日本で育てた医療AIはグローバルでも勝ちうる。誰もが最適な医療を受けられるというUbieの挑戦

「テクノロジーで人々を適切な医療に案内すること」をミッションとするスタートアップUbie(ユビー)が展開する「ユビーAI受診相談」は、コロナ禍で需要が増し、今や350万人が活用するサービスに成長している。2021年12月からは、発熱外来を設ける都内の医療機関を検索できる機能も加わった。

医師側と患者側双方と直接的な接点を持つ、オープンな医療データプラットフォームを強みとする同社は、「AI問診」を入り口にどんな社会の実現を目指しているのか。共同代表取締役であり、医師でもある阿部吉倫氏に聞いた。

適切な情報提供で「人の寿命を延ばしたい」

座っている阿部氏1

阿部吉倫(あべ・よしのり)氏/Ubie 共同代表取締役。2015年東大医学部卒。東大病院,東京都健康長寿医療センターでの初期研修を経て,17年5月にエンジニアの久保恒太氏と共同でUbieを設立。18年より「ユビーAI問診」,20年より「ユビーAI受診相談」の提供を開始。

阿部氏が起業を決意したのは、2017年の夏頃のことだった。開発を進めていたAIによる自動問診の仕組みが、「モノになる!」と自信を深めたからだ。

阿部氏は初期研修医の2年目。「もっと早い段階で患者への治療介入ができないか」とジレンマを感じていた。印象的だったのが、当時、阿部氏が勤務していた病院に腰痛で受診してきた、40代半ば の女性のケースだ。腰痛というが、よくよく話を聞くと、吐き気があり、体重も減り、2年前から血便もあるという。実は大腸がんで、ステージ4まで進んでいた。

患者が受診しない限り、せっかく最高の医療があっても提供できない──。

「もしその女性が血便の症状が出た2年前に受診していたら、もっと打てる手段はあったんですよ。でも、医師と患者との間には、情報の非対称性がある。医療のことを学んでいない一般の人が、『血便が2週間続いたら、大腸がんの確率が何パーセントあるから受診しよう』などと判断するのは難しい。病院内だけで解決できることには限りがあるなと思いました」(阿部氏)

そもそも医師である阿部氏が、なぜテクノロジーの開発に着手したのか? その答えは東京大学医学部時代に遡る。

高校の同級生で現・Ubie共同代表エンジニアの久保恒太氏が東大大学院に進学したのを機に再会。久保氏とはわずか100メートルという近所に住んだ。久保氏は京都大学工学部時代から、「問診時の医師の思考は、アルゴリズム化できる」というアイデアを持ち、医師として臨床現場に立つ阿部氏に協力を求めたのだ。

阿部氏もこの考えに共鳴。アルゴリズムを一般の生活者が広く使えるようにすれば、早期発見・早期治療につながると考えた。以来、2人は共同で、AIによる自動問診の仕組みを更新し続けている。

話している阿部氏1

院内には、医療従事者の不足という課題がある。院外には、適切な情報が届かず適切な受診につながっていないというアウトリーチの課題がある。自分たちが開発している自動問診のエンジンを賢くしたら、そのギャップをつなぐ手立てを提供できて解決できるなと。我々はテクノロジーで人の寿命を延ばしたいと思いました」(阿部氏)

働き方改革とコロナ禍が需要を喚起

だが、AI開発に欠かせない、肝心のデータが揃わない。ひとたび医療機関で使われるようになれば、AIの「教師あり学習」のループが回せる。そう見込んだ阿部氏らが着目したのが、病院だ。まずは病院向けに、患者からの事前問診をデジタル化する仕組みを構築。5万本の論文データをもとに、AIが患者ごとに最適な質問を自動生成できるようにした。さらに、実際の医療機関でのリアルデータを取り込む形で仕組みを洗練させ、2018年に、医療現場の業務効率化をサポートする問診システム「ユビーAI問診」の提供を開始した。

この仕組みで患者から「AI問診」をあらかじめ行っておくことで、医師のカルテ記載業務を効率化する。情報収集と記録にかけていた膨大な事務作業を、3分の1に削減できた。忙しい医療現場から重宝され、今では全国 500以上の医療機関に導入されている。

