2021年9月22日、ロサンゼルスのウエストハリウッド地区で開催されたジョブフェアで、ジェイムソンズ・アイリッシュパブ(Jameson's Irish Pub)のブースに置かれた看板。
Marcio Jose Sanchez/AP Photo
- ヨーロッパ諸国と異なり、アメリカの雇用はパンデミック前の水準をまだ下回っている。
- ヨーロッパの労働者が休暇や所得補助を得た一方で、アメリカの労働者は解雇され、福利厚生が強化された。
- アメリカのやり方は労働者に仕事について再考させ、彼らを再び雇用することの難しさにつながったのかもしれない。
アメリカの労働者は、海の向こうの隣人と比べて仕事への復帰が遅れている。
それは、新型コロナウイルスのパンデミックの初期に解雇されてしまったショックで、仕事や人生について考え直したからかもしれない。一方、ヨーロッパの労働者は、通常一時的な休職にとどまるか、仕事を続けながら政府から所得の補填を受けることが一般的なことだった。
キャピタル・エコノミクス(Capital Economics)のニール・シアリング(Neil Shearing)のチームは、2022年2月1日付の文書で、アメリカとEU諸国の雇用回復がどのように推移してきたかを比較している。
彼らはアメリカの雇用がパンデミック以前の水準を下回っている理由は、そのシステムにあると強調している。アメリカは解雇時に労働者に大金を与えることを選択した。その結果が、仕事から何を得たいのか、あるいは仕事には戻りたくないのかを労働者が再考している、現在の雇用情勢に表れているのではないかと。
ヨーロッパでは、各国政府は労働者を一時的に休職させるか、補助金を使い収入を補うことを選択したとシアリングは言う。「このことは労働者を仕事につなぎとめ、全体的な雇用を維持するのに役立った」と彼は述べている。ヨーロッパでは雇用レベルは新型コロナウイルスのパンデミック前の水準を維持して「ほぼ横ばい」だ。
パンデミックが始まったときに何百万人もの労働者が職を失い、失業者が急増したアメリカはまったく違う。アメリカは一時休暇の代わりに、失業手当を強化して、労働者に直接救済を行ったのだ。アメリカ労働統計局(BLS)の調査では、2021年12月の新規雇用者数は19万9000人にとどまっている。BLSが退職者数のデータを発表した直近の月である2021年11月には、430万人が仕事を辞めた。シアリングによると、アメリカの雇用はパンデミック前より2%減少しているという。
「その結果、アメリカの雇用市場は大きく混乱した。雇用はパンデミック初期に落ち込んだが、企業は空いているポストを埋めることに苦労しており、部分的にしか回復していない」とシアリングは書いている。
解雇されたアメリカ人の中には、このような失業給付の強化により、起業したり、学校に戻ったりと、生活を変えることができたと以前Insiderに語った人もいる。これは、経済を席巻している「大いなる再考(Great Rethink)」の一部でもあり、「情熱を傾けられない仕事をするには、人生は短すぎる」という理由で仕事を辞める労働者が出てきている。
確かに、現在の人手不足にはさまざまな理由がある。人々は今でも新型コロナウイルスを恐れているし、過労を招く低賃金の仕事に終止符を打ちたがっている。そして賃金が低すぎる。歴史的なパンデミックの中で、保育の不足や低賃金といった制度的な要因が表面化しているが、これは間違いなく何年も前から起きていたことだ。
マサチューセッツ工科大学(MIT)、ドイツのケルン大学(University of Cologne)、イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics)、カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の経済学者による最近の研究で、ドイツの低賃金労働者は、他の場所での仕事の賃金水準を過小評価していることが示された。もし労働者が自分たちの仕事の価値を正確に知っていたら、ドイツでは低賃金の職の10%から17%は、現在の賃金では成り立たないという。なぜならば、労働者はその仕事を辞めたり、昇給を求めたりするからだ。
「現在の経済を読み解く方法のひとつは、これまで低賃金の仕事に甘んじていた多くの労働者たちが、他にもやれる仕事があるかもしれないと気づいたことだ」と、カリフォルニア大学バークレー校の経済学者で、この論文の著者の一人、ベンジャミン・ショーファー(Benjamin Schoefer)は以前Insiderに語っている。
この論文はドイツを対象にしているが、アメリカとドイツの経済には多くの共通点があるため、同様の洞察をアメリカの低賃金労働者にも適用できることが「合理的に推測できる」と、ショーファーは述べている。
「アメリカではパンデミック時に、人々が失業給付を当てにして仕事を辞めたので、おそらく離職率がかなり高かったのだろう」とショーファーは言う。
「一方、ドイツのような国では人々は仕事に留まり、政府は雇用主に人件費を補助していた。その結果、アメリカの離職率が非常に高く、より多くの組織の再編成の実験が行われているのかもしれない。これが、現在アメリカで退職者が多い理由だろう」
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)