今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
相談者は30代女性。お悩みはご自身のことではなく、お子さんのことです。
終身雇用が崩れていく一方で、70代まで働く未来が現実的になってきている昨今。子どもたちが社会に出る頃にはさらに厳しい環境になっているのでは……と、不安を抱いていらっしゃいます。
これからの時代に欠かせない「自走力」
Aさんもおっしゃるとおり、今、急激な環境変化にさらされ、キャリアや転職で迷子状態になる方が増えています。
最近ニュースでもよく見るように、業績好調な企業でも将来を見据えて組織体制を再編する「黒字リストラ」が活発化しています。
「大手企業に入れば一生安泰」の価値観の環境で育ち、新卒入社した1社で20年、30年と勤務してきた方々が、今、変化への対応を迫られている状況です。
私はそうした方々の転職サポートも行っていますが、新たなセカンドキャリアを前向きに築いていける方と、思考停止・行動停止に陥ってしまう方とに分かれます。
もちろん、ミドルシニア層だけでなく、20~30代であっても、キャリアを開拓していく力には差があります。
変化の局面で強さを発揮できるかどうかは、それまでの働き方のスタンスに表れています。
- 上長からの指示に従い、決められた仕組みやルールを忠実に守ってオペレーションを遂行してきただけの人は弱い
- 自ら課題を探して発見し、その解決に取り組んできた人、新たなプロジェクトを起案して自ら推進してきた人は強い
つまり、大切なのは「自走力」です。
周囲からお膳立てをしてもらわなくても、細かく指示をされなくても、自発的に考えて行動を起こせる力を備えておくことが大切です。
これは、私の友人が最近理事長に就任した学園の事例です。
その学園では決まった学習プログラムがなく、生徒自身が取り組みたいテーマを決め、プロジェクト単位で活動を行うそうです。さまざまなルールを決めるのも生徒たち。
その学園の卒業生は、JAXA、パイロット、外交官、起業家などとして活躍しているそうです。
枠にはめられた環境よりも、自由な環境のほうが、能力が開発されやすいのだろうと思います。
では、「自走力」を子どもの頃から養うには、どうすればいいのでしょうか。
Aさんのように「習い事」を検討している方も多いと思いますが、ジャンルにかかわらず「指導方法」に注目するといいかと思います。
最初から最後まで手取り足取り教えてくれて、授業のプログラムが計画通りに遂行されて、取り組むテーマもペースもすべて先生がコントロールするようなタイプの塾・教室よりも、基礎だけ教えたらある程度自由にやらせてくれる塾・教室のほうがいいと思います。
子ども本人が考えて主体的に活動し、先生はそれを一定の距離をとって見守る。そして、必要な場面でのみ、本人が立てた目標を達成できるようにサポートする——そのような指導スタンスの塾・教室がおすすめです。
自分がやりたいことを自分で考え、チャレンジするテーマを決め、自分のペースで取り組む。子どもは、自分自身で目標とするイメージを描けているので、途中うまくいかなくても、どうすればうまくいくかを考えて工夫するようになります。
実は私は、長男が小学校低学年の頃、日替わりでさまざまな習い事をさせた時期がありました。ところが、彼は途中で爆発してしまいました。「ママがやらせたい習い事ばかり。もう嫌だ!やめる!」と。
「じゃあ、残したいものだけ残そう」ということになり、本人が自ら選んで通い続けたのが図工教室でした。
その教室では、先生が「今日はこれを作りましょう」と、見本を見せて作り方を教えることは一切しません。本人が作りたいものを決めて、先生はそれをサポートするスタイルです。
本人はその教室がとても気に入り、1人でバスに乗って通わなければならないにもかかわらず、雨の日も雪の日も休むことはありませんでした。
「やらされるもの」と「やりたいもの」とでは、こんなに違うのか……と実感しました。
おそらく彼は、自分で目標を決めて、それを達成する喜びを味わい、自信をつける体験をしたのではないでしょうか。
小学校6年生になると、自ら「この付属校に行きたい! 中学受験する」と言い出し(私たち親は公立を想定していたのですが……)、受験勉強に臨みました。
結果、残念ながら第一志望には入学が叶わず、第二志望の学校に進学。それでも、「置かれた場所で咲きなさい」の言葉どおり、その学校の環境だからこそできることを見つけ、充実した学生生活を送っています。
ちなみに、長男は6年生の途中で塾に通うのをやめ、家庭教師の先生と自学で受験を乗り切りました。家庭教師の先生の方針もあり、学習内容は大枠の目標地点とロードマップだけ決めて、あとは自分のペースで受験勉強を進めたのです。
あえて細かい指示を受けず、マイルストーンの到達度を意識して勉強していたおかげで、中学以降の定期テスト時には、自分で計画を立て教科ごとの習熟度で濃淡をつけながら学習する習慣が身についていました。
好きなこと、興味があることに取り組む中で、「自ら目標設定する」→「達成するためにどうすればいいか考える」という習慣・能力が身につけば……成長して社会人になり、仮に逆境にさらされたとしても、自分で目標を見つけて自走していけるのではないかと思います。
ちなみに、習い事に関しては、周囲のママからこんな声を聞くことがあります。
「子どもが自分から『やりたい』と言い出したので習わせたが、短期間で『やめたい』と……。『他にやりたいものを探せばいい』とやめさせるのか、『自分で決めたことなんだから、やり抜くことが大事』と続けさせるのか、どちらの対応をすべきか悩む」
これは本当に悩みますね。本当にやりたいテーマに出合うことで大きく成長するお子さんもいれば、嫌々ながらでも継続することで才能が開花するお子さんもいて、こればかりは個人差がありますから。
私個人の考えとしては、子どもが自分から「やりたい」と言ったものを続けさせる目安は、基本的には「1年間」かな、と思います。1年間やってみて本格的に火が点かないものは、やはり違うのかな、と。
本当に好きなものは、下手でもなんでも、目の色を変えてやりますね。チャレンジ精神が育ちやすいと思います。
子どもは自分の感性に素直なので、それを大事にしてあげるといいと思います。
「心理的安全性」があれば、子どもはチャレンジできる
子どもが主体的にチャレンジしていけるようになるためには、一つ大切なキーワードがあります。
「心理的安全性」です。
心理的安全性については、チームマネジメントや部下のマネジメントにおいて意識して取り入れたいものとして、この連載でも何度かお話ししてきました。
心理的安全性とは、他者からの反応に恐怖心や羞恥心などを感じることなく、ありのままの自分をさらけ出せる状態。
組織に所属するメンバーが、「このチームなら自分の考えや行動を受け入れてくれる」という安心感を持てれば、積極的に行動できるようになる……ということです。
これは、組織を「家庭」、上司を「親」と考えれば、子どもにも当てはまります。
「失敗したとしても、ここに帰ってくれば受け入れてもらえる。自分を信じてもらえている」という安心感。
そのような心理的に安全な環境があってこそ、子どもはチャレンジすることができます。そして、主体的なチャレンジの体験から学び、自走力を身につけて、その後の人生でもチャレンジを繰り返していけると思います。
実は私自身も子どもの問題で思い悩み、手がかりを求めて多くの書籍を読んできました。
その中から取り入れたのは、「ずっと子どものそばにいて守ってあげる必要はない」という考え方です。
それよりも大切なのは「親がご機嫌でいること」。親が生き生きと、幸せそうにしていれば、それだけでも子どもにとっては心理的安全な環境となります。
そんな安心安全な環境をつくることを、私自身も心がけていきたいと考えています。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第71回は、2月21日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。