スタジアムは誰のもの? 日本とアメリカで「スポーツビジネスの収益力」に大差がつく理由

2017年に文部科学省・スポーツ庁が策定した第2期「スポーツ基本計画」。スポーツ参画人口の拡大と「一億総スポーツ社会」実現に向けた取り組みだ。

その計画の中核となるのが、スタジアムやアリーナといったスポーツを中心としたイベントを実施するスペース。街の賑わいの創出や収益化を行っていくことは、必要不可欠な要素だ。

このスタジアム・アリーナを中心としたスポーツビジネスを日本に根付かせるためには、どのような視点が必要なのか。ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社代表の鈴木友也氏とスポーツソリューションを提供するパナソニック エレクトリックワークス社 マーケティング本部 スポーツビジネス推進部部長の宮本勝文氏の二人に、スポーツビジネスの未来について語ってもらった。

現在の日本のスポーツビジネスが抱えている課題

スタジアムの上空画像

なぜ日本のスポーツビジネスは欧米並みの規模にならないのか。そのひとつの要因として鈴木氏が挙げるのが、企業がスポーツチームを保有・運営している点だ。

「企業がチームを持つことは、スポーツが社会の公共財として長く維持しやすいというメリットがあります。一方で、企業の思惑でスポーツの運営方針が左右されてしまうというのはデメリットと言えます」(鈴木氏)

欧米では古くから、芸術家などを個人が支援するパトロンという文化があったため、「個人がスポーツチームを持つ」という流れになっている。スポーツチームを持つことがひとつのステータスとなり、個人の価値を押し上げる。

宮本氏は、企業スポーツは文化とは別な側面で発展してきたが、経済価値という点では発展しきれていないと考察している。

「我々が行っている企業スポーツは、文化というよりは社員の高揚や一体感を形成するためのものだと思っています。しかし、それだけでは経済合理性の面で、チームにかけた運営費の経済価値とはなんぞや?ということになってしまいます」(宮本氏)

そこで日本のスポーツチームが行っているのが、スポンサーの獲得。JリーグやB.LEAGUEでは成立している部分があるが、ラグビーなどのスポーツではまだその域に達していない。

「スポーツチームが企業に属していると企業の業績や考え方ひとつでチームがなくなってしまうことがあります。このようなことをなくすためにも、スポーツ自体のバリューを上げることはもちろん、観客収入だけではなく、街に溶け込み街全体のバリューを上げるような取り組みが必要だと感じています」(宮本氏)

このような考え方は欧米ではかなり進んでいる。欧米のスポーツ選手は、試合に勝つことはもちろん、地域貢献や地域活性の活動にも積極的だ。

「ただ試合を見に来てもらうだけの関係ではビジネスとしては不安定です。地元の住民と絆を作り、損得勘定を超えた強いファン基盤を根付かせていかなくてはいけないと思います」(鈴木氏)

試合観戦を主目的として来場するファンは3人に1人。欧米との視点の大きな違いは顧客の捉え方

鈴木友也氏

鈴木友也(すずき・ともや)氏/トランスインサイト株式会社創業者・代表。1973年東京都生まれ。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、 米マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経営学修士)。在米21年。

日本のスポーツ界も社会貢献、地域貢献という意識は高まっており、積極的に活動するチームが増えてきている。これらの活動がソフトウェア面とすれば、スタジアムやアリーナというハードウェア面は変化しているのだろうか。

「日本は、歴史的にスポーツは教育の一環とされています。なので、スポーツ施設も基本的にはスポーツを「する人」の心身鍛錬のための施設であるという考え方が強くありました。しかし近年のスタジアム・アリーナ改革でコストセンターからプロフィットセンターへの変化を標榜しており、もっとお客さん、つまり「観る人」を意識しようという動きになってきています」(鈴木氏)

具体的に、アメリカのスタジアムの位置付けは日本とは考え方が大きく違う。もっとも違うのは想定している顧客だ。

「日本では、その競技やチームを好きな人を主要顧客に想定しますが、アメリカの場合はそれだけではありません。

いくつかのペルソナを設定しており、日本と同様の競技やそのチームを好きな人は全体の1/3、競技やチームも好きでさらにスタジアムやアリーナに来ることも好きな人というのが1/3で、残りの1/3は競技やチームに興味がないけれどスタジアムやアリーナに来るのが好きな人なんです。

イメージ的には日本のお祭りや縁日のようにして、競技に興味のない家族や子どもも楽しめる、そういう空間の作り方をしていますね」(鈴木氏)

宮本氏も、日本のスポーツ観戦の楽しみ方を変えていかなければならないと考えている。これまでは「勝利至上主義」の面が強かったが、これからファンエンゲージメントの必要性を感じている。

宮本勝文氏

宮本勝文(みやもと・かつふみ)氏/パナソニック エレクトリックワークス社 マーケティング本部 スポーツビジネス推進部部長。1966年、大阪府生まれ。同志社大学を卒業後、1988年に三洋電機に入社。ラグビー日本代表として、第1回・2回ワールドカップに出場し、三洋電機ワイルドナイツ監督(現 埼玉パナソニックワイルドナイツ)や、同志社大学ラグビー部監督を歴任。現役引退後は社業に邁進し、三洋電機の執行役員やパナソニック・ライティング・ヨーロッパ社長などの経歴を経て、2020年より、現職。

