オンライン記者会見に参加した出前館、Zホールディングス、アスクルの役員ら。
提供:Zホールディングス
「Zホールディングス(ZHD)のユニークなアセットを活用し、どこにもまねできない、ユーザーに圧倒的に指示されるサービスとしてYahoo!マートを展開してまいります」(ZHD執行役員の秀誠氏)
注文から最短15分で、食品や日用品を配達するクイックコマースサービス「Yahoo!マート」が本格始動した。Yahoo!マート事業は、2021年から一部で先行実証しており、ZHDと出前館、アスクルの3社が運営する。
商品の仕入れを担当するのは、オフィス用品通販・アスクル、配達を担当するのはフードデリバリー大手・出前館。両社はZHDのグループ企業だ。
クイックコマースは、ネットスーパーなどよりも短時間で配送するサービスで、新規の参入が相次いでいる。すでにフードデリバリー最大手のウーバーイーツはローソンと提携。コンビニの商品の配送を担っている。
2020年9月からクイックコマースに参入していたフードデリバリーのフードパンダは、クイックコマースの配達拠点を大阪や名古屋、東京に整備していたが、2022年1月末で国内からの撤退を発表している。
激しい競争が続くクイックコマース市場で、Yahoo!マートは勝ち抜くのか?
記者会見で語られた「3つ」の強みを分析する。
実証実験の3カ月で「注文数10倍」強調
フードパンダが運営するクイックコマース拠点の内部。フードパンダは日本からの撤退を発表している。
撮影:横山耕太郎
Yahoo!マートは、出前館のアプリなどから食料品やトイレットペーパーなどの日用品を注文できるサービス。
配達拠点は現在、板橋区や渋谷区など都内に8カ所。ユーザーが出前館のアプリを通じて、商品を注文すると、配達拠点のスタッフが保管されている商品をピックアップして梱包する。
配達依頼が出前館の配達員に飛び、依頼を受けた配達員が、配達拠点の商品をピックアップして注文者の自宅などに届ける仕組みだ。
ZHDでは2021年7月から実証実験を開始。10月〜12月の3カ月間で、実証実験の店舗数は1店舗から5店舗に増やし、全体の注文数は10倍に増えた。
「1店舗当たりもどんどん伸びており、一度利用したユーザーの定着率も高かった」ことから、本格的な運用開始を決めたという。
強み1:大規模採用を続ける出前館の配達員
出前館にとってもクイックコマースは、配達員の確保に役立つとみる。
オンライン記者会見を編集部キャプチャ
「注文から最短15分」という、短時間での配送を可能にするには、配達員の確保が欠かせない。
この配達を担うのが、普段はフードデリバリーをしている出前館の配達員だ。
フードデリバリー最大手のウーバーイーツなどに対抗し、利用者の獲得を目指す出前館は、2020年11月から「配送料無用」や「半額WEEK」などのキャンペーンを展開。割引のキャンペーンと同時に、配達員の確保も進めるため、配達料の上乗せなども実施し、2021年9月~11月の配達員数は、前年同期に対し547%にまで増えた。
出前館のアプリでYahoo!マートを開くと、配達時間や人気商品が一目でわかる。
撮影:横山耕太郎
クイックコマースへの参加は、出前館が配達員を確保する面でもメリットがある。
フードデリバリーは昼食と夕食の時間帯に注文が一気に集中するが、クイックコマースの場合は時間に関係なく注文が期待できるため、配達員も無駄な待機時間を減らし稼ぎやすくなる。
「実証実験を行った5店舗はいずれも、出前館の登録店舗の売り上げトップ10に入る売り上げをあげている」(出前館シェアリングデリバリー本部長・清村遙子氏)
強み2:900万品を扱うアスクルの商品力
アスクルの輿水氏は「エリアごとにあった商品展開をしたい」と話す。
オンライン記者会見を編集部キャプチャ
Yahoo!マートでは、現在1500点の商品を扱っているが、この商品の選択と仕入れを担当するのがアスクルだ。
事業所向けの通販サービスASKULがだが、個人客向けに食品などを配送するLOHACOの注文数も伸ばしているアスクル。事業所向けも含めて、アスクルが扱う商品数は900万品以上にのぼるという。
実証実験での売り上げが多かったのは、「食品」が34%、「水・飲料・酒」が18%、「日用品」が17%だった。また2021年末には、2万円の高級おせちを販売したところ、即完売になったと言い、「エリア特性や季節に合わせた商品をそろえていきたい」と語る。
「取り扱う商品が増えれば、注文も多くなることがわかった。まずは3000から4000商品を扱えるようにしたい」(アスクル取締役・輿水宏哲氏)
強み3:LINEとYahoo!のユーザー基盤
「各社のアセットーを生かす」と強調する秀氏。
オンライン記者会見を編集部キャプチャ
Yahoo!マートのもう一つの特徴が、ZHDが抱えている巨大なユーザー基盤だ。Yahoo!の月間利用者は約8600万人で、LINEの月間利用者数は8900万人を誇っている。
「Yahoo!とLINEという日本で一番のユーザーベースからの強い誘致・送客をおこなっていきます。各領域ナンバー1の強みを生かした各社のアセットを最大活用した展開で、強い競合優位性、高いサービス品質を作っていけると確信している」(ZHD執行役員の秀氏)
東京以外のエリアは明言せず
配達拠点のイメージ図。2022年度中に23区と一部エリアでの展開を目指す。
オンライン記者会見を編集部キャプチャ
Yahoo!マートは、2022年度に東京23区と一部エリアをカバーすると発表。23年度以降に更なるエリア拡大を掲げたが、「東京以外のエリア」については、質問に対しても明言を避けた。また売り上げの目標についても、回答しなかった。
Yahoo!マートでは2月8日までの限定で、「820円オフクーポン」を配布するなど、サービスの定着を進めたい考えだ。
コロナ禍でフードデリバリーを含む、デリバリーサービスの認知は大きく進んだ。しかし、出前館を始め、フードデリバリー業界の利用者増は、割引キャンペーンなどの「キャッシュのばらまき効果」が大きい側面もある。今後も順調に拡大していくのか未知数な部分が残る。
クイックコマースは現状、都心中心のサービスだが、この市場は地方都市にも広まっていくのかどうか。またZHDが期待するグループ各社のシナジーを生みだせるか。Yahoo!マートの成否は、その両面にかかっていると言えそうだ。
(文・横山耕太郎)