iPhone 13 Pro(左)とiPhone 13。
撮影:西田宗千佳
アップルはこの春、iPhone/iPad/MacのOSをアップデートする。このほど、開発者向けベータ版の提供を開始した。一般向けの公開時期は未定だが、従来のスケジュールから考えると、数週間程度で公開されると予想される。
(2022年3月15日)
アップルは日本時間2022年3月15日に「iOS 15.4」を公開した。アップデートの内容や実機で試してみた様子はこちら。
新iOSとなる「iOS 15.4」の目玉機能は、「Apple Watch併用でない、マスクをつけたままでの顔認証」だ。また、「iPadOS 15.4」と「macOS Monterey 12.3」の組み合わせでは、MacとiPadの連携をさらに便利にする「ユニバーサルコントロール」が搭載される。
この2つの機能について、実機の体験レポートを交えつつ、詳細を紹介していこう。
※現時点で公開されているのは開発者向けのベータ版であり、一般の利用は推奨されていない。本記事は報道向けに利用許可を得て作成されている。
待望の「マスクのまま顔認証」が実現へ
Shutterstock
多くの人にとって影響があるのは、やはりiOSのアップデートだ。
iPhoneは2017年発売の「iPhone X」以降、「Face ID」を搭載し、個人の認証には指紋でなく顔認証を使ってきた。これがコロナ禍になり一転、iPhoneへの大きな不満点となっていた。マスクをつけた状態では、正しく認証ができなかったからだ。
2021年4月に公開された「iOS 14.5」では、Apple Watchと連動し、この欠点を補う機能が搭載された。Apple Watchを身につけている場合には「本人が持っている」と見なし、マスクをつけたままでもロックが外れるようになった。
ただ、この機能が搭載されても、根本的に問題が解決したわけではない。
そういう意味で、iOS15.4で搭載される新しいFace ID機能は「マスクをつけたまま顔認識をする」という、多くの人の望んだ機能そのものだ。
なお補足だが、この機能は「iPhoneのFace ID」にのみ搭載されるもの。iPadのFace IDは、これまで同様マスクを認識しない。
マスクのまま認証するために顔を「再登録」
ポイントは「再度顔の認証を登録する」ところにある。
マスクをつけたままの顔認識では、マスクがない場合に比べ、認識に使える部分が減る。実質的に目の周りから額までしかない。
そのためiOS15.4でマスクをつけたままFace IDを使うには、顔の登録をやり直さなければならない。なお、この時にはマスクをつけている必要はない。
iOS15.4にアップデートしたら、マスクをつけたままロックを外すためにFace IDの登録をやり直すことになる。ただし、登録時にマスクをつける必要はない。
撮影:西田宗千佳
再登録が終わったら、もう準備は完了。iPhoneのロックがマスクをしたまま外れるようになっているはずだ。
実際に使ってみると、単純にiPhoneのロックを外すだけなら、Apple Watchと併用する場合と使い勝手は大きく変わらない。だが、Apple Watchとの接続を確認しないためか、新しい「マスクでのロック解除」の方が少し安定性は高いように思う。
また、Apple Watchの併用は「ロック解除」のみに対応しているが、新しい機能は「Face ID認証」そのものなので、決済時のFace ID認証もマスクをつけたままでOKだ。この点を考えると、iOS15.4での新機能の方が便利ではないだろうか。
ただ、留意すべき点が2つある。
1. 「画面を見つめなければロックが外れない」
Face IDの認識は素早いため、マスクをしていない状態では「画面の方をサッと見る」くらいで認識されるのだが、マスクありの場合には「画面を注視」するよう注釈がついている。小さな領域で認識を行うためのようだ。
このため、マスクなしでのFace IDは、従来より認識速度が遅くなる。だから、慣れるまでは「じっくり画面を見る」くらいのつもりでいた方が成功率が高い。
2. 「メガネをしている人は、メガネをつけた顔を登録」する必要がある
マスク着用時のFace IDは目の周りだけで認識するため、メガネをつけた顔でも登録した方が精度が上がる。メガネの種類によって認識率が違うようなので、デザインが大きく違うメガネを複数使っている場合には、それぞれ登録した方が良い。
ただし現状、サングラスのように色の濃いレンズを使ったメガネには対応していない。
マスク着用時用のために「メガネ」をかけた容姿を登録することで精度を上げる仕組みになった。
iPadとMacの関係をさらに縮める「ユニバーサルコントロール」
今回のアップデートのもう一つの目玉は、iPadとMacを一緒に使っている人向けの機能だ。
iPadとMacを連携する機能はすでに多数ある。Macの「サブディスプレイ」にする「Sidecar」や、片方のデバイスでコピーした内容をもう片方でも共有する「Handoff」などがあるが、「iPadOS 15.4」と「macOS Monterey 12.3」の組み合わせで使えるようになるのは「ユニバーサルコントロール」という新しい機能だ。
