アマゾンは2021年9月、再エネ電力を長期的かつ安定的に確保するため、三菱商事とアライアンスを組むことを発表した。
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再生可能エネルギーで発電した電力をどう調達するか――。企業が脱炭素化を進めるうえで欠かせない、再エネの調達方法に変化の兆しが見えてきた。
アビームコンサルティングが大企業7業種309社を対象に聞き取りした実態調査によると、大手電力会社や新電力から購入するのではなく、自社で再エネ電力を直接調達する方法が主流になりつつあることが分かった(詳細はリンクを参照)。
具体的にどんな傾向が浮かび上がったのか。まずは、【図1】のグラフを見てほしい。
【図1】大企業7業種・309社を対象に実施した「再エネ電力の調達方法」の回答結果。
出所:アビームコンサルティング・日本総合研究所「エネルギー需要家企業におけるGX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けて」
【図1】にある4つの調達方法のうち、最も手っ取り早いのは「小売りメニュー」、つまり大手電力会社・新電力が提供する料金プランを契約して再エネを購入する方法だ。電力市場が自由化された当初は、再エネ調達の主流を占めていた。
しかし、今回の調査では、小売りメニューで導入または導入検討を予定している企業は7割にとどまった。
それに対し、自前で再エネ電力を調達する「オンサイト発電」「オフサイト発電」「再エネクレジット」はいずれも、導入済み・導入検討予定と合わせて8割超。自前調達が広がっている現状が明らかになった。
- オンサイト発電:太陽光などの再エネ発電設備を、自社敷地内(オンサイト)に設置して自家消費する
- オフサイト発電:実際に電力を使う敷地とは別の場所(オフサイト)に再エネ発電設備を設置し、電力会社の送配電ネットワークまたは自社の送電線(自営線)で消費拠点に電力を送る
- 再エネクレジット:再エネ電力を調達したことを担保する証書(Jクレジット、非化石証書、グリーン電力証書)を、企業が直接購入する
背景にあるのは、再エネの供給不足や価格上昇といったリスクを回避しようという企業側の思惑だ。
再エネ調達のカギ握る「協業」
2021年10月に閣議決定された最新のエネルギー基本計画では、2030年に日本の再エネ電源の比率を、現状の18%から36〜38%に拡大する方針が掲げられた。しかし、それを賄えるほどの再エネ電源立地が見通せておらず、今後、再エネ電力は奪い合いとなり、価格が上昇することが懸念されている。
それを回避する手段と期待されているのが、オンサイト発電、オフサイト発電による再エネ電源の増強だ。
今回の調査結果を踏まえ、アビームコンサルティングは2022年1月26日、日本総合研究所と共同で、今後の脱炭素経営に向けた提言を発表。
日本総研リサーチ・コンサルティング部門ディレクタ/プリンシパルの段野孝一郎氏は、再エネ調達において、アライアンス(協業)の重要性が増すと指摘する。
「従来のように(再エネ)電気を買って終わりではなく、他社からの調達や自ら発電所を運営するなど、取引先と一緒にサプライチェーン全体で二酸化炭素(CO2)の排出を削減する。そのための柔軟な組織体制が必要ではないでしょうか」(段野氏)
規制緩和で広がる「自己託送」への期待
アライアンスの一例としていま広がりを見せているのが、オフサイト発電だ。
アビームコンサルティングの産業インフラビジネスユニットダイレクター、山本英夫氏によれば、セブン&アイ・ホールディングス、アマゾンをはじめ、すでに多くの企業で実施または検討が進められているという。
セブン&アイ・ホールディングスは2021年3月、NTTグループと組み、このスキームを活用してセブンイレブン40店舗などに再エネ100%の電力を供給すると発表した。アマゾンも同年9月、三菱商事と組んで、首都圏・東北の450カ所以上で開発中の太陽光発電設備から再エネを調達すると表明。第一生命保険も同9月、オリックスなどと組んで参入することを明らかにしている。
セブン&アイ・ホールディングスとNTTのアライアンスによる再エネ調達の仕組み。
出所:セブン&アイ・ホールディングス発表資料
さらに今後注目されるのが、「自己託送」というスキームを使ったオフサイト発電の広がりだ。
自己託送とは、遠隔地にある自社の発電設備で発電した電気を、電力会社の送配電ネットワークを経由して、別の自社拠点に送る仕組み。
そのスキームに関する規制が、2021年11月に緩和された。
「従来は同一企業、同一グループに限り“自己”託送と認められていました。それが、2021年11月の規制緩和によって、組合の設立や再エネに限定することを条件に、同一企業・同一グループでなくても自己託送のスキームを使えるようになったのです」(山本氏)
実は、この規制緩和の前から、法律に触れない範囲で「自己」の要件をくぐり抜け、同一の企業・グループ以外の第三者が再エネ電力を供給する事例は存在していた。
それだけ、長期的かつ安定した価格で再エネを確保するには「専用の電源が必要だ」という企業側のニーズが強かったことを示している。
この自己託送によるオフサイト発電は、今後も広がっていくのだろうか。Business Insider Japanの質問に対し、段野、山本両氏は次のように語った。
「制度上グレーだった部分が、組合方式ならできると明文化されたことで、今後はこのスキームを使った事例がどんどん顕在化していくと思います」(段野氏)
「まだ公表はされていませんが、いくつかの企業ですでに検討が進んでいると聞いている。かなり大規模な企業の参入が、もうすぐ表に出てくるのではないかと見ています」(山本氏)
(文・湯田陽子)