2021年は仮想通貨にこれまでになく注目が集まった。その時価総額は年初の8000億ドル(約91兆円)弱から、最終的に287%増の2兆3000億ドル(約262兆円)まで急増した。
もちろん、通貨としての知名度が上がればその社会的な責任も大きくなる。仮想通貨業界の透明性の問題も看過できないレベルになってきた。Chainalysisによると、2021年の仮想通貨における詐欺被害額は77億ドル(約8770億円)相当になり、前年比81%増になった。
仮想通貨取引への法規制は2022年に大幅に整備されると予測されている。投資家もその影響を受けざるを得ないだろう。
Insiderは業界幹部、投資家、アナリストなど4人の専門家に話を聞き、規制の行方についての予測を以下にまとめた。
トニー・ファナー=レイタオ(キャンブリアン・アセット・マネジメント社長)
仮想通貨ヘッジファンド、キャンブリアン・アセット・マネジメント社長のトニー・ファナー=レイタオ
Cambrian Asset Management
運用資産3億ドル(約340億円)の仮想通貨ヘッジファンドであるキャンブリアン・アセット・マネジメント(Cambrian Asset Management)は、JPモルガンがデジタル資産の管理と運用を委託した初の投資運用会社だ。
キャンブリアン社では特定のトークンの価格変動に賭けるのではなく、計量モデルを使って規制リスクや流動性リスクの最小化を図る運用手法をとっている。
社長のトニー・ファナー=レイタオ(Tony Fenner-Leitão)は、2022年において規制は要注目だと話す。規制の整備によって、仮想通貨業界に正確性と透明性が確保されることを期待している。
ファナー=レイタオはInsiderの取材に対し、「規制の整備は、トークンの取引・管理からそれらに関わる企業の規制まで、幅広い面で重要です。規制の整備によって、人々の理解と関係企業の安定性に対する信頼が得られるので、とても有益です。さまざまな関係企業に関する規制の整備が進むでしょう」と述べる。
ファナー=レイタオが注目する規制の一つは、証券取引委員会(SEC)が仮想通貨の一部を「証券」に分類するか否かだ。
「トークンとは何かをめぐってはさまざまな議論や意見があります。私どもは、トークンは投資対象として極めてアーリーステージにあると考えています。
つまり、今の段階では明らかに証券ではないものの、新たな技術やビジネスモデル、経済モデル、ガバナンス・モデルを探求するアーリーステージのプロジェクトだということです」
マイク・マグローン(ブルームバーグ・インテリジェンス)
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ブルームバーグ・インテリジェンスのシニア・コモディティ・ストラテジスト、マイク・マグローン(Mike McGlone)は、仮想通貨が資産クラスとして伝統的な投資対象を凌駕し、支配的になると考えている。
2021年12月のレポートの中で、マグローンは次のように記している。
「アメリカは2022年に仮想通貨を認め、しかるべき規制を導入すると考えられる。それは価格にポジティブな影響を与えるだろう。2020年の急落以来、10%台の修正が起きていない株式市場と比較して、仮想通貨市場は2022年に相対的に優位に立つ可能性がある」
「米連邦準備制度理事会(FRB)が資金を吸い上げようとする動きが再び活発化し、債券利回りが低下することで、2022年のマクロ経済環境は、代表的な仮想通貨であるビットコインやイーサリアムに有利になる可能性がある。
仮想通貨は2021年末に向けて株式を上回る強さを見せた。2022年にもデジタル資産のアウトパフォーマンスが続くことを示唆しているのかもしれない」
ビットコインやイーサリアム以外では、マグローンは「暗号ドル」と呼ぶステーブルコインについても強気の見方をしている。
「約1万5000種類のライバル仮想通貨が主導権を争う中、ビットコインやイーサリアムとともに代表的な仮想通貨となった『暗号ドル』は、トップの一角を占め続けるだろう。(ステーブルコインの)バイナンスコイン(Binance Coin)、ソラナ(SOL)、カルダノ(Cardano)は、1年ほど前からトップ近くにつけていたXRP、ビットコイン・キャッシュ(BCH)、チェーンリンク(Chainlink)に取って代わった」
具体的には、ビットコインは強気相場が固まっているとマグローンは考えており、かたやイーサリアムの強気相場はより「永続的」としている。そして、起こるかもしれない株価暴落後に金融引き締め策の反転があったとしても、マグローンは楽観視を続けるという。
「株式市場が下落すれば、ビットコインは当初は逆風にさらされるだろう。しかし株価の下落が債券利回りに圧力をかけ、中央銀行が流動性を高めることになれば、仮想通貨にプラスになる可能性がある」と説明する。
仮想通貨の普及が進めば、従来の資産運用会社も参入を余儀なくされる。これが、マグローンが強気の見方をする理由の一つだ。