これは2021年6月、アップルの年次開発者会議「WWDC 2021」で、「2021年中に、iPadOS15/macOS Montereyの新機能として搭載されるもの」として発表されたが、その後、公開が延期になっていた機能でもある。
WWDCでのプレゼンビデオより。MacやiPadを並べ、1組のマウス・キーボードですべてを操作可能にするのが「ユニバーサルコントロール」だ。
出典:アップル
MacとiPadが並んでいても、それぞれの操作は、それぞれの端末で行うのが基本だ。Sidecarを使うとiPadがMacのサブディスプレイになるので、「1台のMacから両方を使う」ことはできるのだが、それはあくまでMacを使っているのであって、MacとiPadをそれぞれ使っているわけではなかった。
ユニバーサルコントロールは、「MacとiPadを同じキーボード・タッチパッドで操作するもの」といっていい。
例えば、Macの右隣にiPadを置いている、と考えてみよう。
普通なら、Macでマウスカーソルを画面の右端にぶつけても、なにも起きない。だが、ユニバーサルコントロールが有効になっていると、マウスカーソルが画面の境を超え、iPadの上に現れる。
マウスカーソルがMac側にあればMacが操作対象となり、キーの入力もMac側に出てくる。逆にマウスカーソルがiPad側にあれば、操作対象はiPad側になり、キーの入力もiPad側に反映されるようになる。
マウスカーソルを画面端にぶつけるとiPad側に飛び出るような表示に。一度つながってしまえば、お互いの画面を自由に移動できる。
撮影:西田宗千佳
最初に両者がつながる時には、上の動画のように「iPad側にカーソルが飛び出してくる」ようなアニメーションが現れるが、一度設定が終われば、あとは特に何事もないように、2つの機器が連携する。
ユニバーサルコントロールでつながっていると、「ディスプレイ」の項目にある「キーボードとマウスをリンク」がオンになる。
筆者キャプチャー
ユニバーサルコントロールはHandoffの機能と連携するため、Mac側でコピーしてiPadに貼り付けたり、逆にiPadからコピーしてMacに貼り付けたりもできる。それどころか、Macからファイルのアイコンを、iPadのアプリにドラッグ&ドロップすることだってできるのだ。
言葉で書くとちょっと複雑だが、使ってみると実に自然だ。2つの別のOSで動く機器が、まるで境目がなくなったようにつながって動くから「ユニバーサル(普遍的)コントロール」と名付けられているわけだ。
なお、キーボードとタッチパッドの共用はMacからだけでなく、iPadのキーボードとタッチパッドでMacを操作することもできる。
iPad側の「設定」にも、「カーソルとキーボード」共有の設定が追加された。
筆者キャプチャー
似て非なる「Sidecar」と「ユニバーサルコントロール」
前述のように、この機能は「Sidecar」(iPadをMacの拡張画面として使う機能)に似ている。どちらも、機器同士が同じ無線LANのネットワーク内にいる場合に使える機能で、前提となる条件も似ている。
だが、SidecarはあくまでiPadを「Macのサブディスプレイ」にするもので、主体はMac。ユニバーサルコントロールでは、それぞれのアプリをそれぞれのUIで使うことになる。
どちらがいいかは使い方次第だ。
Macの画面を広くしたい人にはSidecarがいいが、「iPadのアプリを使いたいが、キーボードなどを使い分けるのが面倒」という場合には、ユニバーサルコントロールの方がいい。
Sidecarによる「画面のミラーリングまたは拡張」か、ユニバーサルコントロールによる「キーボードとマウスのリンク」のどちらを使うかは、macOSの「ディスプレイ」設定から切り替えられる。標準設定ではユニバーサルコントロールが優先のようだ。
Sidecarを使うのか、それともユニバーサルコントロールを使うのかは、「ディスプレイ」の設定から変えられる。
筆者キャプチャー
個人的には、iPadを「情報閲覧」に使っているなら、Sidecarよりユニバーサルコントロールの方がいいだろう。ウインドウの並び替えなどの作業がないので、使い方がよりシンプルだ。Macは文書作成などに集中すればいい。
また、Sidecarは「Mac1台にiPad1台」が基本だが、ユニバーサルコントロールは少し違う。あくまで「コントロール」をまとめるだけなので、「Mac2台とiPad」といった使い方も可能だ。正確に言えば、近くにあって同じiCloudアカウントで使っているMacとiPadすべてを連携する、という使い方ができる。
macOS側でのユニバーサルコントロールの設定。同じiCloudアカウントを使っているMacとiPadを、全て1つのキーボードとタッチパッドで操作可能になる。
筆者キャプチャー
SidecarはWi-Fiで接続する場合、通信状況によって接続が不安定になることもあるのだが、今回のテスト中、ユニバーサルコントロールはずっと安定して動作していた。その点も違いと言えるかもしれない。
MacとiPadを両方使っている人には確実にプラスとなる機能、といって良さそうだ。
(文・西田宗千佳)
西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。