国内初の「核融合」スタートアップとして知られる、京都フュージョニアリングが2月2日、シリーズBラウンドで13.3億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先となるのは、既存投資家であるCoral Capitalに加えて、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、ジャフコ グループ、大和企業投資、DBJキャピタル、JGC MIRAI Innovation Fundの5社。
さらに、三井住友銀行や三菱UFJ銀行など、複数の金融機関から7億円の無担保融資契約の締結も進めている。シリーズBラウンドと合わせて、総額20億円規模の資金を調達したことになる。
「核融合」とは、原子の中心部にある原子核同士が結合して、より重い原子核になる反応のこと。
この反応を人工的に発生させ、その際に生じる膨大な熱を発電などに活かす「核融合発電」は、二酸化炭素を排出しない発電手法として世界的に注目されている。
フランスで建設中の国際熱核融合実験炉「ITER」の現場。施設面積は約180ヘクタール。現在は、世界各地で製造された核融合炉のパーツを組み上げる作業を進めている。2021年10月29日に撮影。
画像:ITER Organization/Les Nouveaux Médias/SNC ENGAGE
京都フュージョニアリングは、京都大学で核融合炉に関する研究を続けてきた小西哲之教授らが2019年に創業したスタートアップだ。イギリスやアメリカの核融合スタートアップのように自社で核融合炉そのものの建設を狙うのではなく、核融合炉の実現のために必要な基幹装置の販売を手掛けることをビジネス戦略としている。
2021年秋にはイギリスのプロジェクトへの納品などが決まり、10月にはイギリス法人も設立している。
核融合発電の「ミニプラント」を作る
核融合炉では、重水素や三重水素といった原子核を衝突させるケースが多い。(画像イメージです)
Andrey Suslov/Shutterstock.com
京都フュージョニアリングの事業・マーケティング本部長を務める世古圭氏は、Business Inisider Japanの取材に対し、今回調達した資金の主な使途は次の3点だと話す。
- 研究開発投資の加速
- グローバルに活躍するトップレベルエンジニアやビジネスパーソンの採用
- 大型案件受注、事業拡大に伴う運転資金の確保
イギリス法人を設立したばかりの同社にとって、イギリスはもちろんビジネスの主戦場となる欧米でも活躍できるグローバル人材の獲得は急務。イギリスの大型プロジェクトへの納品が決まった装置を製造するためにも、一定の資金は欠かせない。
ただ、ここで注目したいのは「研究開発投資」としているその中身だ。
世古氏によると、京都フュージョニアリングでは2025年夏頃までに、核融合発電の「ミニプラント」の建設を目指しており、今回調達した資金もそこにかける割合が大きいという。
ただし「プラント」と言っても、今から核融合炉本体を作ろうとしているわけではない。
核融合炉を実現する上では、「核融合反応を起こすための工程」と「熱を取り出す工程」の2工程がそれぞれ重要になる。しかし現状、世界で注目されている核融合ベンチャーのほとんどが、前者の「核融合反応を起こすための工程」の研究開発を進めている。
一方、京都フュージョニアリングの小西教授は、もともと後者の「熱を取り出す工程」で必須となるブランケットと呼ばれる装置などの研究を続けてきた研究者だ。京都フュージョニアリングでは、今回の資金調達を経て、海外のベンチャーがこぞって建設しようとしている核融合炉が実現した「後」に必要となる、「熱を取り出して発電するまでの工程」を担うプラントシステム部を製造してしまおうというのだ。
京都フュージョニアリングの長尾昂代表(右)と、京都大学の教授を兼任する同社CTOの小西哲之教授(左)。
撮影:三ツ村崇志
「このミニプラントが世界で初めて核融合反応を模した形での熱取り出しから発電に至る全体システムになります。その技術レベル(Technology Readiness Level:TRL)を大学の研究ラボベース(TRL3〜4)から商用利用ベース(TRL6〜7)まで一気に引き上げることを目指しています」(世古氏)
今のところ、フランスで実験炉の建設が進められている国際プロジェクト「ITER計画」や、世界の核融合ベンチャーが建設を計画している実証炉の稼働時期は早くても2025年頃だとされている。
京都フュージョニアリングの小西教授は、以前、Business Insider Japanの取材に対して「世界のどこが核融合に成功したとしても、そこにうちのブランケットが使われている状態になる」と自信を語っていた。
核融合炉の稼働が確認できるタイミングに、熱を取り出して発電するシステムの技術レベルを「販売できるレベル」に到達させておくことができれば、京都フュージョニアリングが実際に世界中の核融合ベンチャーの受け皿になりうるわけだ。
世古氏は、ミニプラントの製造について、
「このミニプラントが世界的にもショーケースとなり、熱取り出し技術の技術的確らしさを実証することになります。核融合反応による熱発生装置と合わせて核融合の商業化に向けたクリティカルパスを乗り越えることになり、2025年頃より世界各地で始まる原型炉の構造設計を決める上で重要なマイルストーンとなるでしょう。
既にイギリスやアメリカから複数の引き合いがきているのですが、実証ができれば全体のシステムおよび個別のコンポーネントに対する引き合いも増加し、急激な事業拡大も見込めます」(世古氏)
と、ビジネス戦略上として非常に重要な位置づけであると語った。
核融合発電、実現に向けた課題は?
もちろん課題もある。
いかに京都フュージョニアリングがブランケットなどに関する技術を保有しているとはいえ、現状ではあくまでも「研究室レベル」のものだ。それを実証レベル、商業レベルにまで持っていくには、いくつものハードルを超えなければならない。世界では2025年頃に実証炉の稼働に向けて動き出す可能性が高いことを考えると、この技術開発は京都フュージョニアリングとしても大きなチャンスを掴むために絶対に成功させなければならないチャレンジといえる。
また、「2025年頃に本当に核融合炉が稼働するのか?」という懸念も忘れてはならない。
欧米の核融合ベンチャーに莫大な投資が集まっているとはいえ、まだどのベンチャーも実際に核融合炉の建設・実証を終えていないのが現状だ。実証炉の実現が仮にずれ込んでしまった場合には、少なからず京都フュージョニアリングへも影響が及ぶだろう。
いずれにせよ、これから2〜3年の間に核融合産業が一つ大きな節目を迎えることになることは間違いないといえる。
なお、京都フュージョニアリングは、ミニプラントの研究開発に当てる資金拡充と、ビジネス拡大のため、2023年半ばを目処にグローバルも含めた100億円規模の新たな資金調達の実施も検討しているという。
(文・三ツ村崇志)