Z世代は90年代や2000年代初頭にノスタルジーを感じている。
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- 2000年代初期のマキシマリスト的な美学が、「インディ・スリーズ(indie sleaze)」という新たな名でZ世代の支持を集めつつある。
- アメリカン・アパレルのようなブランドや、フラッシュで白飛びさせた写真などを思い出させるファッションで、ヒップスターに加え、グランジやクラブのテイストが入っている。
- これは、キュレーションが幅を利かせた「ミレニアル世代のインスタグラム的美学」への反発であるとともに、経済的苦境への反応とも言える。
アメリカではZ世代によって、2000年代初期のトレンドがまたカムバックを果たした。その名は「インディ・スリーズ」だ(indie sleaze:sleazeは「いかがわしい、下品」の意味)。これは、ミレニアル世代には「ヒップスター」という名で知られていたファッションだ。
マイクロ・ブログの「タンブラー(Tumblr)」が全盛だった時代に、当時の人気ブランド、アメリカン・アパレル(American Apparel)を身にまとってダンスクラブに向かうモデルを思わせるイメージだ。
この「気持ちよさを追求する」スタイルがTikTokに最初に現れたのは2021年秋。Z世代のトレンド・アナリストであるマンディ・リー(Mandy Lee:TikTok上では「old loser in Brooklyn」のハンドルネームで知られる)が、インディ・スリーズのリバイバルをレポートした時だった。
それ以降、複数のメディアがこのスタイルの流行を報じている。デイズド・デジタル(Dazed Digital)のダニエル・ロジャーズ(Daniel Rodgers)は、「グランジ風で、マキシマリスト的であり、見せかけのヴィンテージ感がある」と表現した。
一方、ナイロン(Nylon)のインディア・ロビー(India Roby)はこれを、ブルックリンのヒップスター、80年代のエレクトロニカ・クラブ・シーン、そしてグランジという3要素のマッシュアップと評した。ポラロイド写真や盛り上がるパーティー、モヘアのカーディガンとバンドTシャツ、タバコと有線ヘッドフォン、女優のメアリー=ケイト・オルセン(Mary-Kate Olsen)やミュージシャンのピート・ドハーティ(Pete Doherty)といった人たちのイメージだ。
Z世代が最近になって発掘した、90年代から2000年代初頭にかけて流行した大半のトレンドと同様に、インディ・スリーズの美学には、2010年代に入って台頭した「人目を引く富」へのあてつけという意味合いがある。インディ・スリーズは、きれいに整理されていない、ホットな混沌だ。生産性やインフルエンサーが人気を集めた、ミレニアル世代のクリーンでミニマルな雰囲気とは対極にある。
2000年代初期に流行した「ヒップスター」のトレンドが、「インディ・スリーズ(indie sleaze)」と名を変えて復活を果たした。
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ポストコロナの景気後退の最中にヒップスターが復活を果たしたのは、2008年のリーマン・ショック後にヒップスターが流行したことに相通じるものがある。どちらも、もっと生きやすかった時代を求めるノスタルジックな心情から盛り上がった流行だ。
インディ・スリーズはまた、経済的苦境を経験し、楽しみに飢えている心情の反映でもある。リーはヴォーグ(Vogue)に対し、ロックダウンを経て、人々はコミュニティと創造性を渇望していると解説している。
「インディ・スリーズのサブカルチャーを見ていると、15年前、コミュニティやアート、音楽がとても大きなパワーを持っていた時代を思い出す。当時はそれらが、人々を結びつけていた」
リーマン・ショック後に流行った「ヒップスター」のトレンドが復活した理由
世代がインディ・スリーズに熱狂するのは、「ロックダウン後」の無軌道な解放感だけが理由ではない。物事がよりシンプルだった時代、ソーシャルメディアがなく、大人としての金銭的負担とも無縁だった時代への憧れもある。
イザベル・スローン(Isabel Slone)は、ハーパーズ・バザー(Harper's Bazaar)の記事でこう述べている。
「インディ・スリーズは、明るい未来を夢見ることができた最後の時期を思い起こさせる、どこか悲しい流行だ。当時は、近年の資本主義による破壊を受けない未来の姿を思い描くことが可能だった」
経済が苦境に陥ると、若者たちが心の慰めやつながりを求め、過去を懐かしむのはよくある話だ。人々の健康を脅かす世界的な危機の最中に、大人として生活の現実に適応を迫られているZ世代も、例外ではなかった。
彼らは、労働力人口の中で一番の打撃を受けた世代でもある。パンデミックが始まって1年が経った今でも、大学を卒業したばかりの若者たちは、仕事を見つけるのに苦労している。加えて、彼らの多くはリモートでの講義を余儀なくされ、人との交流も、スマートフォン経由にほぼ限られていた。
こうした苦難への防御反応として、Z世代は、ソーシャルメディアがまだ存在していなかった90年代や2000年代初頭に対してノスタルジーを感じている。そう指摘するのは、Z世代をターゲットにしたマーケティング・コンサルティング会社、クリムゾン・コネクション(Crimson Connection)の創業者、マイケル・パンコフスキ(Michael Pankowski)だ。彼は、以前のInsiderに対して、Z世代は、ネットに常につながっていたわけではない当時のライフスタイルに新鮮さを感じていると述べた。
「我々はインターネットが大好きだが、コロナ禍が、対面での人とのやりとりに深刻な打撃を与え、基本的にはデジタルの世界がすべてになってしまった」とパンコウスキーは言う。
「そこで、インターネットがここまで普遍的な存在ではなかった時代に対してノスタルジーを感じるのだ」
これは、2008年のリーマン・ショック後に起きた経済危機に合わせて、ヒップスターが流行した時の状況と似ている。ヒップスターというコンセプト自体は、古くは1940年代後半から存在し、さまざまな姿で繰り返し流行してきた。だが、このサブカルチャー・ジャンルが一般的になったのは、やはりリーマン・ショック後の不況の最中だった。
カルチャーメディア「ラックド(Racked)」の表現を借りるなら、当時の大学生たち(Z世代の1つ上にあたるミレニアル世代)は、「インディー・ロックや80年代のノスタルジア」に心を寄せていた。彼らも、経済が苦境に陥るなかで、よりシンプルな時代に憧れていたわけだ。このトレンドに、アメリカン・アパレルやアーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters)などのブランドが飛びつき、ヒップスターは一気にメジャーなトレンドに浮上した。
どうやら、景気後退の波が訪れると、ヒップスターたちは団結するようだ。そして今回、その動きを先導しているのはZ世代だ。
[原文:Gen Z brought post-recession hipster fashion back — rebranded as 'indie sleaze']
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)