『ボバ・フェット』
Disney+
2022年1月20日のメディア向け業績発表で、ネットフリックス(Netflix)が1−3月期の新規会員数の目標を250万人と伝えたことで、ストリーミング業界に衝撃が走った。これは前年同期の実績の4割減だったからだ。
この低めの見通しを業界のペースダウンの兆候だと見る投資家たちもいた。ネットフリックスの株価は翌26日の時間外取引で21%下がり、またストリーミング・サービスに注力しているディズニーも、株価を4%下げた。
ネットフリックスの弱気な発表の背景には、ディズニーが同じ週の前半に、動画配信サービス部門を再編し、海外コンテンツを強化する計画を発表したことがある。
アメリカの動画配信マーケットが成熟し競争が激化するなか、海外市場の動画配信サービスのユーザーが会員数全体の伸びを支えている。また、ネットフリックスの『イカゲーム』や『ペーパー・ハウス』といった海外コンテンツがグローバルで大ヒットとなり、大きな投資対効果を生むことができることも示している。
「ディズニーはネットフリックスのすぐ後を追っており、両社ともいいストーリーは万国共通だと話しています」とエンパイア・フィナンシャル・リサーチ(Empire Financial Research)のバーナ・バーシェイ(Berna Barshay)は言う。「今世界中で大ヒットしている『ミラベルと魔法だらけの家』がそれを証明しています。とはいえ、結局、その地域で成長を加速できるかどうかは、ローカル言語のコンテンツにかかってくるのです」
海外コンテンツ部門のヘッドをCEO直下に
今回の組織再編でディズニーが新設した海外コンテンツ部門は、動画配信サービス向けのローカル・コンテンツ制作を管轄する。昇進してそのヘッドになったのがレベッカ・キャンベル(Rebecca Campbell)で、ボブ・チャペック(Bob Chapek)CEOの直下に配属されている。
レベッカ・キャンベル。
Disney
キャンベルは、直近ではディズニーのインターナショナル・オペレーションズ、およびダイレクト・トゥー・コンシューマ部門のトップであり、海外事業についてはチャペックの下で、またDisney+(ディズニープラス)、Hulu(フールー)、ESPN+(イーエスピーエヌ・プラス)についてはディズニーのメディア&エンターテインメント・ディストリビューション・グループのトップであるカリーム・ダニエル(Kareem Daniel)の下で働いていた。
再編後の組織は、もっとシンプルになる。ダニエルの直属の部下でディズニー幹部のマイケル・ポール(Michael Paull)が、ディズニーの動画配信サービスのプラットフォーム全体の指揮を執り、キャンベルは海外の事業に注力する。これにより、海外の人材との関係構築や、出すコンテンツだけでなく各国における価格設定についてもキャンベルが統括することになるだろうとアナリストたちは言う。
また、ディズニーは、Disney+の幹部であるジョー・アーリー(Joe Earley)をHuluの新しい社長にすることも発表している。アーリーはポールの配下となる。Huluはアメリカでのみ事業を行っているものの(編集部注:Hulu日本事業は2014年に日本テレビに売却)、ディズニーが33%の持ち分をコムキャスト(Comcast)から買い取った後は、海外にも展開させるかもしれないと業界に詳しい筋は見ている。Huluがグローバル展開しなかったとしても、ディズニーの一般向け動画配信サービス、Star(スター)のためにキャンベルの部門が制作する成人向けコンテンツは、Huluを中心に配信される可能性がある。
海外部門をCEO直下にしたことは「珍しいこと」と言うのは、調査会社CFRAのメディアおよびエンターテインメントのアナリスト、トゥナ・アモビ(Tuna Amobi)だ。しかし、これは「その事業をどれだけ重視しているかの表れでもある」と言う。
「今後数年間で掲げている目標を達成するなら、その成長を支えるのが海外なのです」
ディズニーのサービス全体の会員数は2021年10月時点で1億7900万人だったが、2024年には3億〜3億5000万人にすることを目標としている。
同社はこの伸びを達成するために、旗艦ストリーミングサービスであるDisney+を海外で積極的に展開している。サービス開始から2年後の2021年11月には60カ国以上で配信していたが、2022年10月に始まる2023年度には160カ国で展開する目標を発表している。
また2021年11月には、主にローカル・コンテンツを充実させるため、これまで2024年度に80億〜90億ドル(約9200億〜1兆350億円)とされていたDisney+とStar向けのコンテンツへの投資を強化していくと発表した。
ディズニーは現在、動画サービス向けに340を超えるオリジナルのローカル・コンテンツを準備、制作中で、そのほとんどがDisney+とStarのコンテンツだ。
しかし成長は鈍化しており、だからこそ海外コンテンツ強化という決断につながったのかもしれない。Disney+の10-12月期の会員数の増加は210万人にとどまっており、これはサービス開始以来最低の数字だ。
海外展開でワーナーメディアなどとの競争激化へ
海外展開しようとしているメディア企業はディズニーだけではない。コムキャスト、バイアコムCBS(ViacomCBS)、ワーナーメディア(WarnerMedia)なども、2022年に動画サービスのさらなる海外展開を目論んでいる。
世界中がコロナ禍で経済に打撃を受けるなか、こうした企業はインドやブラジルなどの海外市場で我先にと牙城を築こうとしている。
それでも、ある芸能プロダクションの社員によれば、長年の競合相手と比較すると、過去の配信契約の縛りがあまりないディズニーは、おそらく海外市場へのシフトが最もやりやすいだろうという。例えば、HBOのコンテンツはヨーロッパの有料TVサービスであるSkyが2010年からの契約で独占配信しており、この契約は2019年に更新され、2025年まで続く予定だ。
同社員はまた、海外市場でサービスを開始する際、一度に少ない本数しか配信しない他の動画サービス企業と比較すると、Disney+は多くのコンテンツを配信しているという。
海外市場への進出で、ディズニーが所有する大型コンテンツも新たな展開が可能になると言うのだ。
「一番楽しみなのは、ローカル言語の世界でそういったコンテンツをどう展開するのかということです。今のところタイのスターウォーズのシリーズを作ったりはしていませんが、やらない理由もないですよね」
(翻訳:田原真梨子、編集:大門小百合)