スイスの「クリプトバレー」は1000社近くのブロックチェーン関連企業がひしめき合う、ブロックチェーン技術と仮想通貨にとって世界有数の拠点だ。
地理的にはスイスとリヒテンシュタインにまたがり、ブロックチェーン関連企業が集積する複数の街から成る。
緩い規制、整備された法制度、優遇税制、投資家との距離の近さが魅力で、主要仮想通貨であるイーサリアム(Ethereum)、カルダノ(Cardano)、ポルカドット(Polkadot)などのオペレーションもクリプトバレーで行われている。
そんなクリプトバレー最大規模のベンチャーキャピタル、クリプトバレー・ベンチャー・キャピタル(CV VC)のオレフ・ハネマンCEOは、仮想通貨市場の長期的な可能性に強気な見方をしている。
クリプトバレー・ベンチャー・キャピタルのオレフ・ハネマン創業者兼CEO
CV VC
「投資に関する当社の基本的な見方としては、ブロックチェーン技術が、台頭しつつある機械学習、IoT、オーダーメイド医療、長寿など他の多くのメガトレンドを生み出すきっかけになると考えています」
JPモルガンという伝統的な金融畑出身のハネマンは、最近の仮想通貨価格の下落は短期的な調整であり、長期的な下げ相場ではないと見ている。
「個人的には、単なる調整局面と見ています。仮想通貨の市場はまだ10年の歴史しかありませんし、(伝統的な市場とは)大きく異なるダイナミズムを持った市場ですから」
そう述べたうえでハネマンは続ける。
「伝統的な投資家からの資金の流入も増えています。非常に高いレバレッジをかけて取引できる点は、課題もありますがチャンスもあります。短期的な変動が非常に大きくなるのは仕方ありません」
ビットコインは2022年1月21日、2021年8月以来初めて4万ドル(約460万円)を下回った。投資家のリスク回避が、IT銘柄など値がさ株の下落を招いた流れに引っ張られた形だ。
しかしビットコインについては、長期的には上昇するとハネマンは見ている。
その理由は、新規のコイン供給が減少することで発行済みコインの希少性が高まり、価格が上昇するいわゆる「ストック・トゥ・フロー・モデル」に該当すると予想するためだ。
「中長期的には、あらゆる仮想通貨が成長するとみています。ビットコインが今の下落から今年中に回復して価格が10万ドル(約1150万円)に達するかどうかは分かりませんが、今の価格水準かそれを少し下回る水準であればほぼ底と見ていいでしょう」
ビットコイン価格がもし3万ドル半ばまで長期にわたって下落することがあればかなり心配にはなるが……と前置きしつつ、根本的にはビットコインに対して強気の見方を崩さないという。
「ストック・トゥ・フローの考え方は有効だと確信していますから、今の価格帯から大幅に上昇するはずです」
注目すべき7つのブロックチェーン
Shutterstock/Pigprox
ハネマンはビットコイン以外ではスマートコントラクトプラットフォームの仮想通貨、中でもイーサリアムについて強気な見方をしている。ハネマンは次のように言う。
「実際にプロジェクト開発に使用されるプロトコルは要注目ですし、イーサリアムは全般的に強気に見ています。今でも多くのプロジェクトにとって花形ですし、勢いがあると思います」
今後2年間において注目すべきは、プロジェクトの導入やプロジェクトの事業化がどのように進んでいくか、プロジェクトの開発にどのプロトコルが採用されるかだと話す。
「イーサリアムには多くの資金が投資されてきましたが、他にもカルダノ(ADA)やテゾス(Tezos)もありますし、当社はソラナ(Solana)やポルカドット(Polkadot)にも注目しています」
CV VCはイーサリアムのライバル仮想通貨カルダノやオープンソース・ブロックチェーンのテゾスと提携している。
また、ビットコインをベースに構築されたアプリケーションを提供する仮想通貨スタックス(Stacks)に注目するプロジェクトもあると言い、アヴァランチ(Avalanche)や、最近ではニアプロトコル(NEAR Protocol)にも注目していると話す。
ハネマンは、どのプラットフォームが長期的に最高のパフォーマンスを出すかについてはオープンに考えており、いずれかが一人勝ちするとは予想していない。勝ち馬に賭けたいと思う投資家に対しては、スタートアップ企業の開発動向に注目することだと助言する。
「超長期的には、1つか2つのプロトコルが最終勝利者になるのか、あるいは異なった業界向けに多数の異なったブロックチェーンが誕生するのかは判断がつきません。ある1つのブロックチェーンがベストだという“伝道者”もいますが、スタートアップ企業がそのプロトコル上で開発しようと思ってくれなければ、中期的には衰退してしまいます」
最後に、次に発行されるイーサリアム2.0には注目すべき、とハネマンは指摘する。
「トークン価格とイーサリアムのブロックチェーンの効率化のバランスが、ブロックチェーン関連スタートアップ企業にとっては重要です。
価格が上がれば、それだけ効率性も向上しなければなりません。そうでなければ、スタートアップ企業は他の選択肢を検討するでしょうね」
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)