2020年のジョージ・フロイド氏死亡事件を受け、ハリウッドはインクルーシブに取り組む姿勢を新たにした。
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2020年5月に黒人のジョージ・フロイド氏が警察官の手により殺害された事件や、これを受けて世界中に広がった抗議活動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」を受け、ハリウッドは当時声高に、インクルージョン(マジョリティばかりでなくどの属性の人も含めること)に関する宣言を数多く行った。「あなたの言うことはその通り。同じ意見だ。大事に思っている。黒人の命は大切だ」と。
テレビや映画製作会社は、制作現場の職場環境に実際の多様性を反映させるよう取り組んできた。あれから1年半以上経った今、ハリウッドが当時出した宣言には、これまで以上に厳しい目が注がれる可能性がある。
「(ダイバーシティやインクルージョンの取り組みに対する)目は、もっと厳しくなると思います。それが弱まるとは思いません。もう後戻りはできませんし、それは素晴らしいことでもあります」とInsiderに語るのは、米メディア大手NBCUでここ10年間、チーフ・ダイバーシティ・オフィサーを務めているクレイグ・ロビンソンだ。
ロビンソンによると、テレビや映画製作会社が次にやることは、「(ダイバーシティやインクルージョンを)その会社にとって一時的なものとしか考えない人と、企業文化の一部にしようと取り組んでいる人とを見極めること」だと話す。
CBSは2020年、同局で放送する番組の作家陣には少なくとも40%、リアリティ番組の出演者には少なくとも50%の黒人、先住民族、その他有色人種(BIPOC)を含めなければならないと発表した。Amazonスタジオは、製作陣の30%以上は必ず女性や少数派の人たちとなるよう取り組んできた。ネットフリックスは、黒人がトップを務めるアメリカの金融機関に1億ドル(約114億円)を投じた。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の社会科学部長であり、UCLAが年2回発行するハリウッド多様性報告書の共同執筆者、ダーネル・ハント(Darnell Hunt)は、2020年の夏以降、「多くの製作会社やネットワーク局が、今後さらに改善し、よりインクルーシブになると宣言しました」と説明する。「その点でネットフリックスは、口先だけではなくきちんと行動している会社です」
また、ハントによると、映画芸術科学アカデミー(アカデミー賞主催団体)が2020年、アカデミー賞のノミネート作品に対し、多様性を反映するという基準を導入している。
しかし映画業界では同質性と排他性が何十年も続いており、こうした基準が果たして実を結ぶかどうかは、現時点では不透明だ。
ロビンソンは、インクルーシブな取り組みを組織に確実に浸透させるためには(ロビンソン自身がそうであるように)チーフ・ダイバーシティ・オフィサーを人事部ではなくCEOの直属とすることが非常に重要だと考えている。
例えば、ワーナー・ブラザースやHBOの親会社であるワーナーメディアは2019年、アメリカの大手芸能プロダクションであるクリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)からクリスティ・ハウベガー(Christy Haubegge)をチーフ・エンタープライズ・インクルージョン・オフィサーとして迎えた。この役職もまた、CEOの直属だ。ワーナーメディアはその年から、ダイバーシティとインクルージョンの進捗状況を報告するようになった。
「自主的な取り組みは素晴らしいですが、その成果は何でしょうか? つまり、変化が数字として見えてくるのでしょうか?」とハントは話す。「この質問に答えられるようになるには、あと数年かかるでしょう。というのも、映画は特にそうですが、実際に作品が完成して発表されるまでには、2〜3年の時間を要するからです。テレビは少し短く、1年くらい。そのため2021年については、これから出てくるデータが恐らく、何らかのヒントになるでしょう」
相次ぐM&A(合併・買収)で、ハリウッドの監視役となる企業の数は少なくなり、一方でその規模は大きくなった。ディズニーは21世紀フォックスのエンターテインメント部門を取得。バイアコムはCBSと再び経営統合。アマゾンはMGMを買収するところだ。2022年に予定されている最大の合併には、ディスカバリーによる、ワーナー・ブラザースやHBOの親会社ワーナーメディアの買収計画がある。
合併や統合は歴史的に見て、エンターテインメント業界の多様化に貢献してはいない、とハントは指摘する。というのも、合併や統合によりコンテンツ・プロバイダーや人材が参入できる機会が減ってしまうからだ。
「起こりがちなのは、こうした環境に最も参入しやすいのは通常、すでに自分の立場を確立させた人材(すなわち白人男性)であるということです」とハントは語る。「とはいえ、私が現状にそこまで悲観的でない理由は、観客がかなり多様になっているためです。2020年国勢調査の時点で、アメリカの人口の42.7%が有色人種でした。そしてこの割合は増加しています」
娯楽の消費傾向を考えると(例えば、映画館での映画鑑賞に最もお金を使うのはラテンアメリカ系の人たちであるなど)、ハリウッドは今後、観客の欲求を満たすビジネス上の責務を負うことになるだろう。
ハントは言う。「多様性がどのようなものかを観客が知った今、後戻りはできないと思います」
(翻訳:松丸さとみ、編集:大門小百合)