新規株式上場は、素晴らしい企業に最初から投資できる絶好のチャンスだ。しかし、状況が悪化する前に経営者たちが会社を現金化するための手段となってしまう場合もある。
どちらのパターンなのかを見定めることは簡単ではない。上場後に株価が急上昇する場合もあれば、少なくとも短期的には投資家が含み損を抱えてしまうこともある。
投資家が見極めなければならないのは、成長を加速させるための資金調達を目的とした上場なのか、一番いい時に現金化したい創業者のための上場なのか、ということだ。
投資家側がどれくらい保有しようと考えているかも重要だ。何年も持ち続けるつもりなのか、数カ月で売却を迫られる株なのか。新規上場株は通常、何年も持ち続けようとする人にこそふさわしい。
「2022年は間違いなく、注目される多くの有名企業がIPOをするでしょう」と言うのは、オンラインブローカーであるフリーダム・ファイナンス(Freedom Finance)の投資調査部ヘッド、マキシム・マントゥロフ(Maxim Manturov)だ。
「多くの企業が大きく成長した2021年を経て、どの業界でも企業トップは上場することでさらなる成長・事業拡大を狙っています。盛り上がりを見せるIPO市場の2022年の見通しは、史上最高だった2021年に続いてかなり明るく、ペースダウンする様子はありません」
アーンスト&ヤングのグローバルIPOトレンドのレポートによれば、2021年には世界のIPO件数は前年比64%増、調達額は67%増となった、とマントゥロフは指摘する。
「本質的に、史上最高の成長率を見せている新規上場の波に乗りたいと思っている人は、投資判断をする前に企業のファンダメンタルズを調べることが重要です」
投資家にとっては、投資先になる新規公開銘柄に事欠くことはなさそうだ。以降ではマントゥロフが注目すべきと話す、2022年に上場が見込まれる最も有望な企業4社を紹介する。
ストライプ(Stripe)
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ストライプはオンラインビジネス向けのオンライン決済を手がける。120カ国で事業を展開しており、ユーザー企業はあらゆるクレジットカード、デビットカード、モバイル・ウォレット・サービスに対応することができる。マントゥロフは次のように言う。
「ストライプは2021年12月、ユーザーに金融サービスを埋め込むためのAPIを提供する『ストライプ・トレジャリー』というサービスを開始しました。これにより顧客は資金の送金・受領・預金を簡単に行えるようになります。
このようにストライプは、今までの決済プラットフォーム事業からバンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)に移行しつつあり、さらに既存ユーザーからの信頼もすでに獲得しています。
直近の企業評価額は950億ドル(約10兆9250億円)でしたが、最近の業績も踏まえると、2021年末には1000億ドル(約11兆5000億円)に達していた可能性が高いです。
2022年最も期待される新規上場株式に投資したいと考えている方は、オンライン決済の市場でますます存在感を増していくストライプに注目すべきでしょう」
インスタカート(Instacart)
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マントゥロフによれば、食品配達とピックアップサービスにおいて、インスタカートはすでにアメリカとカナダでは最大手になっているという。400を超えるパートナー小売店と3万を超える店舗をカバーする複雑な物流システムを構築している。
「このネットワークはアメリカの全世帯の約85%、カナダの全世帯の約80%に対応可能となっており、ウェブサイトでもアプリでも利用可能です。顧客は生鮮食品を注文し、2時間以内に自宅に届けてもらうこともできます」
マントゥロフはまた、インスタカートの企業価値は前回の資金調達で390億ドル(約4兆4850億円)になっており、株式公開の際には500億ドル(約5兆7500億円)になる可能性もあるという。2022年内の上場を予想する向きが多い。
データブリックス(Databricks)
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データとAIのスタートアップであるデータブリックスは、ビッグデータを迅速に処理し分析に使えるようにするソフトウェアを開発した。5000を超える顧客を抱え、その中にはCVSヘルス(CVS Health)、コムキャスト(Comcast)、コンデナスト(Condé Nast)、ネイションワイド(Nationwide)など有名企業も多い。マントゥロフの見立ては次のとおりだ。
「2021年2月の投資ラウンドでは10億ドル(約1150億円)を調達しており、現在のバリュエーションは280億ドル(約3兆2200億円)となっています。
データブリックスに投資をしているのは、フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ、ウェール・ロック・キャピタル・マネジメント、アマゾン、セールスフォース・ベンチャーズ、アンドリーセン・ホロウィッツ、キャピタルG(グーグル)、マイクロソフトなどです。
最近のデータでは、データブリックスのバリュエーションは上場すれば350億〜500億(約4兆250億~5兆7500億円)になる可能性があります。このAI企業には注目しておくべきでしょう」
ディスコード(Discord)
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マントゥロフが最後に選んだのは、文字、音声、動画でのチャットサービスを提供するディスコードだ。プライベートチャット内でユーザーが音声通話、ビデオ通話、文字メッセージ、メディアやファイルなどのやりとりを無料で行えるサービスを提供する。
「ゲーマーを中心に使われていたこのアプリはコロナ禍で大人気となり、ロックダウン中の友人や家族とのコミュニケーションのために多くのユーザーがアクセスしていました」
「2021年にはマイクロソフトが100億ドル(約1兆1500億円)で買収したがっていたのですが、ディスコードの経営陣が拒否しました。上場の日は正式にはまだ決まっていませんが、2022年前半だと思われます」
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)