Amazon傘下の「Audible」のビシネス変更は、“ほぼ完全”な聴き放題化と言えるインパクトのある発表だった。
撮影:小林優多郎
「オーディオコンテンツ全体は盛り上がりを見せてはいるものの、まだまだ認知は低い」
Amazon傘下のオーディオブック配信サービス「Audible(オーディブル)」のカントリーマネージャー逢坂志麻氏は、同サービスの新料金プランを発表した1月26日、取材陣にそう漏らした。
音声コンテンツ業界を見ると、コロナ禍の「おうち需要」の影響か、「Clubhouse」などのSNSの登場、SpotifyやアップルなどのPodcast強化など、盛り上がりが見てとれる。
Audibleは具体的な会員数は発表していないが、確実に会員数を増やしている。
撮影:小林優多郎
実際、オーディブルも2018年8月から2021年12月にかけて、会員数は約4.5倍に増加したという。
では、なぜ冒頭のような慎重な意見が出てくるのか。前述の逢坂志麻氏と、オーディブルシニアコンテンツリーダーを務める宮川もとみ氏へのインタビューをもとに解説しよう。
コイン制から聴き放題へ、お値段はそのまま
Audibleの新旧プラン比較。
撮影:小林優多郎
1月26日、オーディブルの発表で最もインパクトがあった内容は、ビジネスモデルの転換だ。
オーディブルは、2018年8月から月額1500円でオーディオブック(書籍をもとに音声化したコンテンツ)を毎月1冊、ポッドキャスト(オーディオブック以外の音声コンテンツ)は聴き放題というプランを提供していた。別のオーディオブックを読みたい場合は翌月まで待つか、別料金で都度課金する必要があった。
2022年1月27日からは、料金は月額1500円のまま、12万冊以上のオーディオブックとポッドキャストが聴き放題。つまり、より他の音楽配信サービスに似た“サブスク”に近い形式となった。
「ほとんど」と言っていい日本語のオーディオブックが聴き放題の対象となる。
撮影:小林優多郎
ちなみに、この12万冊以上という数字には、現在オーディブルが配信している日本語のコンテンツの95%以上が含まれる。
残り5%弱の日本語コンテンツは、ほとんどが翻訳本で「権利関係が複雑なもの」(逢坂氏)。オーディブルとしては100%に近い形に交渉していく方針だという。
つまり、今回のプラン改定では料金は変わらずに聴けるコンテンツが増えるため、ヘビーユーザーにとってはより一層価値が高まる施策に見える。
背景にはコロナ禍でのオーディブルユーザーの変化
Audibleのカントリーマネージャーである逢坂志麻氏。
撮影:小林優多郎
しかし、今回のプラン改定によるターゲットは従来のヘビーユーザーではない。逢坂氏は今回のビジネスモデルの転換の理由を「リスニング習慣の変化」と「今まで(音声コンテンツに)触れていなかった層に届ける」ことの2点を挙げている。
リスニング習慣の変化とは、主にコロナ禍によるものが挙げられる。
筆者は2018年8月のコイン制導入時と、2020年11月に同社に取材をしているが、それまでのオーディブルは、“通勤中のビジネスパーソンが聴くもの”だった。すなわち、比較的に男性ユーザーが多く、人気コンテンツはビジネス書や自己啓発系のオーディオブックだ。
確かに、筆者自身もオーディオブックといえばやや意識の高い習慣やコンテンツという印象はある。実際オーディブルも「今までは、オーディオブックは自己啓発系のものなどビジネスマン用、という認識をされている方が多かった」(宮川氏)と話す。
オーディブルの再生環境はコロナ禍で大きく変化した。
撮影:小林優多郎
しかし、パンデミックが起きるとこの使われ方に変化が起きた。
ユーザーがよく聴くタイミングは、通勤時間から自宅にいる時間になり、シチュエーションも家事をしながら、リフレッシュしたい時、寝る前など多様化した。
依然として、自己啓発系のコンテンツも人気はあるものの、逢坂氏は「直近の2年間では女性、特にワーキングマザーや主婦の方の利用も増えている」と語る。
同社の狙いとしては、“聴き放題化”することで、もともと勉強意欲の高いビジネスパーソンだけではなく、コロナを機に幅広いユーザーの“ながら需要”にアプローチして、より手軽なサービスだという印象を与えたいわけだ。
村上春樹などコンテンツを拡充、Amazon Musicとの連携も
発表会に登壇したゲスト。写真左から俳優の杏さん、声優の森川智之さん、俳優の今井翼さん、女優でモデルの南沙良さん。
撮影:小林優多郎
料金だけではなく、コンテンツ面でもアップデートをはかる。より幅広い層を意識したオーディブル限定のコンテンツを拡充していく。
同日には限定配信コンテンツとして、米DCコミックス刊の「The Sandman」の日本語音声版や、俳優の杏さんをパーソナリティーに採用したポッドキャスト「Journey to the origin with Anne」、騎士団長殺し」を含む10作品の村上春樹作品の初の日本語オーディオブック化(今後順次追加)が発表された。
発表会に寄せられた小説家・村上春樹さんのメッセージ。
撮影:小林優多郎
加えて、発表会やリリースで触れられなかったが、1月27日のアップデートで、Amazonの兄弟サービス「Amazon Music」内で配信されているポッドキャストがオーディブルのアプリ内で検索および聴けるようになった。
この仕様変更の狙いを逢坂氏は「(AudibleとAmazon Musicの)アプリを開き直すことなく、便利に使っていただける」と語る。
ただ、Amazon Music内のポッドキャストは、ラジオ局のアーカイブやプロおよびアマチュアのポッドキャスターが配信するコンテンツが含まれ、オーディブルがこれまで特化してきた「プレミアムかつ独占配信のコンテンツ」とはやや毛色が異なる。
コンテンツ拡充としては手っ取り早くはあるが、同社のコンテンツポートフォリオとしてはやや混沌とする結果になる。それが既存および新規ユーザーにどう響くか、オーディブルおよび今後の音声コンテンツ市場の成長に注目だ。
(文、撮影・小林優多郎)