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アマゾンは先ごろ、レジなしの実店舗「Amazon Go」(アマゾン・ゴー)の郊外型店舗をオープンさせる計画を発表した。また、将来的には数千店のレジなしGoストアでガソリンの販売を検討していることが、Insiderの取材により明らかになった。郊外のコンビニエンスストア市場を追求する取り組みの一環となる。
Insiderが入手した社内資料によると、2020年に検討された案の中には石油大手BPとの提携も含まれていた。BP側から、同社が運営する給油ポンプを併設したAmazon Goのレジなし店舗をオープンさせるという提携について、アマゾンに打診があったという。
アマゾンは、この提携なら経費が抑えられるうえ、Goストアへの顧客の来店理由も増えると考えたようだ。しかし社内資料によると、ガソリン事業のコントロールを失ううえ、大手エネルギー会社と手を組むことは化石燃料への依存低減を目指す同社の取り組みに矛盾することになる、と最終的に判断したという。
アマゾンは1月25日、郊外型Goストア1号店の計画を発表したが、この社内資料からは、BPとの提携以外にも発表前に多くの選択肢を検討したことがうかがえる。社内ではコードネーム「バウザー」(訳注:マリオシリーズの架空のキャラクター、クッパの英語名)と呼ばれる新しい郊外型Goストアの構想には、次のようなものがあった。
- BPの支援を受けずにアマゾン・ブランドのガソリンスタンド1万店を展開
- 「バウザー」とは別タイプの郊外型レジなしGoストア2000〜6000店
- バウザー店舗6000店からの予測収益(ガソリンを除く)は180億ドル(約2兆円)。1店舗あたり300万ドル
- 「Just Drive Off」という名称で新たに店頭受け取りサービスを展開
- 薬局大手ウォルグリーンのような小売薬局
- 温かい食べ物、できたてのサラダやサンドイッチ、スターバックス・コーヒー、調理済み食品の盛り合わせなどの販売
- 宝くじ券、ATM、アマゾンが買収した薬局「ピルパック」(PillPack)の薬などの販売
アマゾンが実店舗の展開を強化するにあたり、舞台裏でどういった協議がなされたか、社内資料からは貴重な様子を垣間見ることができる。
郊外型Goストアに関する先ごろの発表に先立ち、アマゾンは「Amazon Style」(アマゾン・スタイル)というアパレル店の計画も明らかにしていた。アマゾンはすでに、生鮮食品のFresh、書店、アマゾンのECサイトで4つ星以上の評価を受けた商品を販売する店、さらにはアマゾンが所有するホールフーズの数百店舗など、実店舗の拡大を進めており、Amazon Styleはこれに加わることになる。
レジのない新コンセプトのGoストアが初めてオープンしたのは約5年前。以来、郊外での小規模コンビニ形式の店や、大きめのFresh食料品店なども含め、アマゾンはさまざまな種類のGoストアを展開してきた。しかし1月25日に発表された新しいタイプのGoストアについては、詳細がほとんど明かされていない。
アマゾンの社内資料には、「Amazon Goを全国規模にするには、郊外型のモデルが必要であることは間違いない」と記されている。「燃料の扱いが必須だとは考えていないが、かなりの助けになるはずだ」。Insiderはアマゾンにコメントを求めたが、今のところ回答はない。BPはコメントを控えるとしている。
燃料店1万店
Amazon
社内資料によると、アマゾンの実店舗チームは、郊外型Goストアでガソリンを販売する利点について「時間をかけて議論」したという。燃料を販売することで、Goストアが顧客の日常的な習慣の一部となったり、給油ポンプにディスプレイ広告を設置すれば追加的な収入を得られるなど、いくつもの利点があるとチームは結論付けている。また、アマゾン・プライム会員に対するガソリンの割引も検討されている。
この市場は、給油ポンプを加えた最大1万店の郊外型Goストアを投入できる規模だとアマゾンは試算している。社内資料によると、これは全米のガソリンスタンドの約10%に相当する。この規模の場合、ガソリンスタンド型の新規Goストアの年間利益は13億ドル(約1500億円)に達する試算だ。
実店舗チームは、2021年と2022年は5〜15店舗ほどの小規模でスタートさせてから学習し、復習したうえで拡大していくことを提言している。ちなみに、全米のコンビニエンスストア約15万店のうち、ガソリンを販売しているのは80%という。燃料は「ほぼ差別化されていない」ため、顧客がガソリンスタンドを選ぶ理由はブランドではなく、近さや料金といった要素になる。
検討中に出てきた最大の懸念は、ガソリンの販売が、アマゾンの「気候変動対策に関する誓約」への取り組みに矛盾しないか、という点だった。この懸念を払拭するため、燃料の収益を全て「クライメートポジティブ(温室効果ガスの排出量より削減量を増やす)イニシアチブ」に投じることを実店舗チームは提案している。例えば、EV(電気自動車)配送車を購入する、クリーンエネルギー技術に直接投資する、などだ。内部文書には次のように書かれている。
「燃料の販売により、気候変動対策の誓約の実現が難しくなることは認識している。しかし、アマゾンが石油ガス開発業界に引き続きクラウドコンピューティング・ツールを提供し、ポジティブな変化を支援しているように、アマゾンが燃料小売業界に参入することで、この業界にも変化を促せると考える」
アマゾンは現在も、自社でガソリンスタンドを展開する実行可能性について社内で協議中だ。しかし匿名を条件に取材に応じた消息筋によると、投資利益率について納得が得られていないようだ。別の消息筋も、ガソリンスタンドの構想は小売担当CEOのデイブ・クラークにもプレゼンされたものの、あまり乗り気でなかったとしている。
店頭受け取りサービス「Just Drive Off」
アマゾンが協議した郊外型Goストアのもう1つの特徴に、「Just Drive Off」(JDO)という店頭受け取りサービスがある。
社内資料によると、JDOとは、顧客が事前あるいは現地で注文した品物を5分以内に車まで届けてくれるサービスだ。また、ワンクリックで注文できる新しい「お気に入り」機能や、顧客を素早く特定できるナンバープレート読み取り機能も検討されている。
実店舗チームは、店内での買い物と同じくらいに今後は店頭受け取りが一般的になるだろうと見ており、マクドナルドやコンビニチェーンのワワ(WaWa)、クイックトリップ(QuikTrip)など、ほかの小売業者も実験を開始していると指摘する。社内資料には次のように書かれている。
「買い物時間を短縮するため、顧客は車での受け取り(店頭受け取りやドライブスルー)サービスに利便性を感じており、こうしたサービスは郊外型のコンセプトを成功させるうえでは不可欠なものとなっている」
このように社内資料を見る限り、新しい郊外型Goストアが今の形に決まるまでには紆余曲折があったようだ。先述のとおりATMの設置や宝くじの販売、薬の販売のほか、雑貨、厳選したワイン、クラフトビール、国産ビール、果ては大型の居酒屋チェーントータル・ワインのような倉庫型リカーショップなどもあった。内部資料は次のように述べている。
「これらの案にはそれぞれ利点があるが、現代の生活に合わせた“多目的”なコンビニ店で食品を豊富に扱う形が、今のAmazon Goにとって最適な選択肢だと思われる」
(翻訳・松丸さとみ、編集・常盤亜由子)