「過去の実績は将来の結果を示すものではない。しかし、新しいアセットクラスが既存のアセットクラスをアウトパフォームすると、それに否定的な人も市場に参加せざるを得なくなる。
資金運用会社は、ポートフォリオに仮想通貨を加えないままでいると、より大きなリスクに直面するおそれがある。この流れは2022年において重要な要素になるだろう」
ジェームズ・マルコム(UBS・為替戦略責任者)
ビットコインの急騰によって、仮想通貨ヘッジファンドも高騰した。
Dado Ruvic/Reuters
UBSの通貨戦略責任者であるジェームズ・マルコム(James Malcolm)が最近Insiderに語った内容によると、2022年の仮想通貨市場全体には3つのトレンドが予見されるという。
規制という「諸刃の剣」
規制について投資家は楽観的な見方をしていいとマルコムは考えている。その理由は、最終的に「規制は仮想通貨業界にとって建設的なものとなり、結果的に投資対象としての採用が広がって参加する投資家層も拡大する」と見ているからだ。
「仮想通貨を取り巻く現在の環境は、明らかに多くの投資家にとってあまり魅力的ではないため、投資対象として軽視されています。しかし、安定的な仮想通貨サービス、仮想通貨ウォレット、分散化金融などは、規制当局が言うように、今後は従来の金融商品・サービス同様に規制を受けることになるでしょう」
高まる仮想通貨の影響
「仮想通貨を好きか嫌いか、関わりたいかどうかにかかわらず、もう避けて通ることは難しくなってくるでしょうね。市場参加者が増えるにつれて、仮想通貨関係のIPOも間違いなく増えます」とマルコムは言う。
ロビンフッドやメタを例に挙げ、「今、主要企業が仮想通貨への関心・関与を強めつつあります」と述べる。
相互運用性が重要
ブロックチェーンの2021年におけるテーマは規模拡大だったが、2022年のテーマはブロックチェーンの「相互運用性」だとマルコムは言う。それによって、「ブロックチェーンの動きとトークン価格の間にこれまで存在していた、極めて線形的な関係が切り離されるでしょう」と指摘する。
相互運用性によってブロックチェーンの相互補完性が高まれば、異なった仮想通貨を「それぞれが異なったロジックで動くものとしてとらえるのではなく、より直接的に比較できる」ようになる。その結果、投資家の注目は仮想通貨の供給量や所有者構成などに移るかもしれない、という。
「今のところ仮想通貨投資は、価格が上がるか下がるか、ニュースを見て他より上がりそうな通貨はどれかが注目されています。しかし将来は、相対的価値が重視されるでしょう。市場全体の変動から生まれるリターン(ベータ値)だけでなく、市場平均を上回る超過リターン(アルファ値)が追求されます」
ブライアン・モーソフ(イーサー・キャピタルCEO)
Rafapress/Shutterstock
イーサリアムに強みを持つ投資会社、イーサー・キャピタル(Ether Capital)のブライアン・モーソフ(Brian Mosoff)CEOは、2022年の市場に見られるであろう規制の行方について4つの点を指摘した。
仮想通貨市場の急落
大幅な利益を得た一年が経過し、仮想通貨投資家は多額の税金を課せられる可能性があるにもかかわらず、「課税に備えた仮想通貨の現金化を行っていない人も大勢います」と言い、モーソフは次のように続ける。
「2022年1月あたりに、売却による市場の下落が起こり得ます。急騰の後、市場のクールダウンには必要な下落かもしれません。あるいは、まさに税金を払うために現金が必要な人が売却することで起こるかもしれません」
バズワードは「規制」
モーソフは、2022年において大規模な規制が導入されるとは考えていないが、アメリカの規制の動きには投資家も他国も注目するだろうと言う。
「アメリカは、仮想通貨に正しく対処したい対処したい、その見返りとして得られるものはかつてなく大きい、と考えています。関連企業やその評価額を別にしても、仮想通貨だけで3兆ドル(約330兆円)以上の規模がありますから。この新しい資産クラスにおいて、自由世界のリーダーになるチャンスがあることを認識しています」
DAOの成長
「開発者とDAO(分散自立型組織)によって、より匿名的でグローバルな調整が行われるようになるでしょう」とモーソフは説明し、次のように続ける。
「規制当局がその場しのぎの対応を取ると、意図せずして、開発者は匿名性を高めたり、規制当局の目が届かないところで活動したりするようになるでしょう。バランスを取るのが難しい、やっかいな取り組みです」
ステーキングが生む利益
2022年には「ステーキング」の人気が急上昇するとモーソフは予測する。ステーキングとは、特定の仮想通貨を保有することでパッシブ・インカムを得られる仕組みだ。モーソフは次のように言う。
「仮想通貨は安心で信頼に足る資産クラスだという見方がもっと広がってくれば、投資家はさまざまな方法で市場に参加しようとするでしょう。そのひとつがこのステーキングのような、これまで寝かせていた商品で利益を生む方法です」
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)