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- アメリカの親は、学校の閉鎖や信頼できる託児所がないといったことにより、限界にきている。
- イタリアでは、親は親族からサポートを受けることが多い。
- 南米では、多くの親が交流を重視しており、友人と会うことが奨励されている。
世界的なパンデミックを乗り切ることは、どこの国の親にもストレスになっているがが、特にアメリカの親は終わりの見えない危機的な状況で行動している。学校の閉鎖や、多くの保育所が恒久的に閉鎖され、信頼できる託児所も欠如しているという育児危機の状態により、親がすべてをこなさなければならないからだ。
実際、2021年に42カ国の親を対象に行われた調査によると、親の「燃え尽き症候群」はアメリカ人が最も多い。
アメリカ以外のいくつかの国で、うまく対処しているという親に話を聞き、アメリカでは欠けているサポート体制について考察した。
イタリアには強力なサポートシステムがある
フィレンツェ郊外で家族と暮らす駐在員のキャンディス・クリスチオーネ(Candice Criscione)によると、イタリア政府はすべての人にマスクの着用を義務づけており、仕事や大学に行くにはワクチン接種が必要だという。
アメリカでは、ほとんどの大学が学生にワクチン接種を義務付け、屋内ではマスク着用を義務付けている。しかし、マスクの義務は地域によって異なり、強制することが難しい場合も多い。
アメリカでは人口の63%が予防接種を完了しているが、イタリアでは75%以上が完了している。また多くのイタリア人は、子育てに関して優れたサポートシステムに支えられているとクリスチオーネは言う。
「ここでは、祖父母が放課後に子どもを迎えに来たり、家庭が託児所の役割を果たしたりする。助けが必要な場合も、すぐに見つかるだろう」
ローマ在住のキャサリン・ウィルソン(Katherine Wilson)は、仕事と子育ての両立で親が疲弊していても、「(ここでは)何らかの犠牲は付き物だというコンセンサスがあり、科学者や当局の発表が信頼されている」と言う。
「とはいえ、親は上の世代の助けがないと大変なことになる。イタリアでは、子どもは祖父母に面倒を見てもらっていることが多い」
子どもだけでなく親の世話もする「サンドイッチ」世代にとって、パンデミックは特に深刻だ。最優先されるのは高齢者や子どもをCOVID-19から守ることなのだから。しかし、祖父母がいる人たちにとっては、そこに頼ることが仕事と子育ての合間に休息する唯一の方法になることもある。
クリスチオーネは「夫と私は、自転車に乗っていても、ちょっと散歩していても、それぞれが自分の時間を持てるようにしている。2人とも仕事をしているので、子どもたちのスクリーンタイムも増えているが、それでも時間を制限し、彼らが見ているものが何らかの価値を提供していることを確認している。今は義理の両親と一緒に住んでいて、現在1歳になった子どもの世話を手伝ってくれるので助かっている」と話してくれた。
メキシコでは、子どもたちは公園で遊んでいる
パンデミック当初、メキシコ人のダイアナ・ブエノ・ビエレット(Diana Bueno Bieletto)は、他の人と同じように完全な警戒態勢をとっていたが、恐れは次第に薄れていったという。
「子どもたちは公園やショッピングモール、学校、ビーチ、公園など、外で遊んでいる。メキシコでは健康よりも社会生活を重視しているということだろう」
メキシコでは現在、15歳から17歳へのワクチン接種が始まったばかりで、国民の60%がワクチン接種を完了しているアメリカに遅れをとっている。15歳以下の子どもには予防接種ができないにもかかわらず、話を聞いた親たちは、パンデミック中の生活に順応していると言っている。
メキシコ中央部に住むルイス・エンリケ・ロドリゲス(Luis Enrique Rodriguez)は、疲れを感じる瞬間はあっても、燃え尽きたとは思わないと言う。
「ここはアメリカよりも、文化的なサポートシステムが整っているのだと思う。恐怖に捉われすぎているということもない」
「子どもの世話を誰かに手伝ってもらいながら、家で仕事をしたり、カフェや映画館に行ったりと、充電と休息の時間を持つために、家族のサポートに大きく依存している」とロドリゲスは話している。
アルゼンチンで4児を育てるヴィオレタ・ノエッティンガー(Violeta Noetinger)は、パンデミックが始まった頃には疲れ果てていた。アルゼンチンでは家庭のことを親族に支援してもらうことが多いが、突然、交通機関が使えなくなり、その支援が受けられなくなった。彼女は「完全に見捨てられた」と感じたという。しかし、彼らは地域の親たちでまとまり、資金をプールし始めた。
「他の親たちと一緒に家庭教師を雇った。地域のガイドラインに反しているが、子どもたちに安全な、限られた人数の定期的な学習機会と、社会とのつながりを持つ機会を与えたかった。何が私たちを救ったかといえば、他の親たちと小さなグループを作り、互いに助け合ったことだ」
ノルウェー人は政府を信頼している
ノルウェーで子育てをするパー・オラ・ウォルド-オルセン(Per Ola Wold-Olsen)によると、ノルウェー人は自国の政府や組織を信頼する傾向があり、これはパンデミックの最中も変わらなかったという。
ホームスクールや在宅勤務をする必要があっても、多くの家庭はうまく対処していたとウォルド-オルセンは言う。だが「多くの親は、オフィスに行ったり、旅行したり、大勢で会ったりすることがほとんどできないことに不満を感じている」 という。
「家庭と子どもたちに両親は平等に貢献している。パンデミック以前から、家庭内は平等だった。リモート学習では、親が子どもをサポートしなければならなかったが、雇用主は短時間勤務や細分化された勤務時間の必要性を認識しており、適応することができた」と彼は述べている。
人口の69%がワクチン接種を完了したスイスに駐在する、アメリカ人のレイチェル・メイヤー(Rachel Meyer)によると、スイスには、アメリカでは欠けている公衆衛生に対する連帯責任の意識があるように感じられるという。「アメリカの親たちがパンデミックを生き抜くことが困難になっているのは、マスク着用義務やワクチン接種についての分断を引き起こす個人主義的な精神によってだ」とメイヤーは言う。
「スイスでは、政府が毎週実施する集団検査と生徒へのマスク着用義務のおかげで、パンデミックの間も子どもたちは学校に通い、対面式の授業を受けることができた」
このことだけでも、親や生徒の精神を安定させるのに役立っているという。
アメリカではなくスイスでパンデミックに見舞われていることに感謝しながら、マイヤーは「50%の住民がCOVID‑19をデマだと思っているコミュニティでは、健康を維持するのは難しい」と語った。
[原文:Parents in the US are at a breaking point. Parents around the world explain why they are not.]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)