国際通貨基金(IMF)は1月25日、世界経済見通し(WEO)の改訂版を公表した。画像はIMFウェブ見通し掲載ページのスクリーンショット。
Screenshot of International Monetary Fund Website
国際通貨基金(IMF)は1月25日、世界経済見通し(World Economic Outlook、WEO)の改訂版を公表した。通常は1月中旬公表のところ、オミクロン株拡大の影響を内容に盛り込むべく、1週間延期していた。
今回のサブタイトルは「増加する感染件数、停滞する経済回復、亢進するインフレ」で、世界が目下直面する問題を羅列した。
2022年の世界経済成長率(実質GDP伸び率)は4.4%。前回(2021年10月)予測から0.5ポイント引き下げられた。
主に、インフレ亢進に苦しむアメリカ(1.2ポイント引き下げ)とゼロコロナ政策に執心する中国(0.8ポイント引き下げ)に引きずられた形だ。また、オミクロン株の感染拡大が早期に進んだドイツ(0.8ポイント引き下げ)の影響もあった【図表1】。
【図表1】2020~23年の主要7カ国(G7)および中国の成長率軌道(前年比%)。
出所:IMF 'World Economic Outlook UPDATE January 2022'より筆者作成
こうした下方修正の上でなお、リスクバランス(=見通しが上振れまたは下振れする可能性の確率分布)は下方に広がっている。つまり、見通しはさらに下振れする可能性がある。
新たな変異株の出現、サプライチェーンの混乱、エネルギー価格の乱高下、賃金上昇、先進国の金利引き上げに伴う不安定化など、リスク要因が目白押し。さらに、ロシアやウクライナ、台湾といった固有名詞こそ登場しないものの、地政学的な緊張にも言及がある。
そのように「各所で火の手が上がった」状況のもとで、株式や暗号資産など高リスク資産の投げ売り(=想定以上の損失を回避するための持ち高解消)が加速するのは当然のことだ。
ただ、そうしたリスクセンチメントが悪化する状況では、需要減退が起こり、その結果として資源価格の調整(=適正な価格を回復するための短期的な相場上下)を期待できるものだが、現実にはそうなっていない。
原油先物は1月26日におよそ7年ぶりに1バレル90ドルを突破、その影響で日本でもガソリン小売り価格が1リットル170円を超えるなど、資源価格の高騰には衰えが見えない。
結局、世界経済が減速しているとは言え、需給面では「復旧しない供給能力、旺盛な需要動向」という構図がなお続いているからだ。
全然喜ばしくない上方修正
2021年は下方修正がくり返された日本の見通しは、今回2022年、23年とも上方修正された。主要7カ国(G7)では唯一のポジティブな見直しだ。
しかし、諸手を挙げて喜ぶような話ではない。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など行動制限の慢性化によって2021年の経済成長率が極端に低く抑えられたため、結果として22年の変化率が押し上げられたにすぎない。
2020〜21年の成長率(前者は実績値、後者は推計値)を累積してみると、日本経済が相変わらず精彩を欠いたままであることがよく分かる【図表2】。
【図表2】IMF世界経済見通し (2020年と2021年の累積成長率)。
出所:IMF資料より筆者作成
今回、欧米経済の見通しは下方修正とされているが、すでにパンデミック以前(2019年10~12月期)のGDP水準を取り戻しているので、ここまで乱高下してきた成長率が本来のペースに収束していくのは自然な話だ。
いずれにしても、いまだにパンデミック以前の水準を回復できない日本経済からすれば、欧米はまだまだ遠い存在と言える。
米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする海外の中央銀行が量的緩和の終了に動いているのに対し、相変わらず煮え切らない情報発信を続ける日本銀行の現状を見れば、そうした分析に疑問を抱く余地はないだろう。
次の見通しは下方修正含み
2021年の日本をあらためてふり返ると、1月改訂の世界経済見通しではやはり上方修正を経験していた。
それが4月、7月、10月と時間を追うにつれ、世界の流れと逆行するように下方修正がくり返されていった。言うまでもなく、緊急事態宣言やまん延防止措置などくり返された行動制限の結果だ。
2021年の先進国における主要株価指数の動きには、まさにそうした流れが反映されている。春先以降、行動制限が順次解除された欧米の成長率が復元する一方、行動制限の解除を渋った日本の成長率は沈んでいった【図表3】。
【図表3】主要国の株価指数推移(2021年)。同年1月1日を100とする。
出所:Macrobond資料より筆者作成
いまや最下位が定位置になってしまった日本の株価指数だが、2021年4月ごろまでは他の先進国と比較しても遜色ない動きをしていた。外国人投資家が日本株を買わなくなったのも同4月以降だった。
今回公表された世界経済見通しの改訂には、東京都など34都道府県に現在適用されているまん延防止措置の影響は織り込まれていない。
したがって、2022年の経済成長見通しが3.3%と言っても、現時点ですでに下方修正含みということになる。2月13日(北海道や大阪など21道府県は20日)までとされる適用期間を超えて延長されれば、下方修正幅は大きくなる。
岸田政権は行動規制をはじめとする厳格な措置が支持率に直結すると考えているフシがあり、とにかくリスクを回避する「参院選のための管理内閣」の様相を呈している。
これからまた下方修正がくり返され、成長率も沈んでいく……現時点ですでにそんな既視感を抱いている市場関係者も多いのではないか。このような予想が外れてほしいと切に願う。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
(文・唐鎌大輔)
唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。