「競技やチームのコアファンだけでなく、コアファンが満足して帰って、友だちや家族とまた一緒に来たいと思うようなスタジアム・アリーナが必要なのではないかと思っています」(宮本氏)

パナソニック エレクトリックワークス社では、照明を使った演出や、より競技者に快適にプレイしてもらうための競技用照明の導入など、テクノロジーを活用したソリューションを提供している。例として、同社が照明システムを納入しているFLAT HACHINOHE(フラット八戸)が挙げられる。

「競技者用の照明では、選手がまぶしくなく、観客から見てコートが浮かび上がって見えるようにすることで、選手にも観客にもメリットのある照明機材の導入をしています。また、映像や音楽と連動することで、さらに臨場感を高めるような照明演出も行っています。

そこに周辺の街全体のにぎわい創出ということで、今後はスタジアムやアリーナの中と外を連携した演出なども提案していきたいと思っています」(宮本氏)

ラグビーが街全体の価値を引き上げた、埼玉県の取組みから見えるスポーツビジネスの可能性

ラグビー場の上空写真

提供:パナソニック

パナソニックのラグビーチーム、パナソニックワイルドナイツは、2021年9月に本拠地を群馬県から埼玉県熊谷市の熊谷ラグビー場に移転し、街のにぎわいを作り出している

このラグビー場は市営公園の中にあり、ラグビー場の横にはクラブハウスと練習場とホテルを建設。ホテルから練習場が見えるので、ファンはホテルで食事をしながら選手の練習風景を見られる。これらはすべて民間の業者が運営。敷地は市営公園となっている。

また、近隣にスポーツクリニックを招致したほか、レンタサイクル「ワイルドナイツサイクルステーション」を運営。こちらも民営だ。

ワイルドナイツというラグビーチームを中心に、熊谷の街のにぎわいを作り出しているのだ。

「ラグビーによる街の活性化、バリューアップにつなげようといろいろと行っています。次にやりたいのは、試合時の演出ですね。成功事例を作って他の自治体にも展開していけたらと思っています」(宮本氏)

スタジアムの外側も演出。「街のにぎわい」や「人の流れ」を創り出す照明技術

証明システムの写真

提供:パナソニック

街のにぎわい創出という面では、パナソニック エレクトリックワークス社の照明システムにも期待が集まっている。

同社はクラウドを介してライブの音を自動的に光に変換してライトアップする実証実験を行っている。これが実用化されれば、スポーツの試合で盛り上がった瞬間にスタジアム外のライトアップを自動的に変化させるなど、スタジアムの外にも演出の幅を広げることができる。

あかりの写真

提供:パナソニック

もうひとつ注目の技術が「アフォーダンスライティング」だ。これは、通行人や観客などの行動を誘発する照明システムだ。

「これは人の心理や行動に働きかける照明演出です。光に色やゆらぎの演出をすることで、試合後の混雑を解消したり、逆にその場にとどまらせたりといろいろな可能性があります」(宮本氏)

実はアメリカでは、スタジアムの周りは意外と地味だという。

「ここまで繊細なライティングは米国ではあまり見かけません。スタジアム内をド派手な照明にするというのはよくあるんですが、スタジアム周辺をライトアップするという発想はアメリカでは希薄なので、日本から広げていくチャンスかもしれませんね」(鈴木氏)

スポーツビジネスのキーワードは「バリューアップ」

日本のスポーツビジネスと、地域活性。両氏はどのような展望を持っているのだろうか。宮本氏は「バリューアップ」をキーワードに掲げた。

「スポーツ基本計画では、スポーツ市場の規模を2025年までに15兆円規模にすると言っていますが、このままでは絵に描いた餅になってしまうでしょう。当社のソリューションを成功させて、スポーツの発展につなげたいと思っています。スポーツがバリューアップしていかなければ、地域活性化にもつながりません。スポーツを見る人たちにとって、楽しいと思える空間を作っていきたいと思います」(宮本氏)

鈴木氏は、競技観戦以外の来場体験の拡充がポイントで、テクノロジーによるサービス向上には大きな可能性があると語る。

「テクノロジーを使って、より来場者にサービスを厚く提供していく時代になるでしょう。AIやクラウドを駆使して、チケット購入者、来場者、店舗の混み具合や販売状況、駐車場や周辺の交通情報、天気など、全ての情報をつなげて、リアルタイムで全部分かるようになる。

並んでいる個人を顔認識して飲食店舗で表示するメニューを変えたり、スタジアム内の商機やトラブルをいち早く検知して係員がすぐに駆けつけて対応したりと、テクノロジーを導入してよりきめ細かいサービスが可能になるでしょう」(鈴木氏)

また、スポーツのバリューアップが必須だという点は鈴木氏も同様だ。

「スポーツがビジネスとして成立し、商業的な価値を作り出していくところがまず第一歩。その先に、その街や地域、個人の人生に蓄積されていく社会資本的な価値があると、スポーツの位置付けは大きく変わると思います。スポーツは安心感や人とのつながりを提供したり、プライドを支えてくれる存在になったりします。それに気付いて価値を高めていければいいのではと思います」(鈴木氏)

スポーツのバリューアップ。その第一歩としてパナソニック エレクトリックワークス社が取り組んでいるように、スタジアム・アリーナをハブとした地域活性はとても重要だ。

スポーツをやる人もやらない人も、興味がある人もない人も、すべての人がスポーツによって幸せになれる社会。それが究極の理想といえるだろう。


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