折しも厚生労働省では、医師の働き方改革が進められていた。2024年には改正医療法が適用となり、医師の時間外労働が規制される。Ubieはこの事業で、第三回日本サービス大賞厚生労働大臣賞、審査員特別賞を受賞。阿部氏らは手応えを感じ始めていた。

話している阿部氏2

「2020年の頭に、AIのエンジンが定性的に、問診を極めて高いレベルで 取れているような状況になってきた。ここからはいよいよ、患者さんを適切な医療に案内し、早期発見・早期受診につなげるサービスを立ち上げるタイミングだなと判断しました」(阿部氏)

折しも新型コロナウイルス感染症の流行で、人々の間に、医療機関を受診すべきかどうかという悩みが生じていた。感染を怖れ極端に受診を控えれば、大きな病気を見逃すこともあり得る。適切な情報を伝える手段が望まれていた。Ubieの開発陣は2週間でシステムを作り上げ、2020年4月に「ユビーAI受診相談」の提供を始めた。阿部氏は言う。

「もう、うかうかしていられないと、土日返上で開発に取りかかりました。ローンチ直後で月間20万人。1年半で月間350万人もの人に活用いただける状況になって。凄まじいタイミングで課題が迫ってきて、我々がそこに時期を合わせる形でサービス展開ができたと思っています」(阿部氏)

医療の「ど真ん中」の課題を解く挑戦

Ubieのプラットフォームを活用することで、新しい付加価値も打ち出せるようになった。その一つが、現在製薬会社と協業で進めている、希少疾患等の早期発見につなげる取り組みだ。

例えば、武田薬品工業と進める「遺伝性血管性浮腫(HAE)」を対象とする取り組みを事例に挙げる。HAEは5万人に1人が罹患しているとされる遺伝性の希少疾患で、日本国内には2000~3000人の潜在患者がいると言われる。ところが、実際に診断を受けているのは約450人に過ぎない。さらに、日本においては、初めてHAEの発作が起きてから診断が確定するまでに平均で13.8年かかるといわれ、情報ギャップが問題になっている。

そこで、「ユビーAI問診」では、医師の問診を支援するため、患者に関連する症状がある場合は、医師が問診結果を確認する画面にこの病気にまつわる詳しい情報を掲載する。一方で、「ユビーAI受診相談」では、「むくみがある」などの症状を一つずつ入力していくと、その症状と関連性のある病気が提示される。

さらに、武田薬品工業が運営するHAEの情報サイトへのリンクを表示し、「むくみがあるという症状から、循環器内科または腎臓内科の受診をおすすめします」などと疾患についての知識が得られる。

阿部氏は、発症・受診・診察 ・処方という「ペイシェントジャーニー」全体を包括的にサポートすることで、情報のギャップポイントを一つひとつ解消し、発症したけれど受診先がわからない人と適切な診療科や治療とをマッチさせ、早期受診・早期発見につなげていくこの取り組みは、「医療の『ど真ん中の課題』解消への挑戦そのもの」だと語る。

そんな挑戦を行う同社では、主に拡張のダイナミズムを楽しめる人材、業態変革を伴う価値共創に挑めるチャレンジ人材を求めているという。求める人材像を話す阿部氏自身、実に楽しげな表情を浮かべる。AIエンジンの開発段階から事業をスケールさせる現在まで、コンビを組む久保と試行錯誤を重ねつつも、自ら「拡張のダイナミズム」を味わってきたのだろう。

座っている阿部氏2

2020年からは、シンガポールでのサービス展開も始まっている。近々、医療費が膨大で国民の健康にも大きな課題を抱える アメリカ にも乗り出すという。インタビューの最後に尋ねた。阿部氏が「AI問診」の先に描くビジョンとは?

「データサイエンスの世界は、データの質と量が大事。日本は医療水準が高く、フリーアクセスで、おまけに国民皆保険の制度に支えられ受診回数もOECD諸国の3倍近くに上る。この国で育てたAIエンジンがグローバルナンバー1になるということは、当然だと思っています。3年後には、日本を代表するグローバル企業に成長させたい。いずれ世界の80億人の患者さんが、知識の差によらず、最適な医療にたどり着ける健康な社会を実現したいです」(阿部氏)


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