ソフトバンクグループ創業者の孫正義会長兼社長。後継候補とみられた副社長が電撃退社した。
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ソフトバンクグループ副社長兼最高執行責任者(COO)マルセロ・クラウレの退社を契機に、同社からの幹部人材の流出が続く可能性がある。
最高経営責任者(CEO)をめぐるスキャンダルから新規株式公開(IPO)を断念した米シェアオフィス大手ウィーワーク(WeWork)の経営再建を担当し、中南米投資ファンドの責任者も兼務するクラウレは、それらの対価として最大10億ドル(約1150億円)の報酬を要求し、ソフトバンク創業者の孫正義社長と対立していたと、ブルームバーグ(1月28日付)が報じた。
ソフトバンクの動向に詳しい複数の関係者は「避けられたかもしれない対立」と指摘する。
2020年、孫社長はヘッジファンド的な投資運用子会社「SBノーススター」を設立。自身も3分の1(33%)を出資したが、それはあくまで孫社長個人が利益を得るための投資だった。
孫社長は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)」にも自ら出資しており、そうした個人的利益のための動きが、クラウレら同僚との緊張につながっていった模様だ。
豪金融調査サービスMSTファイナンシャルのシニアアナリスト、デイビッド・ギブソンは「マサはその喜びを仲間たちと分かち合いたいとは考えていないのです」と表現し、孫社長がソフトバンクグループの主要投資先に個人的な出資を重ねたことで、彼を支える周囲に疎外感を与える形になっていたことを指摘する。
自身が起業した米携帯電話販売会社ブライトスターをソフトバンクに売却(2014年)してグループ入りしたクラウレは、自ら責任者を務める「ラテンアメリカ・ファンド」「ファンド2」のスピンオフ(分離独立)を通じた報酬増を希望していたが、前出のブルームバーグ記事にもあるように、ついに実現しなかった。
前出のギブソンはこう語る。
「マサはSVF2とSBノーススターへの出資を自ら希望して実現したので、クラウレも同じようにできると考えたのでしょう。ところが、マサはそう考えてはいなかった。となれば、他の経営幹部もこれから袂(たもと)を分かつ道を考える可能性があります」
クラウレ以前にも、重要な経営幹部が相次いでソフトバンクを去っていることは周知の通りだ。
米金融大手ゴールドマン・サックス出身で副社長兼最高戦略責任者(CSO)の佐護勝紀、ドイツ銀行出身でSVFマネージングパートナーのコリン・ファン、同ジェフ・ハウゼンボールドの3人が、いずれも2021年に退社している。
ただし、ソフトバンクの他の経営幹部が進退を検討するにしても、株価の急激な下落など「現在の市場環境」を踏まえると、この不安定な変動期にあえて退社の道を選ぶかいうと、そこは疑問だとギブソンは言う。
別のアナリストは、クラウレの退社を「ソフトバンクのガバナンス(企業統治)について困難な問題が解決されずにいまも続いていることを示している」と分析する。
2021年6月の定時株主総会では、孫社長はソフトバンクグループのガバナンスのあり方を問う質問が相次ぎ、それが有効に機能していることを示す必要から、同社の取締役会は「自分のワンマンショー」ではないと孫社長は語っている。
同総会では、元社外取締役で(ユニクロを運営する)ファーストリテイリングの柳井正社長から「耳の痛い諫言(かんげん)を何度もいただいた」といった実例も紹介している。
ソフトバンクの社内事情に詳しい関係者によれば、複数の投資家が孫社長に対し、(孫社長による)個人的な出資がどんな経緯で認められるようになったのか質問したところ、「複数の社外取締役がOKと言った」との回答だったという。
同関係者は「(社外取締役のOKは)個人的出資が正しいこととイコールではない」と語る。
Insiderはソフトバンクグループにコメントを求めたが、本稿執筆時点(1月29日)で返答は寄せられていない。
今回のクラウレ退社は、同社にとって困難な時期のさなかに起きた衝撃と言える。
2月8日に控える2022年3月期第3四半期の決算発表を前に、テクノロジー関連株は大幅下落に直面し、ソフトバンクグループの時価総額は2021年3月のピークに比べるとおよそ半分(約8.6兆円)まで目減りしている(ここ数年の時価総額の底は2020年3月につけた約6.8兆円)。
孫社長は1月28日にコメントを発表し、「在任中マルセロは、ソフトバンクグループに多大な貢献をしてくれました」とクラウレの尽力に感謝を述べている。
また同社は併せて、ラテンアメリカ・ファンドを傘下に置くソフトバンクグループ・インターナショナル(SBGI)のCEOに、米モバイル通信大手スプリントを率いたミシェル・コンブが就任し、投資ポートフォリオ管理を含めて統括していくことも発表した。
クラウレも上記のソフトバンク発表を通じてコメントを出し、「世界の素晴らしい経営陣や起業家たちとともにいくつもの大きなチャレンジに取り組む機会に恵まれ」「在任中にメンター、友人として接してくれた孫正義氏には特に感謝しています」と述べている。
[原文:SoftBank just lost billionaire lieutenant Marcelo Claure. More exec walkouts could follow]
(翻訳・編集:川村力)