コロナ禍が女性の家事育児の負担を一層増大させている(写真はイメージです)。
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2022年に入り、新型コロナの陽性数が急増し、学校や保育所などの休校・休園などが相次ぎ、小池百合子東京都知事などは一層のテレワークの推進を呼びかけている。
1月21日からは、東京など13都県に「まん延防止等重点措置」が適用される。この先、感染者数がさらに増え続けることになれば、おのずと「緊急事態宣言」の発令も視野に入ってくる。
その時、子育て世帯の家庭内も「緊急事態」に陥っているかもしれない。コロナ禍が女性の家事育児の負担を一層増大させているのだ。
コロナ禍が働き方や家事育児の分担に及ぼした影響は、東京都が実施したアンケート調査の報告書「令和3年度男性の家事・育児参画状況実態調査報告書(令和3年11月)」から読み解くことができる。このアンケートは、第3回目の緊急事態宣言発令中の2021年6月に都内の未就学児を持つ男女2000人などにアンケート調査を行ったもので、コロナ前の2019年8月に実施した前回調査と比較できるものとなっている。筆者も都の男女平等参画審議会委員として質問紙の作成や結果の分析に関与している。
コロナ禍でも「女性の家事育児時間だけが増えた」という現実
まず、男女の1日あたりの家事・育児関連時間(家事・買物、育児、介護にかかる時間)につき、前回調査と比較したものが図表1だ。
コロナ前の前回調査の時点から男女の家事・育児関連時間は男性が3時間33分、女性が8時間34分と5時間1分もの男女差があった。これが、コロナ禍において、男性は1分しか増えなかったのに対し、女性は20分増加し、男女差は5時間20分まで拡大した。
図表1 子育て世代の家事・育児関連時間(週全体平均)- 過去の調査結果
(出所)東京都生活文化局「令和3年度男性の家事・育児参画状況実態調査報告書」(令和3年11月)
これは、コロナ禍により男性の仕事が忙しくなったためではない。
新型コロナウイルス感染拡大前と比べた、平日の在宅時間のうち仕事以外に使える時間の変化を聞いたところ、男性のうち「増加した」と答えた人は47.3%で、「減少した」と答えた人の2.8%を大きく上回る(女性は「増加した」が32.4%、「減少した」が5.3%)。
すなわち、コロナ禍において、男性は残業の減少やテレワークの増加などにより「仕事以外に使える時間」が増加したにもかかわらず、家事・育児に充てる時間がほとんど変わらなかったのである。
コロナ禍では、学校や保育園等の休校・休園、給食の中止や登園自粛要請、家庭学習の実施などにより家庭で必要とされる家事・育児が増大した。そして、それらの負担のほとんどが女性に回ってしまったのである。
夫のテレワークがかえって妻の家事を増やしている
昨年来、夫のテレワークのために食事作りや後片付けなどの妻の負担が増しているとの声が多くのメディアで取り上げられていたが、データがそれを裏付けた(写真はイメージです)。
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コロナ禍で急速に普及したテレワークは、多くの人を通勤時間から解放し、家にいられる時間を増加させることで、男女の家事分担の適正化に貢献することも期待された。しかし、調査結果から見えてきたのは、男性のテレワークがかえって女性の家事を増やしている現実だった。
図表2は共働き世帯につき、夫婦のテレワークの有無の組み合わせ別の夫婦の家事・買物時間である。これを見ると、夫は夫婦のテレワークの有無の組み合わせによる家事・買物時間の違いは小さい。一方、妻は比較的差が見られ、「配偶者(夫)のみテレワークを実施した」のケースで家事・買物時間が最長となっている。
図表2 共働き世帯における夫婦のテレワーク有無別の家事・買物時間
(出所)東京都生活文化局「令和3年度男性の家事・育児参画状況実態調査報告書」(令和3年11月)
夫がテレワーク実施・妻がテレワーク非実施である場合、テレワークを実施する夫の方が時間の融通が利きやすく妻の家事・買物時間が短くなりそうな気もするが、実際には、夫婦ともテレワーク非実施の場合よりも妻の家事・買物時間が長くなっている。これは一体どういうことだろう。考えられるのは、夫が家にいることで「妻の家事を増やしている」ことだ。
テレワークをしていると、食事を家でとる機会が増える。昨年来、夫のテレワークのために食事作りや後片付けなどの妻の負担が増しているとの声が多くのメディアで取り上げられていたが、データがそれを裏付けた形だ。
妻はかなり無理をしている。「緊急事態」を乗り越えるための分担推進を
コロナ前から妻は夫に比べて家事・育児の充てる時間が長く、休養・娯楽に充てる時間や睡眠時間も短かった(写真はイメージです)。
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家事・育児に割く時間が長くなると、それ以外にかけられる時間が圧迫されることになる。
東京都の調査では、家事・育児以外の詳細な生活時間の調査までは行われていないため、コロナ前にはなるが、2016年の国の調査によるデータで共働き世帯の生活時間の実態について見てみよう。
図表3は夫婦とも正社員として共働きをする6歳未満の子どもがいる世帯における1日の生活時間である。妻はコロナ前の時点で、家事・育児に5時間59分を充てており、仕事の時間は3時間55分と夫より大幅に短いが、家事・育児時間の合計では9時間54分と、夫より46分長くなっている。そのためか、妻が休養・娯楽等に充てる時間は1時間50分と夫より53分短く、睡眠時間も夫より4分短い。
図表3 夫婦とも正社員で6歳未満の子がいる世帯の1日の生活時間(週平均)
(出所)総務省「平成28年社会生活基本調査」をもとに大和総和作成
コロナ前においても、妻がかなり無理をして仕事と家事・育児を両立させている様子がうかがえるが、都の調査結果と合わせて考えると、コロナ禍においてはさらにそれが深刻化しているのが実態だろう。
家事・育児と仕事に生活が圧迫され、妻が休養もままならないのであれば、それはまさしく「緊急事態」である。新型コロナウイルスの収束まではまだまだ長い時間がかかりそう。新型コロナウイルスの感染拡大防止とともに、家事・育児の分担推進が急務だ。
(文・是枝俊悟)
是枝俊悟:大和総研主任研究員。1985年生まれ、2008年に早稲田大学政治経済学部卒、大和総研入社。証券税制を中心とした金融制度や税財政の調査・分析を担当。Business Insider Japanでは、ミレニアル世代を中心とした男女の働き方や子育てへの関わり方についてレポートする。主な著書に『35歳から創る自分の年金』、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(共著)など。