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ソニーの今期業績は大幅な増益での着地になりそうだ。
2月2日、ソニーグループ(以下ソニーG)は、2021年度第3四半期決算を発表した。業績は好調だ。
同四半期の売上高は3兆313億円で、前年同期比で3373億円(前年同期比13%増)。営業利益も、前年同期比32%増の4652億円となっている。
通期業績予想も非常に好調だ。売上高こそ9兆9000億円と変更していないが、営業利益は1600億円上方修正し、1兆2000億円を見込む。
しかし、全面的に好調であったのか、というとそうではない。
半導体不足の影響を受け、ゲーム&ネットワークサービス事業とエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)の売上高が減速を余儀なくされている。
事業部門別の業績から、現時点のソニーの好不調を分析してみたい。
2021年度第3四半期業績。前年同期を大幅に更新し、売上高は3兆円を超えた。
2021年度第3四半期決算説明資料より
PS5生産台数を下方修正も「来期の旺盛な需要」予測は崩さず
セグメント別の売上高。ゲームとエレクトロニクスにマイナスが出たが、映画事業の増収増益でカバーした格好。
2021年度第3四半期決算説明資料より
セグメント別に見ると、売上高に大きな影響が出たのはゲーム分野だった。
売上高は8133億円と、あいかわらず全セグメントの中で最大規模の事業だが、前年同期比で700億円の減少になっている。しかもこれは為替要因による445億円のプラスを織り込んでの値なので、減少幅は決して小さなものではない。
ゲーム&ネットワークサービス分野。半導体不足によるPS5の供給問題や、自社ゲームのヒットがこの期に少なかったことから、売上高は700億円のマイナスに。利益は販管費減少などで維持。
2021年度第3四半期決算説明資料より
2020年度はPlayStation 5(PS5)の立ち上げ時期であり、ハード・ソフトともに好調な売り上げだった。一方、今期はソフトウェアの販売が全体的に減少したことによる影響を受けた。大きなソニー製タイトルの発売も第4四半期(2月および3月)に集中している。
また、それ以上に大きな影響を与えたのが「PS5生産に必要なデバイスが不足している」(ソニーG 代表執行役副社長兼CFOの十時裕樹氏)ことによる、目標生産数の未達だ。
本来、2021年度に1480万台以上の生産を予定していたが、半導体を中心とした部材の不足と、コロナ禍での物流混乱によるリードタイムの長期化により、2021年度の生産台数は目標から330万台減「1150万台にとどまる」(十時CFO)とする。
十時CFOは、
「客観的に見ると、半導体を中心としたグローバルな部材調達の問題、物流の混乱は来年度も継続する、と見るのが順当な見方。特に来年度の下期について、今の段階で見通すのは難しい」
と話す。
とすると、2022年度もPS5の品不足、カメラなどの欠品による影響は続く……ということになる。
もっとも、それぞれの事業について、十時CFOは強気な見方を崩していない。
「PS5については、来期も、歴代コンソール最大の販売台数を狙える旺盛な需要がある、という手応えは変わっていない」
「従来、コンソールで世代交代が起きる時は、ユーザーエンゲージメントも変動し、売り上げ・利益に大きな変動があった。だがPS4以降は小さくなっている。もちろん、(PS5不足のような)影響は早く復旧した方がいいのだけれど、悪影響はある程度限定的ではないか」
PS4の勢いはいまだ続いており、PS5生産についても「(生産数目標は高いが)低い目標にするとやすきに流れる傾向があるため、できる限り高い目標を定める」(十時CFO)とし、強気のビジネスを継続する構えだ。
ユーザーの視点で見れば、手に入らないことによる落胆も大きいだろうと思うのだが、こればかりはどうしようもないのかもしれない。
エレクトロニクスも「半導体不足」。製品ミックス改善でダメージを減らす
ゲーム同様に、EP&S分野も半導体不足の直撃を受けている。前年同期比で、売上高は121億円減。営業利益も233億円のマイナスと、ゲーム以上にダメージが大きい。
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野。販売台数の減少で減収減益。理由は「半導体不足」だ。
2021年度第3四半期決算説明資料より
こちらも結局は、半導体不足によってカメラ・オーディオ・テレビなどの販売量減少が響いた格好だ。「以前から高付加価値型を優先にする形へとシフトはしている」(十時CFO)とはいうものの、商品ミックスの改善を上回る影響が出てしまった、というところだろうか。
半導体だけでなくディスプレイパネルを含めた「戦略在庫」を用意してコントロールすることで、2021年度通期での見通しとしては、売上高・利益ともに、10月時点での予測を上方修正する形を目指している。
「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」がソニー・ピクチャーズ最大のヒットに
一方、ソニーG全体で見た時、今四半期の収益・利益の上積みに貢献した事業は、「映画」だった。
映画事業の売上高は4612億円で、前年同期比で141%(2701億円)増となった。
映画分野。コロナの影響を強く受けた2020年度に対し、大幅に増収増益。状況の変化だけでなく、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」という大ヒットに恵まれたのが大きい。
2021年度第3四半期決算説明資料より
