マイクロソフト(Microsoft)は、大手ゲーム会社アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)を687億ドル(約7兆8300億円)で買収すると発表した。この動きによって、IT、メディア、ソフトウェア会社などゲーム事業の強化を狙う業界各社のM&Aに拍車がかかるかもしれない。
マイクロソフトとアクティビジョン・ブリザードが手を結んだことにより、ゲーム事業のライバル会社ソニーもM&Aによる反撃に出るかもしれない、と業界専門家は見ている。
ターゲットとなり得るのは、例えば「ザ・シムズ(The Sims)」やEAスポーツゲームで有名なゲームソフト開発販売会社エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)、あるいはアクションゲームシリーズ「アサシン・クリード(Assassin’s Creed)」の開発で知られるフランスのユービーアイソフト(Ubisoft)などだ。
フランスに本拠を置くUbisoftは「アサシン・クリード」シリーズなどのヒット作を抱える大手パブリッシャーのひとつだ。
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また、ソニーはじめメタバース世界の構築に必要なツールを求めるゲーム会社にとって買収先候補となり得るのは、3Dコンテンツ開発会社のユニティ(Unity)だという。オンラインゲームプラットフォーム・ゲーム開発システム提供会社ロブロックス(Roblox)も候補になり得るかもしれないが、同社はむしろこれからゲーム領域を拡大しようとする比較的小規模な企業向きだろう、と専門家は言う。
ソニーのPlayStationとマイクロソフトのXboxは競合関係にある。投資運用会社コーウェン(Cowen)のシニア・アナリスト、ダグ・クレッツ(Doug Creutz)は2022年1月18日に発表したレポートの中で、ソニーはゲームの品揃えを広げるために、大型買収を検討する必要があるという。
また、みずほ証券のIT・メディア・通信担当マネージング・ディレクターのジョーダン・クライン(Jordan Klein)は、エレクトロニック・アーツが保有するゲーム製品群は、コンテンツ拡大を目指す企業にとって「最良のひとつ」と述べている(ブルームバーグ報道)。
買収需要は高い。データ提供会社スタティスタ(Statista)によると、2022年のゲーム業界の売上高は335億ドル(約3兆8000億円)に達すると予測されており、多くのゲーム会社が競争力強化のために手を組もうとしている。
アクティビジョン・ブリザード買収発表の1週間前には、同じゲーム開発会社であるテイクツー(Take-Two)が「ファームヴィル(Farmville)」の開発会社ジンガ(Zynga)を127億ドル(約1兆4400億円)で買収することに合意している。
アクティビジョン・ブリザードは、マイクロソフトへの売却合意に先立ち、ジンガによるテイクツー買収金額を上回る金額を提示することも検討したという(CNBC報道)。また、ユニティは2021年、ビジュアルエフェクト(VFX)ツールを強化するため、ウェタ・デジタル(Weta Digital)の買収を決めた。
ソニーの株価は2022年1月19日、12%以上急落した。これは、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザード買収によって、将来的に「コールオブデューティ(Call of Duty)」や「ワールドオブウォークラフト(World of Warcraft)」などアクティビジョン・ブリザードのゲームをソニーが提供できなくなる可能性を投資家が懸念したためだ。
アクティビジョン・ブリザード買収は、マイクロソフトにとって歴代最大の買収だ。この買収によって同社は、ゲーム業界において中国のテンセント(TenCent)、ソニーに次ぐ世界3位となる。
幸先の良いスタートを切ったゴールド・マンサックス
マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザードの買収は、ブリストル マイヤーズ スクイブ(Bristol-Myers Squibb)が2019年12月にバイオ医薬品企業セルジーン(Celgene)を約800億ドル(約8兆8000億円)で買収して以来、最大のM&A取引となる。
ゲーム会社やIT企業が新たな大型M&Aを検討していることから、投資銀行や法律事務所にとってもビジネス拡大のチャンスとなるだろう。
2021年、M&Aのグローバルリーグテーブルでトップに立ったゴールドマン・サックスは、マイクロソフトやジンガのM&Aディールのファイナンシャル・アドバイザーの座を獲得し、2022年も幸先の良いスタートを切った。
関係者によると、マイクロソフトに対するゴールドマン・サックスのアドバイザリー業務獲得を主導したのは、同社投資銀行部門のグローバル共同責任者ダン・ディーズ(Dan Dees)だ。現職に就く前、ディーズは同社IT・メディア・通信部門のグローバルヘッドを務めていた。
また、今回のM&Aでアクティビジョン・ブリザード側のファイナンシャル・アドバイザーを務めたのは、アレン&カンパニー(Allen & Company)だ。アイダホ州サンバレーで開催される同社主催のカンファレンスには、これまでシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)はじめ、金融、IT、メディア業界の著名人が登壇している。
マイクロソフトの法律顧問はシンプソン・サッチャー(Simpson Thacher)、アクティビジョン・ブリザードの法律顧問はスキャデン(Skadden)がそれぞれ務めた。
メタバース上の戦い
アクティビジョン・ブリザードが持つゲームコンテンツを武器に、マイクロソフトはメタバースの世界でどう戦うのだろうか。
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マイクロソフトは、アクティビジョン・ブリザードの買収によって、「キャンディークラッシュ(Candy Crush)」はじめ、有名で急成長しているモバイルゲームを手に入れることになる。
また、「コールオブデューティ」などアクティビジョン・ブリザードの人気ゲームをオンラインでプレイする大規模なゲームコミュニティも、マイクロソフトにとっては重要なターゲット市場だ。オンラインゲームのために、クラウドベースで同社のXboxを使うゲーマーを増やすことを目指している。
アクティビジョン・ブリザードの買収によって、マイクロソフトは人気のビデオゲームの数々だけでなく、すでにアクティビジョン・ブリザードのオンラインゲームを継続的に楽しんでいるゲーマーたちも同時に手に入れた——そう語るのは、NFT(非代替性トークン)ベースのオンラインゲーム、クリプト・ファイト・クラブの最高技術責任者フェリックス・モア(Felix Mohr)だ。
モアはInsiderの取材に対し、次のように述べている。
「メタバース上で、ゲーミフィケーションは強力に推進されるでしょう。アクティビジョン・ブリザードは膨大な数の有名なゲームを保有しており、メタバースのエコシステム内にそうしたゲームのユーザーがいれば、彼らは喜んでお金を払ってくれるでしょう」
マイクロソフトのゲーム部門のCEOには、これまで同社のXbox部門責任者を務めてきたフィル・スペンサー(Phil Spencer)が就任することになっている。Insiderが先日報じたとおり、スペンサーは従業員に宛てたメールの中で、アクティビジョン・ブリザード買収はマイクロソフトとゲーム業界にとって「画期的な出来事」だと記している。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)