2022年に入って株価の急落やビットコイン価格の低迷など厳しい相場が続いている。先行きの見えない不透明な状況でも利益を確保するにはどうしたらいいのか。
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ここ最近の株や暗号資産の惨憺(さんたん)たる状況に何かしらの意味を見出そうと苦心している投資家たちにとって、ダンカン・マッキネスは頼りになる存在だ。
マッキネスは創業28年、運用残高320億ドル(約3兆6800億円)の英資産運用会社ラッファー・インベストメント・マネジメントのディレクター。
同社はクライアントのために確実なリターンをあげ、市場の大幅下落時も活路を見出すその高い手腕で知られる。
英金融ニュースサイト「ディスイズマネー」の調べによれば、ラッファーは創業から現在に至るまで年9%の平均リターン(購入時手数料控除後)を記録。過去3度にわたる深刻な金融危機の際にも利益を出し、例えば、2008年の世界金融危機で株価が30%急落したときでさえ、23%のリターンを確保している。
ラッファーは最近も世間に大きな話題を提供している。
マッキネスもこの件に深く関与しているが、同社は2020年11月に投資ポートフォリオの2.5%をビットコインへのエクスポージャー(=資産のある割合をリスクにさらすこと)に変更。伝統的な投資運用会社のほとんどがビットコインに手を出すことはもちろん、言及することすらはばかられた時期に、ラッファーはポジションを保有した。
そしてその5カ月後、同社は保有分をすべて売却して11億ドル(約1260億円)の利益を得た。2021年4月と言えば、ビットコインが6万ドルに近い水準で推移していた時期だ。
ビットコインはその翌月に4万ドルを割り込み、再び高騰して11月に史上最高値となる6万9000ドルまで上昇。現在(1月31日時点)はまたも4万ドルを割り込んで3万7000ドル前後で取引されるという乱高下のさなかにある。
マッキネスは1月26日開催のウェビナーで次のように語っている。
「当社がエクスポージャーを取ったのは、ビットコインをデジタルゴールド(=価値保存の手段として使われるゴールドを代替できるデジタル資産)、あるいはポートフォリオの多様性を拡大する手段と考えたからで、実際、2020年11月時点のビットコインはそのような挙動を示していました。
ところが、2021年3〜4月に売却した時点では、NASDAQ100種株価指数のレバレッジ型ETFのような挙動に近くなっていました。それが全保有分の売却を決めた理由のひとつです」
ビットコインの将来見通し
マッキネスは1月27日、暗号資産専門の投資顧問会社バイトツリー・アセット・マネジメント主催のウェビナーに参加し、ビットコインの足もとの状況をどう見ているか、また、米連邦準備制度理事会(FRB)がタカ派転換する一方でインフレが相変わらず続くなか、市場環境全体をどう分析しているか、その考えを語った。
2021年7月時点で、マッキネスはInsiderの取材にこう語っていた。
「ビットコインは予測の判断材料をあざ笑うかのような動きをする資産クラスです。ここ数カ月は厳しい状況が続くでしょうが、その嵐を乗り越えられれば、また面白い状況がやって来るかもしれません」
マッキネスの正しさは、その後まもなく証明された。先述のように、ビットコインは11月に記録した史上最高値から5割近い大幅下落を見せたからだ。
それでも、投資家たちはさまざまな形でそうしたボラティリティ(価格変動)の恩恵を受けている、とマッキネスはウェビナーで指摘する。
「ビットコインはゴールドのような価格変動性の低い資産クラスへの道を歩んでいます。それが実現すれば、ビットコインは劇的に値上がりするでしょうし、そうなれば足もとのボラティリティに耐え抜いた投資家は報われます」
マッキネスはビットコインには今後も「5つの大きなリスク」があるとみている。それは、ESGをめぐる懸念、中国、流動性、フロス(=投資過熱)、テザーなどステーブルコイン(=法定通貨など実態ある資産にペグされた暗号資産)だ。
中国やESGをめぐる懸念は解消されつつあるものの、流動性の問題や暗号資産市場の過熱は厳然として存在し、それゆえマッキネスはビットコインから距離をおいている。
また、ベンチャーキャピタル各社から暗号資産分野に大きな資金が流れ込み、それを追い風に素晴らしい企業がいくつも登場する可能性はあるが、それはそれで大きな問題の種をつくり出しているとマッキネスは指摘する。
「シスコ、マイクロソフト、アマゾンらドットコムバブルの勝者たちに資金を投じた投資家たちが、2000年から03年にかけて60%、70%、80%、90%の資金を失う結果になりました。誰もそれを止めることはできませんでした。(同じことがくり返されるのではないかと)私は心配でなりません」
ポジションの取り方
これからビットコインへのエクスポージャーを取りたいと考えている投資家がいるなら、ボラティリティの一部をゴールドへの投資で相殺するやり方もある。
「当社(ラッファー)もそうやってビットコインのアロケーション(資産配分)を決めました。ビットコインの組み入れを決定した時点で、ゴールドおよび金価格連動ETFなどへのエクスポージャーはポートフォリオの約11%でしたが、そこから2%を取り崩してビットコインの購入に充てたのです。これは有効な方法だと思います」
また、経済の不確実性によって圧倒的に低い評価に見直される可能性のある先端テクノロジー関連は、たとえ最も成熟した部類の銘柄であっても、マッキネスは手を出さないようにしているという。
「そうした選択肢があるとすれば、私なら間違いなくマイクロソフトではなくビットコインを買うでしょうね」
巨大テック企業があまりにも大きくなりすぎて、市場に均衡を欠く状態が生まれている、マッキネスはそう強調する。
「イーロン・マスクの純資産が石油メジャー・エクソンモービルの時価総額より巨額にのぼるというスタッツ(データ指標)は、私のお気に入り。
インフレ時に恩恵を被るべきエネルギー企業がシュリンクし、テスラのようなテクノロジー企業がはるかに巨大な成長を遂げた、そのカラクリは注目に値します。
あなたの投資ポートフォリオが運用の目安となるベンチマークからかけ離れればかけ離れるほど、これからの時代は良い結果を得られるのではないでしょうか」
マッキネス自身は、土地建物や農地などの不動産から、コモディティ(商品)や鉱石まで、インフレヘッジとなる資産に投資し、次の10年に向けたポジショニングを進めている。
上記のようなセクターの銘柄の多くは依然として株式市場のなかで最も割安な価格で取引されており、それはインフレヘッジを真剣に考えている投資家の需要が現時点できわめて薄いことを示している、というのがマッキネスの見方だ。
(翻訳・編集:川村力)