アディダスが原宿にオープンさせる新店舗。
撮影:横山耕太郎
アディダス ジャパンは2022年1月22日、「サステナビリティ(持続可能性)」を前面に押し出した新店舗「アディダス ブランドセンター 原宿」をオープンする。
日本の直営店では初めて、スニーカーを長く使ってもらうためのクリーニングサービスを設けるほか、商品から生まれるCO2を従来のランニングシューズに比べて6割以上削減したスニーカーを限定販売する。
新店舗についてアディダス ジャパンの副社長のトーマス・サイラー氏は、Business Insider Japanのインタビューに対し「日本市場でサステナビリティへの危機感は劇的に変わってきている。サステナビリティは私たちの哲学だ」と説明した。
原宿の店舗にはどんな仕掛けがあるのか?さっそく、店内を見てみよう。
65%の商品「持続可能な素材や技術を採用」
2階にはアウトドア用品を多く扱っている。
撮影:横山耕太郎
「アディダス ブランドセンター 原宿」は、「明治神宮前駅」から徒歩1分、東急プラザ表参道原宿にある。地下1階から2階の計3フロアで、売り場面積は708平方メートルと国内では最大級。フットウェア200商品など、アパレルなどを含め計約670商品がならぶ(オープン時)。
担当者によると「ブランドセンター原宿で販売している商品の約65%は、(何らかの)持続可能な素材や技術を採用している」という。
原料にサトウキビ
限定発売されるオールバーズとのコラボ商品。
提供:アディダス ブランドセンター 原宿
アディダスのサステナビリティを象徴する商品が、オールバーズとコラボレーションした「FUTURECRAFT.FOOTPRINT(フューチャークラフト・フットプリント)」。
オールバーズは2016年にサンフランシスコで生まれた靴ブランドだ。サステナブルな素材と製法で作られた商品がアメリカで爆発的な人気を誇り、小売店などに卸さず自社ECのみで販売する「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」で販路を広げている。
この商品のソール(靴底)には、オールバーズが開発した使われるサトウキビを使った素材と、アディダスのソール素材が使われているほか、アッパー(足をおおう部分)部分には、リサイクルポリエステルと木材パルプから作った新素材を使用している。
オールバーズとのコラボ商品。ソールの側面に、カーボンフットプリントの量を示す「2.94」の文字が書かれている。
撮影:横山耕太郎
原材料の調達から廃棄までに排出されるCO2を表すカーボンフットプリントは、2.94キログラムで、アディダスの一般的なランニングシューズと比べ、約63%削減した。
実際に試着してみると、アッパー部分の布地はかなり薄く感じたが、ソールにはクッション性があり、靴自体も軽くて快適な履き心地だった。この商品は限定販売され、294足のみ販売される。
ハンガーも「壁」も再生素材
商品をつるすハンガーもサステナブルをうたう。
撮影:横山耕太郎
商品を展示するハンガーは、再生素材を使っている。試着室など一部の壁材には間伐材を使った素材や、床材にも再生素材を採用した。
日本初の「スニーカークリーニング」とは
靴底の部分を蒸気を使って洗浄してくれる。
撮影:横山耕太郎
この店舗には、日本直営店では初となるスニーカークリーニングサービスもある。
クリーニングは無料でその場で表面の汚れをふき取ってもらえるほか、蒸気でソールの汚れを落とすなどしてくれる有料サービス(税込み2200円と2700円のコース)がある。いずれもアディダス以外のメーカーの靴でも対応するという。
ペットボトル減へ、マイボトル用給水機
給水場には「プラスチックという問題に対する、革新的なソリューション」と書かれたポスターも。
撮影:横山耕太郎
無料で使える給水スポットも設置。ペットボトルの水を購入するのではなく、マイボトルの利用を促進するという狙いがある。ただし、コロナの感染拡大の影響から、給水はしばらくは中止する予定だ。
スニーカーとサステナブルをテーマにしたアート作品も。
撮影:横山耕太郎
店内には「サステナブル」を表現するアートも展示されている。アディダスのスニーカーを陶器で作り、花を飾った作品は、使い捨てではないという形でのサステナブルを表しているという。
「来日した頃、日本の意識は高くなかった」
インタビューに応じたアディダス ジャパン副社長のトーマス・サイラー氏。
撮影:横山耕太郎
アディダスが、原宿の新店舗で、ここまでサステナビリティを前面に打ち出す狙いは何か?
アディダスジャパン副社長でマーケティング事業本部長のトーマス・サイラー氏がBusiness Insider Japanの取材に応えた。
「新しくオープンする店舗をどうするか考えた時に、ヘッドライン(見出し)としてサステナビリティを頭に出していこうと。それはサステナビリティが、私たちの哲学やストーリーそのものだからです」
トーマス氏は1998年にアディダスに入社し、ドイツの本社に勤務。2014年にマーケティング事業本部長として来日した。
「2014年に来日した頃は、日本でサステナビリティに対する緊急性は低かった。だがここ数年で劇的に変わってきています。確かに、欧米やヨーロッパに比べると、活動家などの数は少ない。ですが日本の消費者も、サステナビリティの動きに期待するようになっています」
逆にサステナブルを打ち出さないと、商品が選ばれないという危機感を感じているという。
寿命を延ばすことの「矛盾」
撮影:横山耕太郎
今回の新店舗では、国内店舗では初めてスニーカーのクリーニングサービスを設けた。同様のクリーニングサービスは、ドバイなどの国ではすでに展開しているという。
「メンテナンスによりスニーカーの寿命を延長できます。日本にはきちんとケアすることが文化として根付いている。このサービスが受け入れられることを期待している」
ただ、スニーカーの寿命が延びれば延びるほど、新モデルを次々と発表するアディダスなどアパレル業界にとっては、新商品への購買意欲が下がることにもなる。メーカーとして矛盾はないのだろうか。
「たしかに矛盾している側面はあります。ただ消費者もコロナを経て、自分の健康やサステナビリティの姿勢がかなり変わってきている。製品を修理し、ライフサイクルをどんどん延長させていくというのは、アディダスとしての姿勢を示すものだと思っています。
もちろん我々はビジネスを回していかなければいけない。サステナビリティに対して一つ一つ説明していくことが大切だと思っています」
今回、限定発売するオールバーズとのコラボレーションのほかにも、アディダスはキノコ由来の素材で人工レザーをつくるなど、環境負荷の少ない商品開発を進めている。
「サステナビリティはこれからキーの構成要素の1つだということを、私達は忘れてはいけない。アディダス本部では、研究開発費にかなり大規模に投資をして、イノベーションを起こすことにフォーカスしています」
アディダスでは2024年までに、すべてのシューズとアパレルのポリエステルを、リサイクル素材に切り替えることを目標に掲げている。
新店舗の壁には書かれたメッセージ。「年間6万トンのプラスチック廃棄物が日本から海洋にながれこんでいます」。
撮影:横山耕太郎
サステナビリティには「コンビネーションが必要」
グローバルでサステナビリティを掲げるアディダス。しかしスポーツ用品などを購入する際、サステナブルだけを特に意識する消費者はまだ多くはないだろう。
トーマス氏は「その考え方を変える必要はない。サステナビリティは、何かしらの妥協、例えばデザインや機能性を犠牲するものであってはならないと思います」と話す。
「例えばサッカーのユニフォームを作るとして、機能性においても優れていなければいけないし、外観もかっこよくなくてはなりません。
サステナブルだから買うのではなく、機能性とデザイン、そしてサステナブルのコンビネーションが求められています」
(文・横山耕太郎)