、トゥモロー・ドット・アイオー(Tomorrow.io)、GHGサット(GHG Sat)、セプターエアー(Scepter Air)、ピクセル(Pixxel)、サテライト・ビュー(SatelliteVu)、サーベスト(Cervest)、サスト・グローバル(Sust Global)、RSメトリクス(RS Metrics)などがあります」
3. 宇宙関連企業は引き続きSPAC経由で上場へ
「2022年、宇宙関連企業にとって特別買収目的会社(SPAC)経由での株式公開は難しくなっていきそうですが、それでも通信や気候関連企業を中心に、宇宙市場はこの新領域でしっかりとした事業推進力と成長性を示すリーダーたちが牽引することで、引き続き発展していくと思います」
「2021年に上場した宇宙関連企業9社のうち大半の株価は、投資家の大量売却により下落しました。好調な企業はM&Aに有利なポジションを確保していますが、弱い企業は今後の統合の波の中で買収ターゲットになると予想されます」
4. クラウド技術が宇宙産業を変える
今後数年間にわたり、クラウド企業が宇宙関連事業を拡大していくだろうとボゲットは予測する。その例として、クラウドサービスプロバイダー最大手のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が1年以上前に宇宙専門部隊を設立したことを挙げる。AWSはセラフィム・キャピタル(Seraphim Capital)と提携し、宇宙事業に取り組むスタートアップ向けサービス「AWSスペースアクセラレーター(AWS Space Accelerator)」を立ち上げた。
「AWSのような先進的なクラウドサービス提供企業が、パワフルで費用対効果が高く拡張性のあるソリューションを提供し、エコシステム全体で宇宙関連企業の成長を加速させることで、宇宙産業を急速に変革しています」
AWSスペースアクセラレーターの「卒業生」たちには、ウルサ・スペース(Ursa Space)、ホークアイ360(HawkEye 360)、レオラボズ(LeoLabs)などがあるが、いずれも事業効率を飛躍的に向上させた、とボゲットは言う。
5. 衛星通信容量は飛躍的に増加
「宇宙専門コンサルティング会社ユーロコンサルト(Euroconsult)によると、ヴィアサット(ViaSat)、ユーテルサット(Eutelsat)、ヒューズ(Hughes)、SESといった大手衛星通信事業者が長年計画してきた高い情報処理能力を持つハイスループット衛星(HTS)の操業開始に伴い、2022年、世界の衛星通信容量は5倍以上増加し、20Tbps(テラビット毎秒)以上になると予想されています。
同時に、スターリンク(Starlink)やワンウェブ(OneWeb)といった新しい大規模衛星コンステレーション(複数の人工衛星を組み合わせたインターネット接続サービス)も、商用サービス提供に向けた準備を推進しています」とボゲットは言う。
6. 地球観測データも大幅に増加
「衛星通信と同様に、地球観測(Earth Observation:EO)業界も新技術により急速に変化しており、2022年には容量やモダリティ(撮画手段)が大幅に増加するでしょう。マルチデータとマルチセンサーの融合を活用し、深い分析結果が提供されます」とボゲットは言う。
「まず、衛星通信画像を提供するマクサー(Maxar)社は、リージョン(Legion)というコンステレーションを立ち上げ、通信容量を3倍以上にします。プラネット・ラボズ(Planet Labs)は、44機の衛星スーパードーブ(SuperDove)の打ち上げにより、画像処理能力を2倍にする予定です。商業用SAR(合成開口レーダー)の大幅な増加も見込まれます」
「トゥモロー・ドット・アイオー、サテライト・ビュー、ピクセルといった企業は、初のEO衛星打ち上げを計画しています。気象データ、赤外線データやハイパースペクトラル・データ(波長の違いを識別し可視化したデータ)といった新しいモダリティが初めて商業市場で利用できるようになります」とボゲットは述べる。
7. 米中の宇宙空間での競争激化
最近行われたロシアの兵器実験から出た破片は、宇宙空間の混雑が進むにつれ、宇宙での衝突の危険性が高まっていることを示しているとボゲットは言う。そして、次のように続けた。
「2021年、中国はアメリカを上回る56回の軌道への打ち上げを行い、世界の主導的地位を目指すとともに、月面開発のパートナーを求めています。2022年、新たな『行動規範』に関する国連決議に向けた動きは、宇宙におけるリスク低減のため、宇宙先進国が協力し、合意形成をする機会となります」
「レオラボズ、アストロスケール(Astroscale)、D・オービット(D-Orbit)など、さらに多くの民間企業が(政府レベルではできなかったこととの)ギャップを埋めるために参入し、宇宙状況認識(SSA)や宇宙デブリの除去、軌道上サービスなどの各種サービスを提供してくれることを期待しています」
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)