週4日勤務制を導入したボルト(Bolt)では、従業員の84%が、ワークライフバランスが改善し、生産性が向上したと回答している。
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- フィンテック系スタートアップのボルト(Bolt)は、3カ月間の試験導入の成功を受け、週4日勤務制を恒久化した。
- チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)のジェニファー・クリスティが、変更に踏み切った経緯を話してくれた。
- ボルトへの求人応募は、12月と比較して30%増加したと広報担当者は述べている。
2021年8月のある晴れた朝、ライアン・ブレスロウ(Ryan Breslow)は、マイアミにある自宅の裏庭で瞑想中にひらめいた。自身が創設したフィンテック系スタートアップのボルト(Bolt)で、週4日勤務制を恒久的に導入するという考えだ。
ブレスロウは、その数カ月前から、週4日勤務制という新たな職場のトレンドに関する記事を読み、ひそかに検討を進めていた。そしてその夏の日、うまくいきそうだという自身の直感に従うことを決意した(なお、ブレスロウは2022年1月31日にCEOを退任し、現在はエグゼクティブ・チェアマンになっている)。
その1カ月後、ボルトは、3カ月間の試験プログラムを開始し、従業員と幹部に向けて、勤務日の削減が自分たちに合うかどうか確かめる機会を与えた(ボルトは、小売店におけるチェックアウト処理の迅速化と簡略化に取り組んでいるフィンテック系企業だ)。
従業員からのフィードバックによると、結果は大成功だった。ブレスロウは2022年1月、600人の従業員を対象に、週4日勤務制を恒久的な方針として導入した。このEコマース関連企業への求人応募は、前月と比べて30%も急増したと、広報担当者は述べている。
ブレスロウは12月のツイートで、生産性の向上と従業員のウェルネス(健康増進)を根拠に、「もう元には戻れない」と書いている。なお、ブレスロウがCEOを退任した理由についてボルトにコメントを求めたが、まだ回答は得られていない。
ボルトが導入したのは、未来の働き方とも称される、最先端の勤務制度だ。コロナ禍と「大退職時代(Great Resignation)」の到来で、人々はワークライフバランスを見直すようになっている。勤務日の削減は数年前から支持を拡大してきたトレンドだが、最近は特に関心が高まっているようだ。
ボルトのチーフ・ピープル・オフィサー(CPO)を務めるジェニファー・クリスティ(Jennifer Christie)はInsiderに対して、「従業員たちはボルトで働くことを本当に誇らしく思っている」と語った。クリスティは、ボルトがどのように変更を実施したか、経営陣が直面した課題、そしてそのプロセスからチームが何を学んだかを明かしてくれた。
どのような手順で変えたのか
ボルトのチーフ・ピープル・オフィサーを務めるジェニファー・クリスティは、週4日勤務制を導入して以降、運動したり愛犬と遊んだりする時間が増えたという。
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ボルトの経営陣は、いわば、泳ぎ方を知らないままプールの底へと飛び込む方法をとった。
「やりながら学んでいこう、という感じだった」とクリスティは話す。
最初の重要な決断は、従業員に休みの日を選ばせるか、あるいは全体が休む日を決めるかだった。ブレスロウとチームは、後者を選択した。「皆が同じ日に休んだ方が、本当に全体を見て評価しやすいと考えた」とクリスティは話す。
そして3カ月間の試験プログラムが通知され、従業員たちは、自身のスケジュールの見直しを求められた。従業員は月曜日から木曜日にミーティングの予定を移し、各チームは不要と思われるミーティングをキャンセルしたり、メールやビデオなど、いつでも見られる「非同期的な形式」に変更したりした。さらには、自分の時間が、無駄なことや、目標達成につながらないことに費やされていると感じたら、上司に相談することを奨励された。
「勤務日の4日間は、全力でダッシュしよう、集中して仕事をしよう、重要でないことに時間を割かないようにしようと呼びかけた」とクリスティは言う。彼女はもともと、ツイッター(Twitter)の最高人事責任者だったが、2021年10月から週4日勤務制に関するボルト社内の議論に参加し、1月3日から正式にボルトのチームに加わった。
課題への取り組み
変更がすべてスムーズに運んだわけではない。15%の従業員、特に営業職の従業員が、「対外的な課題」に直面したと回答している。例えば、見込み客とのミーティングが金曜日に設定された、といったことだ。
こうした問題に対処するため、従業員は、ミーティング予定を月曜日から木曜日の間に変更するか、あるいは、そのミーティングに出席して翌週のスケジュールを調整することが奨励された。例えば、金曜に1時間の電話をかけなければならない従業員は、翌週の月曜に1時間休む、と上司に伝えるのだ。
もうひとつの課題は、国の祝日や企業の休業日がある週にはどうするかということだった。当初は祝日を、その週の休日としてカウントしていた。月曜日がレイバーデーの祝日だった場合はその日を休日とし、その週は火曜日から金曜日までを勤務日とした。しかし、一部の従業員から不満が出て、混乱が生じたため、経営陣はこの決定を撤回し、その結果、週3日勤務の週が出てくることになった。
従業員たちは週3日で仕事を終わらせることができて驚いていたと、クリスティは明かす。
「最も重要なことに集中するように強いられた時に人はさらに進歩できる、と気づいたのだろう」とクリスティは言う。
さらなる課題は、ストレスだ。ボルトのデータによると、チームの40%近くが、週5日勤務だった時と比較して、月曜日から木曜日のストレスが増したと回答している。同社は対策として、ミーティングや、従業員にとって不要な仕事を引き続き減らしていると、クリスティは述べている。
これまで挙げてきたような課題はあるが、メリットの方が上回る、とクリスティは言う。社内アンケートでは、94%の従業員と91%の管理職が、週4日勤務制を恒久的に導入するというブレスロウの決定を支持すると回答している。
他社にも導入するように勧める
働く側は、今回の変更に圧倒的に満足している。ボルトの従業員のうち84%が、ワークライフバランスが改善したと回答している。仕事の生産性が向上したとの回答も同率だった。
試験的な導入以降、ボルトのチームに対して、フォーチュン500企業のうち少なくとも「数社」が、勤務日削減のプロセスについて詳しく知りたいとコンタクトをとってきた。それはこの方針が、中小か大企業かを問わず導入される可能性を示していると、クリスティは話す。
クリスティは週4日勤務制への移行をリモートワークの導入になぞらえる。テレビ報道や金融などの業界では、リモートワークは不可能だと思われていたが、大多数が導入するようになった。
「コロナ禍以前は多くの企業が、『リモートワークはすばらしいが、それはハイテク企業だけのもので、うちの会社では絶対に無理だ』と言っていた」とクリスティは話す。
「それがどうだろう。パンデミックが始まると、誰もがそれを行う方法を見つけ出した」
週4日勤務にしたことで、求人への応募が増えたという。ブレスロウと経営陣は、「世代を超えて、家庭のある人も、ない人からも」ポジティブなフィードバックを得ているという。
「自宅にいて家族と過ごす時間が増えた、健康のためによいことをいろいろできるようになった、という声を聞いている」とクリスティは述べる。そして「彼らの友人や、リンクトイン(LinkedIn)でつながっている人たちから、ボルトは採用を行っているのかという問い合わせが来ているようだ」と彼女は付け加えた。
(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)