米金融大手JPモルガン資産運用部門の最高投資責任者(CIO)は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めによる「大惨事」を予測する。
Spencer Platt/Getty Images
アメリカの株式市場は2009年以来最悪の1月を過ごした。
数十年ぶりの高いインフレ率に悩まされる経済の過熱に歯止めをかけようと、米連邦準備制度理事会(FRB)が資産購入を前倒し終了させ、利上げを急ぐなどのドラスティックな対策を計画していることを、投資家たちが認識した直後の下落だった。
この動きについて、米金融大手JPモルガン・チェースの資産運用部門JPモルガン・アセット・マネジメントのボブ・ミシェル最高投資責任者(CIO)は最近、Insiderのインタビューに応じ、「FRBの唐突なタカ派転換(の影響)はあまりに無力で、しかも遅すぎる」と語っている。
ミシェルは業界歴42年、7500億ドル(約86兆2500億円)以上の資産運用を手がけてきたベテランだ。
経済再開が始まった2021年5月時点で早くも、FRBはコロナ対策としての量的緩和を即時切り上げて金融正常化に動くべきと提言。その後もくり返し主張してきたものの、今日まで受け入れられなかった。
「FRBが2年前に量的緩和を通じて市場に供給した圧倒的な資金量を考えると、緩和を解除して正常化を実現しようとすることは、ただでさえ針の穴に糸を通すような難題でした。それがここまで後ろ倒しにされたことで、針の穴がさらに小さくなってしまった、さらなる難題になってしまったのです」
FF(フェデラル・ファンド)金利はゼロ近くに設定されたままで、住宅や自動車などを購入する際の借入コストがきわめて安く抑えられるため、消費が刺激される状況が続いている。
インフレの抑制には金利引き上げが必須とは言え、ペースを急ぎすぎても、タイミングが早すぎても、あるいはその両方であっても、経済を悪化させる可能性がある。
米シカゴ・マーカンタイル取引所などを運営するCMEグループの「FedWatch」ツール(=連邦公開市場委員会[FOMC]による政策金利変更の確率を視覚的に表示)によれば、市場は82%の確率で2022年末までに25ベーシスポイント(0.25%)の利上げが4〜6回行われると見込んでいる。
FRBは4回の利上げを希望している模様だが、それでは有意な成果を得られないというのが前出JPモルガンのミシェルの見方だ。
仮に自分に決定をまかせてもらえるなら、2022年に残されたFOMC会合で1回ずつ、計7回の利上げを行う、とミシェルは語る(ただし、FRBの利上げは実際には6回になると彼は予測する)。
ミシェルの分析では、アメリカ経済はいま板挟みで身動きのとれない状況にあり、遅くとも2024年あるいは25年までに景気後退に向かうのは避けられない。長期にわたる経済へのダメージを回避できるソフトランディングの可能性は低いという。
「インフレ率をあくまで目標とする2%まで抑えつけるどうか、FOMCはいま選択を迫られています。私の考えでは、この時点からそこまでの引き締めを目指すとなれば、FF金利を最大3%程度まで引き上げる必要があり、それは景気後退の引き金を引くことになると思います」
利上げという積極的なインフレ対抗策を打つ代わりに、経済成長とインフレを放置するという、現実には不可能に近い選択肢もないことはないが、結局のところそれにも深刻なリスクが伴う。
「その場合でも、インフレが強力すぎる逆風となり、やはり景気後退に陥る結末を迎える可能性が高いと思われます」(ミシェル)
パウエルFRB議長がどんな結論を下すにせよ、大惨事は避けられないというのがミシェルの考えだ。彼の目には、FRBはすでに(金融正常化の機会を幾度も逸するという)パウエル議長が犯した失敗を償うための困難な戦いのさなかにいると見えている。
「FRBが直面しているのは政策失敗のリスクではありません。2度目の失敗を犯すリスクなのです」(ミシェル)
景気後退リスクが高まるなか、資産をどう運用すべきか
コロナ危機に端を発する経済停滞へのFRBの過度な対応が、皮肉にも次なる景気後退を引き起こすというミシェルの見方が正しいとすれば、投資家は危機シナリオを乗り切る方策をあらかじめ想定しておかなければならない。
ミシェルによれば、米国債への投資は動きがなくて退屈だと言う人もいるが、市場が「恐ろしいほどひどい状況」のときにダウンサイド・プロテクション(=株価下落のネガティブな影響を抑制)として「嵐のなかの錨(いかり)」の役割を果たしてくれる。
米国債のインフレ調整後利回りは現状マイナスになるものの、その安定感は「心の平静」をもたらしてくれるとミシェルは語る。
また、それでも先行きを懸念する投資家は、現金、証券化商品、変動利付債をポートフォリオに組み込んでバランスをとるのも安心を得る方法だという。
現金は、利回りがほぼゼロなので、インフレ調整後のリターンは当然マイナスになり、プラス利回りの何かに投資する機会費用を考えれば、「どんなときも最も選択しにくい資金の行き先」ではある。
ただ、株式投資に目をくれず現金をひたすら手元に置いておく強い意志が必要とは言え、景気停滞時には他に劣後しない利益を得る方法と言える。
「市場はすでにインフレ率の上昇や中央銀行による金融引き締めの影響に絡め取られていて、の状況がすぐに解消されるとは思えません」(ミシェル)
景気後退をやり過ごす他の方法として、米国債より高い利回りで毎月元本償還が行われる証券化商品や、定期の利払い日前の金利水準によって利率が変動する変動利付債など、ポートフォリオのデュレーション(=資金の回収期間)を短くする投資も考えられる。
とりわけ変動利付債は、金利上昇局面で(固定利付債に対するアウトパフォームを期待できる)魅力的な投資先になるとミシェルは指摘する。
(翻訳・編集:川村力)