2016年1月21日の日没時、ノースダコタ州ワトフォードシティ郊外の油井から燃え上がる天然ガスの炎。
Andrew Cullen/Reuters
- メタンの大量流出を示す地図によって、パイプラインから何トンもの温室効果ガスが放出されていることが明らかになった。
- 衛星画像によって、化石燃料を採掘する施設からメタンが大量に流出するホットスポットが捉えられた。
- 主にアメリカと西アジアにあるこれらのホットスポットでは、流出量の削減は簡単に達成できると考えられている。
メタン大量流出を示す新たな地図によって、各国が報告しているよりもはるかに多くの(おそらく2倍の)強力な温室効果ガスがパイプラインなどから流出していることが判明した。
メタンは強力な温室効果ガスであり、大気中の滞留時間は短いものの、大気中に熱をため込む力は二酸化炭素の30倍におよび、地球温暖化を引き起こす主要なガスのひとつだ。
人類が排出するメタンの4分の1は、燃料用の石炭、石油、天然ガスを採掘する際に発生する。そして油井や燃料を運ぶパイプラインからも時折、大量に流出すると考えられていた。
しかし、何千枚もの衛星画像を基に作成された新たな地図を分析したところ、研究者の予想をはるかに超える量のメタンが、化石燃料の採掘現場から人知れず日常的に流出していることが明らかになった。
アメリカでのメタンの大量流出を示す衛星画像。2019年9月25日撮影。
Kayrros, Inc.; Esri, HERE, Garmin, FAO, NOAA, USGS, © OpenStreetMap contributors, and the GIS User Community
フランス国立科学研究センター(CNRS)の温室効果ガスに関する研究者で、この地図の作成を主導したトマ・ローボー(Thomas Lauvaux)は、「当初はこのような大規模な流出源が毎日、世界中で見つかることになるとは思いもしなかった」とInsiderに述べている。
「至る所で漏れている」と彼は付け加えた。
「我々はいい仕事をしているとは言えない」
ローボーは国際研究チームを率いて、2019年から2020年まで欧州地球観測衛星センチネル 5Pから毎日送られてきた2年分のデータを分析した。その結果、1800カ所でメタンが大量流出していることがわかった。そのうち1200カ所は主にアメリカと西アジアにあり、石油やガスのパイプラインといった化石燃料の採掘と関連している。
青い線は主要なガスパイプライン、オレンジ色の点はメタンの流出源を示している。
© Kayrros Inc., Esri, HERE, Garmin, FAO, NOAA, USGS, OpenStreetMap contributors, and the GIS User Community
「これらの大量流出は極稀に起こるのだろうと思った。それらは特定の場所で起こる特定の出来事であり、ほとんど偶然だったのだと」
「しかし、まったく違った。非常にシステマチックで、パイプラインやコンプレッサーステーション、油井などの施設沿いで、何度も発生している」
ローボーは、このようなメタンの大量流出の多くは、定期的なメンテナンスによるものではないかと推測している。
「バルブを開けるとメタンを含む天然ガスが放出されるので、その間に修理が必要なものを修理できるということだ」
ローボーのチームは、CNRS、フランス原子力・代替エネルギー委員会(CEA)、データ分析会社Kayrrosの研究者で構成されている。彼らの研究論文が、学術誌「サイエンス」に2022年2月3日付けで掲載された。
衛星画像の分析と特定の場所でメタンを測定した一連の先行研究に基づいて、人間の活動により排出されるメタンは、政府発表のおよそ2倍に上るとローボーは推計している。
メタン大量流出を示す地図は「怖い」ものだが、またとないチャンスも示している
ロシア、アムール州のコンプレッサーステーションで、ガスパイプラインのそばを通る作業員。2019年11月29日撮影。
Maxim Shemetov/Reuters
地図に示されたメタンの大量流出による温室効果は、2000万台の自動車が1年間走行したときに放出する温室効果ガスの量に匹敵する。
「これは少し怖いことだ」とローボーは言う。
「大量流出は頻繁に発生するわけではないが、メタン流出の主要な要因となっている」
だが、これはまたとないチャンスでもある。もし、政府や化石燃料会社がこうした大量流出を止めれば、メタンの流出量を大きく減らすことができる。ルーティンとなっている流出を止めるのは簡単にできることであり、企業の経費削減にもつながると、ローボーは言う。
例えば、アメリカでは、日常的なメタンの放出をなくせば、1トン当たり250ドルの節約になると算出された。
メタンを大量流出させている主な国は、アメリカ、トルクメニスタン、ロシア、イランだ。一方、サウジアラビア、クウェート、イラクなどの産油国で流出が比較的少ないことにローボーは驚いたという。その理由は分かっておらず、今後の研究課題だという。
今回作成された地図は、1時間あたり25トン以上という大量のメタンが流出する場所をプロットしたものだが、それでも化石燃料産業からの全流出量のわずか10分の1程度しか表していないと推計され、衛星が検知できないような小規模な流出の方が、ずっと多いと考えられている。
さらに、アメリカの主要なガス田であるパーミアン・ベースンでは、複数の流出源が衛星画像で重なって写り、個別の流出源が判別できないため、分析対象から外さざるを得なかった。
「我々は、想像以上に多くの仕事をしなければならない」とローボーは述べた。
「それは間違いないことだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)