この大幅な増収を支えたのが、アメリカで2021年末公開、日本でこの1月に公開となった映画「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」だった。2月1日時点での全世界興業成績は17億3900万ドル(約2000億円)で、いまだ記録更新中だ。現状でも、ソニー・ピクチャーズ始まって以来の大ヒットとなっている。
「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」は2月1日時点での17億3900万ドル(約2000億円)を売り上げ、ソニーの映画事業始まって以来のヒットに。
2021年度第3四半期決算説明資料より
2021年はコロナ禍が劇場を直撃していた特に厳しい時期で、その比較のためとりわけ大きく見える、という部分はあるだろう。だが、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」が大ヒットであることに変わりはなく、その影響力は凄まじい。
営業利益は1494 億円と、前年の203億円に比べこちらも大きく伸びている。ただし営業利益については、単純に映画のヒットだけでなく、ソニー・ピクチャーズ傘下であったモバイルゲーム会社・GSN Gamesの売却益(702億円)が含まれる。
こうした点を見ると、ソニーGは「コングロマリット経営」である利点に支えられていることがよくわかる。
Bungie買収の狙いは「IP」と「ライブゲーム」
今回の決算説明で印象深いのは、特にソニーの「投資戦略」についての説明だった。
1月31日、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、アメリカの大手ゲーム会社「Bungie」を36億ドル(約4140億円)で買収すると発表しているが、その背景が語られたのだ。
十時CFOは、Bungie買収について「IP(知的財産)の取得など、3つの柱がある」と説明する。
Bungie買収についての「3つの狙い」。
2021年度第3四半期決算説明資料より
ソニーGは2021年5月に発表した中期経営計画で、2023年度(2024年3月期)までの3年間で、「2兆円の戦略投資枠」を用意していると発表している。
そのうち、すでに取得完了もしくは意思決定済みの案件は約8500億円分。Bungieの買収もここに含まれる。全体で見ると、ゲーム分野・コンテンツIP取得に関する領域が多いのが分かる。
ソニーGは2021年4月以降、計画的に8500億円の「戦略買収」を進めており、2023年度中に総額2兆円を投資する。
2021年度第3四半期決算説明資料より
一方で十時CFOは、Bungieの買収は単純にIPを取得することが目的だったのではなく、別に強い狙いがあっての買収である、とも説明する。
その狙いとは「ライブゲーム・サービスへの貢献」だ。
ライブゲーム・サービスとは、いわゆるネットワークゲームの中でも、多くの人が同時に参加し、楽しむタイプのものを指すと思っていい。
以下のグラフは、2014年以降、世界全体でのゲームビジネスの売り上げ金額に関する統計だ。市場全体は12%成長したのだが、「ゲームのアドオンコンテンツ」は15%成長しており、実質的に、「ゲームをプレイするためにアドオンに投じたお金」が、市場の伸びを支えている形だ。
ソニーGが決算説明の中で示した統計。2014年以降のゲーム関連売り上げの推移をまとめたものだが、伸びているのはゲームの「追加コンテンツ」であるのがわかる。
2021年度第3四半期決算説明資料より
Bungieの現在の主力ゲーム「Destiny 2」は、基本プレイが無料で、追加コンテンツやゲーム内通貨に課金する「ライブゲーム・サービス」にあたる。前作「Destiny」を含めるとシリーズ全体で2014年以来、8年にわたり運営を続けており、多くのノウハウもある。
十時CFOは今回の決算説明のなかで、2025年までに「自社制作ゲームの売り上げを現在の2倍以上に拡大すること」「10タイトル以上のライブゲーム・サービスを立ち上げること」を宣言した。IPとライブゲーム・サービスのノウハウ両面という意味で、Bungieの買収がなければ実現は難しい。
こうした戦略は、先日発表された、米マイクロソフトによるActivision Blizzardの買収と同じ目的とも言える。ライバルの巨額買収の影響についてもコメントを求めたが、「まだ(買収作業が)終わった話ではなく、どういう変化が起きるかも読みづらいため、他社のM&Aの影響について、予断を持つのは避けたい」(十時CFO)とするにとどまった。
自動車事業・ソニーモビリティは「水平分業型」を前提に検討
CES2022プレスカンファレンスでSUV型の「VISION-S02」を世界初披露するソニーグループ会長兼社長の吉田憲一郎氏。
出典:CES2022プレスカンファレンス中継より
投資に関しては、記者・アナリストの間からは、CESで発表された「ソニーモビリティ」設立による、自動車事業への参入検討についても質問が多く出た。
2022年春、とだけ発表されているソニーモビリティの立ち上げ時期については、「まだ検討事項がある」として詳細なコメントを避けた。「参入を検討する段階。ソニーはまだ、自動車について学ばなければいけないことが多数ある」と前置きしつつ、十時CFOは方針を次のように語った。
「基本的にはパートナーとなる企業の方々との連携・提携を前提に、アセットライト戦略で進めていきたい。考え方として、自社単独で大規模な製造設備を持ったり、バッテリーを独自開発したりといった、キャピタル(資本)を多く必要とする形はとらない。それがない前提で、我々が掲げるビジョンを達成するためにはどうしたらいいか、という観点で、継続して検討していく」(十時CFO)
つまり、EV(電気自動車)を作るなら、部材メーカーや自動車関連メーカーと水平分業の形をとり、その上で、ネットワークサービスや得意とするセンサーを活かした走り味、車内エンターテイメントなどで独自性を出したい……という考え方だと推察できる。
(文・西田宗千佳)