アップルのティム・クックCEO。
Karl Mondon/Digital First Media/The Mercury News via Getty Images
アップルの業績が好調だ。
1月27日に発表された2022年第1四半期決算(2021年10~12月)は、売上高が前年同期比11%増の1239億4500万ドル(約14兆2800億円)、純利益は20%増の346億3000万ドル(約3兆9900億円)だった。四半期ベースでの売上高、純利益は過去最高を更新した。
例年、アップルは9月にiPhoneの新製品を発売しており、10~12月期の売上高は他の四半期に比べて上がる傾向にある。2021年9月に発売されたiPhone 13シリーズがよく売れているのだろう。
調査会社カウンターポイント・リサーチによれば、中国市場で6年ぶりにiPhoneのシェアがトップになったという。別の調査では韓国・サムスン電子「Galaxy」を抜き、世界市場でもiPhoneが販売シェアでトップになったという報道もあるほどだ。
世界的に5Gが加速する中、iPhone 13シリーズなどが飛ぶように売れていると見られる。
失速する日本市場の「特殊要因」
しかし、アップルの地域別売り上げを見ると、なぜか日本市場だけが振るわない。
中国市場の売上高は21%増の257億ドル。アメリカは11%増の514億ドル、ヨーロッパは9%増の297億ドルなのに対して、日本市場は前年の82億8500万ドルから14%減の71億ドルとなっているのだ。
アップルの2022年第1四半期決算の地域別の売上高。全地域の売上高が前年同期比で成長するなかで、日本地域のみが「前年同期比減」になっている。
アップルの最新決算資料をもとに、編集部が加工
ではなぜ、2021年、アップルは「日本市場だけ失速」したのだろうか。
実は2020年、日本では「GIGAスクール構想」として、小中学校にタブレットやPCなどの導入が一気に進んだ。当初、数年かけて普及させる計画であったが、コロナ禍により、登校自粛となるなか、一気に端末の導入が進んだという追い風があった。
2021年7月末の段階で、全国にある小学校の96.2%、中学校では96.5%で、全学年または一部の学年で、(iPad以外も含めた)タブレットやPCなどの端末の導入が進んでいる。
整備された台数は945万台。そのうち、iOSの普及率は29.1%となっている(文科省の資料ではiOSと記載されているが、iPad OSのことと思われる。ちなみにChromeOSが40.0%、Windowsが30.9%、その他が0.1%)。
つまり、約275万台のiPadがGIGAスクール構想で販売されたことになるのだ。
補助金の上限は1台あたり4万5000円が設定されたので、あくまで単純計算ではあるが、アップルはGIGAスクール構想だけで1200億円以上を売り上げたと推測される(※)。
※なお、過去2年の第1四半期におけるアップル決算によると、日本市場は2020Q1 約62億ドル→2021Q1 約82億ドルへと30%急増している
この状況は国内のPCメーカーなども同様で、2020年はテレワーク需要が爆発した。さらにGIGAスクール構想で、各社はこぞって補助金の上限である4万5000円に収まるデバイスを売りまくったが、GIGAスクール構想でのデバイス導入は2020年度末で区切りがついたため、2021年度は一気に需要が冷え込んでしまったのだ。
アップルが2022年Q1に日本だけ売り上げを落としてしまったのは、むしろ1年前の2021年Q1の売り上げが良すぎたというのが原因ではないか。
iPhone 13 mini「投げ売り」はなぜ?
大手量販店の店頭で見る機会が増えた格安の実質価格のiPhone。iPhone SEなどのエントリーモデルのみならず、2021年9月に発売したばかりの「iPhone 13 mini」などもその対象になっている。
撮影:Business Insider Japan
ただ、アップルも企業であり、当然、日本だけの売り上げが下がるというのは許されるものではないだろう。
GIGAスクール特需の穴埋めなのか、2021年頃から、街中のキャリアショップや家電量販店では特定のiPhoneを格安で「投げ売り」する姿を頻繁に見かけるようになった。当初はiPhone SE(第2世代)が中心であったが、最近はiPhone 12 mini、さらには2021年に発売したばかりのiPhone 13 miniも散見される。
多くの場合、端末購入プログラムを適用し、2年後に本体を返却することが条件だが、それでも実質「1円」や「23円」などで手に入れることができる(購入というよりレンタルに近いが、十分安い)。
iPhoneの投げ売りについて、KDDIの髙橋誠社長は、
「基本的に事業法の範囲内で対応しており、端末価格は代理店が設定している。お客様は端末をお買い求めになるときに本体価格をとても重視していると感じている」
とコメント。キャリアではなく、あくまで販売店側が主導して、前出の「1円販売」を展開しているという立場だ。
あるキャリア幹部は「他社がやっているので、ウチも対抗せざるを得ない。5Gを普及させる意味でも、iPhone SEよりも5G対応のiPhoneを売るようにしている」と語る。
ここ数年、前菅政権の値下げ圧力により、サブブランドやオンライン専用プランを投入してきたキャリアにとって、データ容量が少ないプランにユーザーが大挙して移動されては通信料収入の減少につながりかねない。
KDDIの髙橋社長が「5Gスマートフォンのユーザーは4Gスマートフォンのユーザーよりも2.5倍、データを多く消費する」と語るように、5Gスマートフォンを普及させ、小容量のプランから使い放題プランへの移行を推進させるのが、いまのキャリアの経営課題と言えるのだ。
髙橋社長は、
「コスト重視のお客さまを中心に、auユーザーの約1割がpovoやUQモバイルの方に移行するかなと思っていたが、『au応援割』やiPhoneの販売などが奏功して1割に満たない感じとなり、多くの方にauにとどまった」
とも語っている。
au応援割とは使い放題のプランから6カ月間、毎月1100円を割り引くというものだ。
5G対応のiPhoneを売れば、使い放題プランに契約してくれる傾向が強いというわけで、キャリアとしても、iPhoneの販売に注力したくなる……という力学が、こうした格安iPhoneが生まれる背景にある。
日本市場で売り上げを回復させたいアップルと、使い放題プランへのシフトで通信料収入を復活させたい各キャリア。
iPhoneの「投げ売り」はアップルと各キャリアの思惑が一致した結果なのかも知れない。
(文・石川温)