ゲームプラットフォームのロブロックス(roblox)など、メタバースやWeb3(Web3.0)といった新たな概念の普及により恩恵を被る企業が今後明確になってきそうだ。
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世界中で「メタバース(Metaverse)」への興味関心が急激な高まりを見せていることから、大手投資銀行は次々とこの新たなセクターの調査に乗り出している。
バンク・オブ・アメリカは2021年12月、次の10年間で「人々の生活を一変させる」14の破壊的技術のひとつに「仮想世界」を挙げた。
その直前の11月にはモルガン・スタンレーが調査レポートを発表。メタバース分野へのエクスポージャーを取る手法のひとつとして、高級ファッションブランド銘柄への投資を挙げた。
また、ゴールドマン・サックスは2021年12月、「Web3(Web3.0)」への移行をテーマにした32ページの調査レポートを発表している。
Web3は次世代インターネットの可能性を指す新たな用語で、よりオープンな分散型(あるいは非集中型)ネットワークになると考えられている。
ゴールドマンのマネージングディレクター(グローバル投資調査担当)、エリック・シェリダン率いるストラテジストチームは現状をこう説明する。
「近ごろメディアや投資家の注目を集めている『Web3.0』の要素のひとつが『メタバース』です。メタバースはさまざまな意味を持つ用語ですが、イマーシブな(=没入型の)バーチャル体験、オンラインコミュニティ、クリエイター経済といったテーマは共通しています」
シェリダンはさらに最近のポッドキャストでこう語っている。
「コンテンツをどう楽しむか、クリエイターたちといかに交流するか……。Web3.0の世界では(監視や管理にあたる)ゲートキーパーが減るので、自らのアイデンティティをより主体的にコントロールするようになると思います。バーチャルな世界での相互交流も増えていくでしょう」
こうしたメタバースとWeb3の浸透により、次に挙げるような4つの投資機会が生まれ、急拡大していくとゴールドマン・サックスは分析している。
恩恵を受ける4つのセクター
ゴールドマンのストラテジストチームは、メタバースの普及によって最も明確な利益を得るのはゲーム業界だと指摘。ゲームコンテンツの市場規模は現在1750億ドル(約20兆1200億円、2021年)だが、今後3年間は年8%の成長を続けると予想する。
「仮想世界と物理的な現実世界の境界線をより曖昧(あいまい)なものにするため、ゲームプラットフォーム各社がそれぞれの存在感と個性を高めようと投資を強化するのを我々は目の当たりにしています。
新型コロナのパンデミックにより、仮想空間を通じて他の人々とつながる手段としてビデオゲームに目を向ける消費者が増えたことで、もともと吹いていた長期の追い風がさらに加速した形です」
ゴールドマンは、メタバースゲームの成長から恩恵を受ける可能性のある銘柄として、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、ロブロックス(Roblox)、テイクツー・インタラクティブ(Take-Two Interactive)を挙げている。
また、Web3普及の恩恵を受けるセクターとして、ゴールドマンは音楽業界を挙げる。
パンデミックのさなか、エピック・ゲームズ(Epic Games)の販売・配信する「フォートナイト(Fortnite)」とロブロックスはそれぞれ、アバター参加型のバーチャルコンサートを開催。アリアナ・グランデ、リル・ナズ・X、トラビス・スコットらアーティストが参加した。
「ゲームプラットフォーム上での音楽活動は、アーティストがファンとつながり、エンゲージメントを促進する新たな方法を提供してくれます。
(ゲームプラットフォームの)経営陣は、アーティストたちがプラットフォームを活用して世界中の何百万人ものファンにアプローチする時代がいずれやってきて、コンサート会場は(大規模化の流れから)より少人数の環境へと逆戻りし、アーティストとファンが物理的な世界と仮想世界の両方を通じてより有意義な形でつながることになると考えているのです」
さらに、Web3とメタバースは小売り業界にもビジネスチャンスをもたらすと、ゴールドマン・サックスは分析している。例えば、仮想世界(のアバター向け)の服や店舗、ファッションショーなどは現実世界の小売りと重なってくる可能性があるという。
「仮想世界におけるブランドとのパートナーシップと言えば、これまではバーチャルアイテムやブランドミッション、スカベンジャーハント(=一覧表で指定された物をお金をかけずに集めるレクリエーションイベント)を現実世界の体験に組み込むのが定番でした。
ところが、いまやブランド各社は、ロブロックスの開発者コミュニティに直接アクセスし、現実世界での体験をプロモーションするための期間限定イベントを立ち上げるようになっています」
ゴールドマンは実際の事例として、ロブロックスとコラボ制作したイタリア・フィレンツェのメルカンツィア宮殿内にある複合施設「グッチ・ガーデン」のバーチャル版や、チポトレ(Chipotle)、ナイキ(Nike)、ヴァンズ(Vans)とのパートナーシップを挙げている。
最後に、ゴールドマンはメタバースにおける教育分野の可能性について、研究室、フィールドトリップ、教室、課外クラブ活動におけるバーチャル空間の活用にも言及している。
「仮想空間での教育体験は、学生たちにまったく新しいイマーシブな(=没入型)学習法をもたらします。2021年9月末時点で、ロブロックスが提供する教育コンテンツの月間ユーザー数は700万人を超えました。
フォートナイト、ロブロックス、マインクラフトなどは単なるビデオゲームという(先入観の)メガネを通して見られがちですが、ファッション、音楽、教育などの分野での活用事例を見れば、Web2.0の世界におけるバーチャル体験とフィジカル体験が統合された高度なものであることが分かります。
だからこそ、我々はバーチャル体験の普及と多様なカテゴリーへの拡大浸透が今後も続いていくと確信しているのです」
(翻訳・編集:川村力)